戦場4
何匹斬ったのかわからないくらい斬った。
身体は元気そのもの。魔剣のおかげだ。
でも精神的に辛い。
なんせ、敵の数は果てが見えない。
撤退する味方を援護するために斬り、自分の命を守るために斬った。
一匹斬る毎に、少しずつ、時間の流れが遅くなるように感じられた。
魔物が武器を振りかぶる瞬間がわかる。人狼が飛びかかるタイミングがわかる。
あとは、敵の動きに合わせて剣を振った。
私は最前列で敵を斬る。
味方が撤退するまで、持ちこたえるんだ。
あのフルフェイスの騎士がやろうとしていたことを引き継いで。
そのためには、敵の注目を私に集めなければならない。
かかってこい。
お前たちの敵はここだ。
勇者はここにいるぞ。
「勇者はここにいるわよ! かかってこい魔物ども!」
気づけば叫んでいた。
魔物の気を引くためというよりは、自分に言い聞かせるために。
「へっ、勇者様か。でけえ口たたくじゃねえか、ねえちゃん」
バズが私の隣に来た。
僧侶と魔法使いらしき風貌の人を1人ずつ引き連れている。
まだ撤退していなかったのか。
「早く撤退して」
「あんたを残してか? やだね」
「私は大丈夫だから」
私には魔剣がある。
これがあるかぎり、どれだけ戦っても肉体が疲れることはない。
そう思っていたが、バズの言葉で私は冷静にさせられた。
「恐怖を忘れたものから死ぬ」
そうだ。死ぬのは一瞬だ。
いくら魔剣の力で怪我が治ろうが、即死してしまっては意味が無い。
あの騎士の最後のように。
「で、だ。指揮官は残念ながら死んじまったみたいだし、俺たちの指揮を取ってくれよ、ねえちゃん」
「私が?」
ただの小娘にすぎない私に指揮を取ってほしいと?
経験豊富そうなバズのほうが、よほどうまくやれると思うのだけれど。
だが、バズは答えた。
「そうだ。戦場では強い奴が偉い」
「……わかったわ」
私が強いかどうかはともかく、バズの口調からは否定を許さない空気があった。
僧侶と魔法使いが、私を見つめる。
この4人パーティでは、私がリーダーなのだ。
覚悟を決めて口を開く。
「私達は街まで撤退する者の援護をしながら、敵を叩く。城門までいったら、門を閉めて籠城戦。当初の予定通りよ」
「了解。へへ、報酬は弾んでもらえるかね」
「さあ。私にはわからないわ」
「あの騎士とは知り合いじゃなかったのか?」
「初対面よ」
「そうか」
この世界に知り合いなんて居ないのだから。
そもそも目が覚めたらいきなりこの状況に叩きこまれていた私だ。
この世界のことなどなにも知らないのである。
「ところでよ、援護するのはいいが、俺達だけじゃちょっと人数が足りねえな」
「4人パーティじゃ足りない?」
「俺たちのパーティとしては足りてるが、敵を足止めするには手が短い。弓兵がいくつか欲しいところだ」
「集められる?」
「任せてくれれば、あんたの為の兵隊は何人だって集めてみせるぜ。ただし指揮はあんたが取ってくれ」
「わかったわ。弓兵を集めて」
言うが早いが、バズは撤退中の弓兵に声をかけ、5人程集めてきた。
弓兵は、撤退しながら魔物の足止めをする罠などを仕掛ける。
その身軽さを活かすために、僧侶や魔法使いとは組んでいないようだ。
そういう編成だった。
弓兵に声をかける。
「他のパーティを狙う魔物たちに弓を撃ってください。私達がその魔物に斬りかかります」
「了解しました」
すぐに行動に入る。
弓兵が弓をつがえ、撃つ。
その方向へと私達は走りだす。
弓に気を取られた魔物たちを、そのまま斬り伏せた。