2.猫娘入寮する
「清聖女子校寮」と書かれた門には鉄の門扉が付けられていて、よく見るとその模様は「清聖」の校章をデザインしたものらしかった。押してみると鍵は掛かっておらず、簡単に開いた。
美弥は寮の敷地内に入ると寮の玄関に向けて歩き出した。その奥には近代的で瀟洒な建物が立っていた。
「うわ! 思っていたよりもお洒落な建物だニヤ」
白を基調とした建物はいかにも女子高生が暮らすのに相応しい感じがした。その入口はマンション等と同じで部屋番号を入力して部屋の中から開けて貰うシステムで、それ以外では入り口の横にある小部屋に居る管理人さん(この場合は寮長さん)にお願いして開けて貰う仕組みらしかった。
美弥は、管理人さんに
「こんにちは~ 今年度から清聖に入学いたします鍋島美弥と申します。今日から入寮するためにやって参りました」
すると、部屋の中に居た寮長さんは
「ああ、聞いていますよ。鍋島さんですね。一応、入学許可書と入寮許可書を見せて戴けますか? 決まりなもので……」
そう言って玄関の所まで出て来てくれた。歳の頃なら四十前後の品の良い女性だったが、身長が高く百七十センチは越えているだろうと思われた。
「あ、はい、用意して来ました」
美弥はそう言ってカバンから二枚の書類をだして寮長に見せた。彼女はそれを確認すると
「はい結構です。ようこそ清聖に! 私はこの寮の寮長の高井奈美子です。どうぞ宜しくお願い致します。鍋島さんの荷持はもう到着しています。取り敢えず私が運び込みました。後で確認して下さい。これが荷物の送り状とサインした書類です」
「あ、ありがとうございます。助かりました。部屋は何処でしょうか?」
肝心な事を訊いていなかったと尋ねると高井は
「一階の15号室です。突き当りになります。それから、部屋の大きさは8畳です。基本的には一人一部屋となっていて、室内には簡単な事が出来る小さなキッチンがありますが、基本的に食事はダイニングで採って戴きます。学校がある場合は朝と夜。休みの日は朝だけが出ます。学校がある日は全日にお弁当を希望者には受付ます。休日は昼と夜は各自用意してください。今の期間は春休みで寮生の殆んどが実家に帰省していますので、朝しか出ません。今夜は外に食べに行くか、コンビニなどで用意してください。それから門限は23時です。高校生としては遅いですが、これはアルバイトや部活をしている生徒を考慮しての事です」
「アルバイトが出来るんですか?」
美弥は驚いた。清聖はどちらかと言うとお嬢さん学校だ。基本的にバイトは許可させないと思っていた。
「清聖はアルバイトは公認です。但し、高校生らしいとの制限つきです」
勿論だと美弥は思った。それに高校生らしくないバイトとは、いったい何だろうと思うのだった。
「浴場は一階にある大浴場を使って戴きます。各部屋に簡易シャワールームがありますが、それらは時間外の場合に使用してください」
「浴場の時間はどうなっていますか?」
「基本的に午後5時~午後11時半までです。門限の時間を考慮してあります。それから休み等で旅行や実家に帰る場合は『外泊許可』を取ってください。以上が規約です。ここに今言った事が書かれています。落ち着いたらもう一度目を通してください。それではこれが15号室の鍵です。失くさないようにしてください。すぐに複製を作っておく事をお勧めします」
「ありがとうございました」
美弥は高井から注意事項を書いた用紙を受け取ると、彼女に礼を言って寮の中に入って行った。長い廊下の突き当りに「15号室」と書かれた白いドアが見えて来た。
鍵を差し込んで廻すと「ガチャリ」と音がしてドアノブを押すとドアが開いた。室内は思ったより明るく、夕方の光が差し込んでいた。ワンルームマンションのような感じがした。
部屋の中央には美弥が佐賀から送った荷物が置かれていた。これは明日からゆっくりと開いて行けば良い。入学式までは一週間あるのだから焦る必要は無かった。それに、落ち着いたら、アルバイトをするつもりになっていた。出雲の神様を探すなら、賑やかな場所でウエイトレスなどの接客業がいいと思った。新しい情報が入るのではと思ったのだ。だが、とりあえす今夜は何か買ってこなければと思っていた。もうすぐ陽が暮れる……
その時だった。ドアが叩かれた。誰だろうと思って開けて見ると、髪の長い小柄な少女が立っていた。
「あ、こんにちは。今日から入寮した鍋島、鍋島美弥です。宜しくお願い致します」
自己紹介をして頭を下げると髪の長い小柄な少女は
「初めまして、四月から清聖女子校二年になった、里見由梨香です。宜しくお願いしますね。隣部屋なのよ」
「そうなんですか! 本当に宜しくお願い致します。先輩ですね。色々と教えて下さい!」
美弥が頭を下げて頼み込むと由梨香は笑って
「私こそ、隣が可愛い子で良かったと思ったわ。ところで、今日入寮したばかりで、何も判らないでしょう? 良かったらこれから一緒に食事しない? 他にも帰省していない娘を呼んで来るから」
美弥はそれを聞いて、この寮は思ったより良い人ばかりが住んでいるのだと思った。
「宜しいんですか? 何だか申し訳無いです」
「そんな事無いわよ。遠慮しなくて良いのよ。お互い持ちつ持たれつよ。何かで私が世話になる事もあるかも知れないしね。さあ、いらっしゃい!」
「はい! ありがとうございます!」
こうして、美弥は隣の十六号室にやって来た。部屋の作りは同じだが、押入れとかキッチンやシャワールームの作りが反対になっている。それ以外は全く同じだった。
部屋に通されて座っていると、やがて二人の生徒がやって来た。一人は大柄な娘で名前を、但馬麗華と言って三年生で、もう一人は美弥と同じ一年生で雨月翠と名乗った。なんでも一昨日入寮したのだと言う。
「先輩、それから雨月さんも宜しくお願い致します」
こうして、入寮して最初の日が過ぎようとしていた。