領主
きらびやかな衣装を身につけたおじさんの前に私は立っていた。
王様ではなく領主、らしいが私には違いがわからない。
とりあえず、この街で一番えらい人であるらしい。
フルフェイスの騎士の、父親だった。
勲功式の後、私と一対一で話す席が設けられていた。
「まずは、よくやってくれた。街が無事なのはキサラギ殿のおかげだ。礼を言わせてくれ」
「勿体ないお言葉です」
本当に。
私はただ、自分の目の前の敵を斬っただけだった。
「わが息子、ジャベールのことは残念だった……。彼は、勇敢だったかね?」
「……はい」
そう、勇敢だった。
誰よりも勇敢だったから、他人の、私の身代わりになって死んだ。
戦場では恐怖を忘れたものから死ぬのだ。
「今日は疲れただろう。部屋を用意してある。褒美は後で取らせるが、まずは休むといい。勇者キサラギよ」
「勇者などと……呼ばないで下さい」
確かに私は女神に呼ばれた勇者だが、それとは別の意味で彼らは私を勇者と呼ぼうとする。
その呼び名こそ、過分なものだ。
女神が私を勇者と呼ぶのは、まだいい。ただの役職みたいなものだ。
だが、普通の人に勇者と呼ばれるのは、昨日まで一般人だった私には身に余る。
「いや、勇者と呼ばせてくれ。伝令で知ったのだが、近隣諸国では幾つもの都市が魔物によって滅ぼされたようだ。我々が今無事なのは、そなたあってのこと。大袈裟に言ってしまえば、そなたは今や、人類の希望なのだよ」
「私が、ですか?」
足手まといで領主の息子を殺してしまった、この私が?
「そうだ。街の者は皆知っている。最後まで味方を守り続け、街の中へ侵入した巨人を討ち倒した、もっとも勇気ある者。勇者キサラギの名を、な」
「それは……しかし、私がやらなければ、誰かがやったことです」
「だがやったのはそなただ。それが出来たのも、そなただけだった」
「そう、でしょうか」
「そうなのだ。だから、自分を卑下するのはやめていただきたい。……先の戦争で死んだ、わが息子のためにも」
「……はい」
彼の名を出されると、何も言えなくなる。
掛け値なしに申し訳ないと思う。
「さて、キサラギよ。これからそなたはどうするつもりだ。もしよければ、我が屋敷へ逗留してほしいのだが」
「少し、考えさせて下さい」
「……どうやら、なにかやることがあるようだな。もしよろしければ、聞かせてくれないだろうか」
「魔王を倒します」
「……やはり、か。一応聞くが、本気なのだね」
「はい」
私がやらなければならないことは、ひとつ。
魔王を倒すことだ。
そうしなければ、元の世界に帰ることもできないのだから。
「わかった。では勇者殿、お願いがあるのだが」
「なんでしょうか」
「我々もそなたと共に戦わせてほしい」
「いいんですか?」
「ああ。これはもはや、人類全体の問題だ。自分の国だけ守ってそれで終わり、とはいかぬだろう」
これだけ大きい街が味方になってくれるのは、とても心強い。
いざとなれば私一人で魔王を倒さなければならないかと思っていたが。




