4.猫娘バイトの面接を受ける
結局、先輩の里見由梨香に勧められて、同級生の雨月翠と一緒に「猫耳メイドカフエ」の面接を受ける事になったのだ。
「先輩はどうして、そんな所を知っているんですか? もしかしてそこで既にバイトしているのですか?」
美弥の疑問に由梨香は笑いながら
「ううん、私がバイトしてるのは『ドッグカフェ』よ」
「『ドッグカフェ』ですか!」
「そう、一見普通の喫茶店なんだけど、店内に色々な種類のワンちゃんが居るのよ。お客さんはそのワンちゃんと一緒にお茶も飲めるし、『お遊びコーナー』では戯れる事も出来るのよ。私はそこでウエイトレス兼ワンちゃんの世話をしてるのよ。その店のオーナーが姉妹店で『猫耳メイドカフエ』を出したのよ」
「ああ、そうだったんですか、それで……」
納得した美弥に由梨香は
「オーナーに頼まれていたのよ。『誰か猫耳カチューシャが似合う娘を紹介して欲しい』って」
「それで、私を……」
「そうよ。だってカチューシャなんか要らないじゃない。本物があるんだもの」
由梨香に言われて、一々納得する美弥だった。今日は土曜日で、学校が終わった美弥と由梨香と翠は由梨香の勧める「猫耳メイドカフエ」に面接に行く所だった。
「お店って何処にあるんですか?」
一緒に歩いていた翠が由梨香に尋ねる
「アキバよ。寮や学校からも近いでしょう。私の「ドッグカフェ」も傍にあるのよ。寮から歩いて十五分ぐらいかな。いいでしょう!」
美弥は、そんなに近いなら、いずれ知り合いに判ってしまうかも知れないと思った。
「大丈夫、学校の皆とは住む世界が違うし、アキバよ。どれだけの人が居ると思ってるの!」
佐賀から出てきて幾らも経っていない美弥にはアキバと言う街がどのような街であるか未だ判っていなかった。
学校が終わり寮に帰って昼食を採ると由梨香の案内でアキバまで歩いて来たのだった。美弥は歩く人の多さに圧倒されていた。上京の時に東京駅や地下鉄の駅で沢山の人々を見てはいたが、それは電車と言う乗り物に乗る為に人が集まって来ているからだと思っていたのだ。まさか、街中でこれほどの人が歩いていようとは思わなかった。
「先輩、今日はこの街、お祭りでもあるんですか? それに歩いている男の人が皆同じ様な感じなのですが……」
その言葉を聞いて由梨香も翠も笑いを堪えてしまった。今どき、幾ら地方出身者でも「お祭り」は無いだろうと思ったからだ。ちなみに翠は東京の生まれだが両親が外国勤務となったので清聖の寮に入ったのだった。
「美弥ちゃん……あなた、本当に箱入り娘だったのね。ここは東京のアキバよ。今や世界中から人が来る街なのよ」
美弥は由梨香の言葉を聞いて、それなら出雲の神様の情報も手に入るのではないかと思った。
「翠ちゃんは、東京の何処の生まれなの?」
美弥はそう言えば翠の今までの事は殆んど何も知らない事を思い出した。
「私は神田の生まれよ。神田明神の氏子なの。アキバの隣街よ」
「うわ! じゃあ、ちゃきちゃきの江戸っ子なのね!」
「まあ。そうだけど、神田明神は平将門様をお祀りしているのよ。知ってるでしょう? 大手町の首塚とか、祟とか」
美弥は歴史が好きだったので、そのあたりの事は知ってはいたが、それと翠とどう繋がるのか判らなかった。
「つまりね、将門様の祟を封じ込めるには人間だけでは足りなかったと言う事なの。私達の様な半妖怪の力が必要だったのよ。そう言う事!」
なるほど、美弥は思った。詳しくは判らないが雨月家では神社にそれなりの事をしているのだと理解した。美弥の鍋島家でも猫又の祟を封じる為に色々な事をやっていたからだ。
「さあ、着いたわよ。店長には連絡してあるから行きましょう!」
表通りから少し入った裏通りの一角にある、一見何でも無い感じの雑居ビルに由梨香が入って行った。エレベーターで三階に上がる。
「さあ、ここよ」
入り口を開けると店内は明るく白を基調にピンクの模様が描かれていて、壁には猫に関する色々なタベストリーや絵画が掛かっていた。その中で働いている娘を見ると、頭にはそれぞれの色の猫耳カチューシャを付けており、黒のメイド服に白いエプロン、それに胸には各自猫耳と同じ色の大きなリボンをしていた。
「店長さん。お話の後輩を連れて来ました。面接をお願いします」
由梨香が声を掛けると店の奥から背の高い痩せた三十歳位の男が出て来た。身なりは店長らしく白いシャツに黒の蝶ネクタイをしており、黒いズボンを履いていた。
「やあ、由梨香ちゃん。オーナーから連絡貰っているよ。その二人の娘がそうかい? どうぞこちらへ」
店長に言われて美弥と翠の二人は前へ出て来て、挨拶をした
「初めまして、清聖女子校一年の鍋島美弥です」
「同じく、雨月翠です」
二人は書いて来た履歴書を手渡した。
「そこに座って下さい」
言われて三人は用意されていた椅子に腰掛けた。店長は二枚の書類を眺めながら
「まあ、これはね、里見さんの紹介だから形だけだけどね。それより仕事の内容を説明しましょう。あそこで働いている先輩を見て貰えば判るけど、制服を着て貰います、それとウチが他と違うのは、頭に『猫耳カチューシャ』を着けて貰います。それはいいですね?」
店長の問いかけに翠はそのまま「ハイ」と返事をしたが美弥は
「あのう、猫耳ですが自分のでは駄目ですか?」
「自分の? ……とは?」
「これですニャ!」
美弥は艶やかな髪の毛の間から可愛いらしい黒い猫の耳を出してみせた。それを見た店長は
「す、素晴らしい! パーフェクトです! 今までこんなに『猫耳カチューシャ』が似合う娘を見た事がありません! 採用です! 直ぐに明日からでも来て欲しいです!」
隣では由梨香と翠がお腹を抱えて笑っている。
「似合うも何も本物何だから……」
「それ言っちゃ駄目、翠ちゃん!」
興奮している店長、恥ずかしがる美弥。お腹を抱えて笑う由梨香と翠。他のバイトの娘は何が起こったのか理解出来なかった。
やっと静まってから店長が店のコンセプトを話しだした。
「ウチはですね。『女の子がみんな猫になってしまう魔法をかけられてしまった国』と言う設定なのです。だから他の店のようにオムライスの上にケチャップで絵を書いたりしなくても良いのです。勿論お客様が希望で、あなた方が書いてみたければ構いません。それに『美味しくなあ~れ萌え萌えきゅん!』と言うセリフは必要ありません。その代わり、あなた方は子猫ちゃんですから、言葉に~ニャ、とか~ニャンと付けて話して下さい。それ以外は先輩達が指導します。難しい事はありません。オーダーを受けて、中に通して、出来たらそれをお客様に届けて、お客様には猫娘との会話を楽しんで戴くのが店の方針です」
そんな事を伝えられて二人は目出度く採用となった。時給は一時間1200円だそうで、これは他より高いのだそうだ。それと時間だが基本的に現役高校生なので、平日は学校の授業が終わった午四後時から八時までとした。土日は午後二時から七時までで、日曜日は休みとなった。これは、シフトで変わる可能性もあるとの事だった。
学校にアルバイトをする旨の書類を提出して許可が降り次第働きに行く事となった。