13.猫娘恋に落ちる
流れるプールを達也が美弥の乗る浮き輪を押しながら泳いでいる。
「達也さんは、本当に泳ぎが上手いニャ」
「うん、今はやっていないけど中学の時は所属するスイミングクラブの代表だったからね」
「今はやって無いのニャ?」
「うん、体を壊して止めてしまってね」
「そうなのニャ」
「ところで、美弥ちゃんは、何で言葉に『ニャ』って付くの?」
美弥は、内心しまったと思ったが、もう遅い。そこでとっさに思いついた。
「家で飼っていた猫に話しかけていたら、癖になってしまったニャ」
「そうかあ……実は僕も猫が好きなんだ。今度見せて欲しいな」
「私の家は実は佐賀なのだニヤ。だから飼っていたのは佐賀での事なんだニャ」
「へえ~美弥ちゃんの家は佐賀なのか、じゃあこっちでは寮か何かに住んでいるのでは?」
「そうだニャ。学校の裏にある寮に居るニャ」
「じゃあ、門限も厳しいんだね。きっと……」
「でも、アキバの猫耳メイドカフェでバイトしてるニャ」
「そうなんだ。店教えてよ。今度友達と行くから」
「でも、悪いニャ。何だか誘ってるみたいだニャン」
「そんな事無いよ。僕が猫耳メイド姿の美弥ちゃんを見たいんだ」
そこまで達也に言われては仕方無いので美弥は自分の店を教えた」
「ありがとう! 今度必ず行くからね」
「楽しみにしてるニャ」
「美弥ちゃん。今度はウォータースライダーに行ってみない?」
「でも私泳げないから怖いニャ」
「大丈夫、僕が一緒に居るから」
思えば達也が先程も助けてくれたのだった。ならば心配は要らないかも知れないと美弥は考えた。
「それじゃ、行くニャ」
達也に手を引かれて、仲良く歩く美弥と達也だった。一方……
競泳用プールのサイドを麗華が腰を振りながら歩いて行くと、その周りに陣取った男共の視線が動くのが判る。
「まあ、しかし麗華先輩、出萌さんの指示とは言え、よくやってると思うわ」
由梨香の言葉に翠が反応する。
「麗華先輩、あれ自分が楽しんでやっているのじゃ無いのですか?」
「勿論、自分が楽しんでいるのよ。でも出萌さんが『なるべく注目を集めるようにして欲しい』って頼んだのも事実なのよ。だから麗華先輩はあんな事やってるのよ」
「でも、私には完全に楽しんでいる様に見えますけど……」
翠の視線の先では、麗華が水の中に入り背泳ぎでゆっくりと水を切って泳ぎ始めた。次々に男達がプールに入って行く。それを見た翠は
「なんか、『ハーメルンのバイオリン弾き』みたいですね」
そう言ったのだが隣では由梨香が笑っている。
「翠ちゃん。それ言うなら『ハーメルンの笛吹き男』でしょう」
「あれ、そうでしたっけ? アニメ良く見ていたもので……」
「あれも実はくノ一の術なのだと思うよ」
振り向くと出萌が立っていた。
「出萌さん。ああやって麗華さんが男の子を皆集めて、どうするのですか?」
翠が不思議そうに尋ねると出萌は自分の右の方を指して
「あそこに僕が集めた女子が居るだろう。麗華ちゃんに集まっている男子と引き合わせようと思ってね」
「ああ、それでカップルを造ろうと言うのですね」
翠が納得する。気がつくと、男子の中から数名が出萌が集めた女子に気が付いて、傍にやって来て声を掛けて話しだした。
「もう大丈夫だね。これで幾つかは出来るだろうね。じゃあ、次に行くか? ああ、そう言えば美弥ちゃんは、帰るまでそっとして於いて欲しいね。今はウォータースライダーで楽しんでいる頃だからね」
「え、美弥、彼氏が出来たの? ナンパされたんだ……ちょっと羨ましい……」
ショックを受けてる翠に由梨香が
「大丈夫よ。私達はこれからよ! さあ行くわよ」
そう言って翠の手を引いて流れるプールの方に小走りに走って行った。そして、先程の美弥と同じように浮き輪に空気を入れて流れるプールに入って行った。
「いいかい、怖く無いから僕が後ろで支えているから、安心して流れてもいいからね」
先ほどから達也が怖がる美弥を説得しているが、いざ高い場所に立ってみると膝が震えて来たのだった。
『おかしいニャ、高い場所は得意なはずだけど、何故膝が震えるニャ?』
美弥にとっては高い場所は本来得意なはずだった。事実今までの生活では平気だったのだ。そこで美弥は、これは水に飛び込むと言う事に恐怖を覚えているのだと理解した。
「じゃあ、僕が後ろから美弥ちゃんを抱きしめているから。それなら怖く無いだろう?」
達也はそう言うと美弥の後ろに廻り両手で美弥の体を抱きしめた
「え、あれ、え?」
戸惑っている美弥に構わず、達也はウォータースライダーにその格好のまま飛び込んで流れ始めてしまった。
「ああー流れてるニャ! こ怖いニャ!」
「大丈夫! 僕が付いてるから、安心して!」
曲がりくねった大きなパイプの中を達也が美弥を後ろから抱きしめたまま滑って流れて行く。段々と速度が上がり、二人が左右に振られる。
「これ、結構面白いニャ!」
達也に抱かれて安定している為、美弥は安心感から初めてのウォータースライダーを面白いと感じるようになったみたいだった。
「良かった! これから増々速くなるからね」
「大丈夫だニャン」
二人の体はパイプをかなりの速度で抜けて一瞬空中高く放り投げられて、プールの中に飛び込んだ。すぐに達也が美弥の顔を水面に出させる
「ありがとうニャ。達也さんと一緒なら何の心配も要らなかったニャ」
美弥の笑顔を見た達也は心の底から、このちょっと変わった女の子を愛おしいと感じ始めていると思うのだった。




