14.猫娘意識する
美弥は達也に抱き抱えられるような格好で何回かウオータースライダーを楽しんでいた。美弥は何時のまにか達也を信頼するようになっていて、この遊びが楽しいものだと思い始めていた。
自分の苦手な水中での事に関して達也は本当に信頼出来た。何より達也と一緒だと不安が取り除かれるのを感じるのだった。
「達也さん、いっぱい滑ったから、ちょっと休みたいニャ」
「そうだね。一休みしようか」
二人はプールサイドにある休憩所を兼ねたカフェに行く事にした。ここでは入場する時にタグの付いたリストバンドを渡され、場内ではキャッシュレスで飲み食い出来るようになっていて、帰りに精算するシステムだった。
「美弥ちゃんは何を飲む?」
「う~んと、飲むよりフラッペが食べたいニャ」
「そう、じゃあ僕もフラッペにしようかな。それで何にする?」
「私はミルクがいいニャ」
「じゃあ僕は抹茶あずきにしようかな」
「それも美味しいニャ」
「半分こしようか?」
「それが良いニャ嬉しいニャ」
支払をしようとすると達也が
「僕が払うよ。美弥ちゃんは気にしないで」
「でも悪いニャ」
「もっと大きな金額なら割り勘って事もあるけど、このぐらいなら心配しないで」
そこまで言ってくれるなら美弥はご馳走になる事にした。
「ありがとうニャン」
「どういたしまして」
笑った達也の笑顔が美弥にはとても好ましく見えた。
美弥がミルク、達也が抹茶あずきを手に持ち、二人は本物かどうか判らない南国の植物の木の陰に場所を取った。
一口サクサクの氷をスプーンですくって口に入れる。冷たく甘い感触が口いっぱいに広がって行く。火照った体に心地よかった。
「美味しいニャ」
「うん」、美味しいね。泳いでいて結構体力を使っているから甘いものが美味しく感じるんだね」
達也の冷静な分析に美弥は感心する
『達也さんはきっと頭が良いニャ』
美弥は益々達也に好感を持つのだった。
一方、流れるプールで泳いでいた由梨香と翠の方は……
「由梨香先輩、男子の影がありませんねえ」
「そうねえ、皆何処に行ってしまったんでしょうね」
「声を掛けられるのを待つより、こっちから声を掛けましょうか?」
「それもねえ……なんか物欲しそうだしねえ……」
「でも美弥に相手がすぐ出来たのは意外でした」
「あら、美弥ちゃん不思議な可愛さがあるからね」
「貧乳でもですか」
「それが好みとか気にならない男子も居るのよ」
「そんなもんですかねえ~胸なら麗華先輩には負けるけど、美弥には楽勝なんですけどね」
「人は胸のみにて……何とかね」
二人がそんな事を言って浮き輪に載って流れて行くと、プールの前の方で人だかりがして流れが止まっていた。
「何かしらね?」
やがて二人がその場に着くと何だか喧嘩をしているようである。
喧嘩をしている二人の言い分を聞いていると、どうやら片方が、流れるプールで彼女と泳いでいるともう片方が彼女の体を触って、彼女が悲鳴をあげたそうだ。それで、その触った男に文句を付けているみたいだった。
「由梨香先輩、本当に触ったのですかねえ?」
「うん、どうなのかしら……触るほどの娘じゃ無い気がするけどね」
「そうですね。単にいちゃもんつけているだけなのかも知れないですね。あら、文句着けられている方の男子ってお店に良く来る人だわ」
翠が良く見てみると、何回か自分を指名してくれた人だった。
「わたし、ちょっと行って来ます」
由梨香が止める間もなく翠は騒動の中に割り込んで行った。
「何してるんですか! 皆の迷惑になっていますよ!」
翠はわざと大きな声を出して、注意を自分に引きつけた。
「あ、ルミナちゃん……」
声を掛けられた男子はお店での翠の名前を口にした。
「これだけ混雑してるんです、たまたま触ってしまったと言う事もあるでしょう! ワザとか偶然かは触られた時に判るはずでしょう。あなた、彼氏が一緒なので、ワザと声を出したのでしょう」
翠は妖気で人の心の内を読む事が出来るので、この触られた女子の心を読んだのだった。「なんだ、お前、そうなのか?」
彼氏が一転して弱気になった。
「う、うん……ごめん。ちょっといい気になっちゃって……」
二人はその場から素早く立ち去った。
「ありがとう! ルミナちゃん」
「いいえ、誰かと思って見たら……」
「助かったよ。こっちにも落ち度はあったけど、ほとんど言いがかりだったから困っていたんだ」
「おそらくカツアゲを企んでいたのかも知れないですね。今どき、あんなのが居るんですね」
「本当だね……お礼に何かおごるよ。勿論これからはお店ではルミナちゃん以外指名しないからね」
「実は連れが居るんです。学校の先輩なんです」
「じゃあ、一緒に何か食べに行こうよ。もうお昼になるし」
「そうですか~じゃあお言葉に甘えて」
翠は様子を伺っていた由梨香を呼んで紹介した。
「先輩です」
「宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しく! 二人共可愛いねえ~奢りがいがあるよ」
どうやら、ふたりも最初の切っ掛けは出来たみたいだった。その様子を出萌が笑顔で見ていた。
「さて上手く行ったな、次はと……」
出萌はプールサイドを歩いて麗華に群がっている男子の方に行くのだった。




