11.猫娘ナンパされる
麗華を先頭にプールに行く通路を歩いて行く。すれ違う若い男子の目が皆釘付けになる。殆どの者が口を半場開けて麗華を見つめている。それを見た由梨香が
「ねえ、美弥ちゃんと翠ちゃん。この歩く順番、不味いと思わない?」
「え、どうゆう事だニャ?」
美弥が不思議そうに尋ねると、横から翠が
「先頭に麗華先輩みたいな重爆撃機が飛んでいれば、後から続くわたし達みたいな軽戦闘機は目立たないと言う事ですよね、由梨香先輩!」
「そうよ! あのすれ違う男どもを見て御覧なさい。みんな驚いた顔をして、その次には、だらしなく口を半開きにして見つめているじゃない。あれじゃわたし達が目立たないわ」
確かに、由梨香の言う事は尤もで、すれ違う男どもは皆麗華を見つめている。これでは、その後に続く自分達は目立たないだろうと美弥は思うのだった。
「翠ちゃんも由梨香先輩も、私とは違ってちゃんと出る所は出ているニャ。充分魅力的だニャン」
「ありがとう美弥ちゃん。先輩、私、歩く順番を変えて貰うように麗華先輩に言って来ます」
由梨香が注意をする暇も無く翠が麗華の所に行って
「先輩! あの~ わたし達が先を歩きますよ。先輩が先頭と言うのは不味いと思うのですが……」
恐る恐る言うと麗華が
「あら! うっかりしていたわ。そうよね、私が先頭だと皆が注目を集められないわね。いつもの事だからウッカリしていたわ。ゴメンね」
麗華が余裕を見せながら答えると翠は
「あ、いえ……すいません」
そう言って結局認めてしまった。それにしても大きな胸だと思った。普通ならこれだけ大きければ重力に逆らえないのだが、麗華の胸は見事に逆らっていて、その形の美しさも際立っていた。
「先輩、綺麗な胸ですね。大きい人は沢山居ますが、これだけ大きくて形が良い人は滅多に居ませんよね」
翠の言葉に麗華は当然と言わんばかりに
「だって、くノ一の修行は厳しいのよ。胸の筋肉を鍛える動きも当然入っているわ。だから形が崩れないのよ」
それを聞いて翠と、それに後ろに居た由梨香が声を揃えて
「形が崩れない動きですか!」
驚いたのだった。
「あら、当然じゃない。くノ一が色仕掛けで相手を籠絡させるのに、だらしない体型じゃ駄目でしょう? そう言えば、二人共、今は良いけど、将来は心配したほうが良いぐらいの大きさね。今度ウチに来る? 教えて上げるわよ」
「宜しくお願いします!」
頼み込む二人だった。美弥は確かに翠も由梨香も麗華と比べると目立たなくなるが、個々ではそれなりの大きさで、充分魅力的だと思う美弥だった。
エントランスを抜けると大きな流れるプールに出た。その流れるプールの輪の中にウォーター・スライダーがあり、うねうねと曲がりくねった筒が天井を支配していた。美弥は佐賀にも、もっと規模の小さいものはあったが、これほど大きなものは見るのは初めてだった。
「凄いニャン!」
「美弥、今日は猫耳出したら駄目だからね」
翠に言われて美弥は、うっかりしていた。猫は耳に水が入ると急所なのだった。
「忘れていたニャン! ありがとニャン」
「大丈夫? 後は大丈夫なの? 潜れないとか……」
「う~ん、多分大丈夫ニャ。それに私は水遊び程度にするつもりニャ」
美弥の少し寂しげな顔を見て、プールはやはり美弥にとっては快適な場所とは言えない のだと翠は理解した。
気が付くと、麗華の回りには数人の男子が居て、盛んに麗華に声を掛けている。それを見た出萌が
「早速、お仕事の始まりかな」
そんな事を言っている。
「出萌さん。お仕事とは何ですかニャン」
「良いかい、あの男どものうち、縁のある人間が居るなら、その相手をここから探して引き合わせる。それが仕事さ」
出萌の説明に、納得した美弥で、だから麗華は特別にあの様な際どい水着を着て注目を集めているのだと思った。
「でも、わたしに注目してくれる男子なんか居ないニャ」
気が付くと、出萌は他の女子のグループに声を掛けている。脈ありと早速行動を開始したみたいだ。既に、由梨香も翠も数人の男子のグループに声を掛けられている。
「楽しそうだニャン……」
その様子を見ながら美弥は、そっとそこから離れ、持って来た浮き輪に空気を入れると、流れるプールに浮き輪を入れるとその上にお尻から滑り込んだ。
「こうしていれば、水は怖く無いニャ」
自分みたいな余り魅力的では無い、言わば「おまけ」の様な存在は静かにしていれば良いと思うのだった。
外は梅雨空だったが、この室内は快適な温度に保たれていた。余りの快適さに美弥は眠気をもよおしてしまって、コックリコックリと居眠りを始めてしまった。浮き輪は流れに任せてそのまま周回コースを流れて行く。
「快適だニャン……」
それきり暫く記憶が途絶えてしまった……
達也は友達二人で来たのだが、片方は際どい水着でしかも物凄い曲線美の高校生を見つけそこに行ってしまった。残された達也は仕方ないので、流れるプールで時間を潰すつもりだった。
泳ぎが達者なので、体ごと水に浮いて手で水を掻きながら流れていると、先方に居眠りをしている高校生らしい女子を見つけた。気持よく眠っているが、この先の水が活きよく放流している場所にさしかかるので、このままでは危険だと思った。
『起きれば良いが』
そう思って見つめていると運悪くもろに、その水を被って浮き輪ごと転覆してしまった。
「これは不味い!」
達也はすぐさま、プールに潜り、水に落ちた女子を探す。すると、プールの底で藻掻いてる女子を見つけ、抱き抱えるようにして水面に出した。
「大丈夫かい?」
「ゴホ、ゴホ、ありがとうニャ。実は泳げないのニャ」
「じゃあ水を飲んだのじゃないかな」
「少し飲んだけど大丈夫ニャ」
美弥は助けてくれた男子を見つめた。涼しげな目をした青年だった。
「あ、改めてありがとうございました! ニャ。美弥と言います。清聖の一年生ですニャ」
達也は語尾が多少気になったが、良く見ると、とんでもない美人で可愛い娘なのに気がついた。
「僕は達也、都立竹山高校に通う高校二年生だよ。良かったら一緒に泳がない?」
「でも、私泳げないニャ」
「大丈夫、僕が教えてあげるよ」
美弥はとても達也の感じが良いので、一緒に居ても良いと思っていた
「では、お願いしますニヤ」
達也は美弥を抱えるともう一度浮き輪に美弥を乗せてくれ、自分も泳ぎながら、浮き輪を押してくれた。
その様子を遠くで眺める者が居た。出萌だった
「やれやれ、アクシデントを拵えるのも大変なんだからね。でも上手く行って良かった。美弥ちゃんは落ち込んでいたからね。あれでは幸せはやって来ないよ。いつも笑顔でいなくてはね。上手く引き合わせられて良かったよ」
満足気な表情をする出萌だった。




