父親side 2
「……プラネタリウム?」
「うん。今は冬だからさ、星は綺麗だ。けど寒いし、父さんとは時間が合わない」
「……」
「なら、昼間に見ればいい。そうすりゃ持ち帰ってきた仕事をする時間とも被らない。お金は掛かるけど、それくらいなら小遣いで足りるし」
透は、本当に俺の事を良く見てる。
たまの休みには、仕事を持ち込まない様にしてる事も、実際の天体観測を一緒にするには時間が合わない事も。
「二名様で、二千円になります」
受付嬢の言葉に、ハッとすれば。
ちょうど透が財布から二千円を取り出し、支払うところだった。
「それでは左手階段を上って頂き、中央の部屋へお入り下さい。あと10分で始まりますよ」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げ、行こう、と俺に顔を向ける。なんてこった、まさか透に払ってもらうなんて。
結局、俺は車の運転しかやってない。
席に並んで座り、プラネタリウムが上映し。
作り物とは言え、満天の星空に癒やされる。仕事とノルマ漬けの疲労感で溢れかえった心が、穏やかさを取り戻して行くんだ。
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「プラネタリウムなんていつ振りだろうな」
「さあ。母さんが居た頃だから、三、四年前くらいだと思うけど」
初めて、透から母親の事を言われて……思わず息が詰まる。でも透は、特に気にしてないようで。
「……何とも思わないのか。俺の所為で、母さんが居なくなったこと」
「思って欲しい?恋しがって欲しいの?父さんは。戻りはしない人の事をさ。僕は再婚するなとは言わないよ。父さんがしたいならすれば良い」
我関せず、みたいに助手席で淡々と告げる。
「あの人は、いつも愚痴ばっかだったからね。家に居たからって、僕に構ってくれる事は余り無かった。そんな人が居なくなったからって、別に大差無いし。
僕は今の方が良い」
会話も増えたしクロも居るし、と口角を上げる。
「……何処か、食いに行くか?」
気付いたら、そう聞いていた。いつも俺を見てくれるお前に、何か少しでも返してやりたくて。
「いや、良いよ。お金掛かるし、下準備までは済ませてあるんだ。帰って十五分もあれば用意出来るから」
まるで主婦みたいな台詞。
俺は家事、特に炊事はからきし出来ないから、卒なくこなす透が凄く誇らしい。
「俺も、手伝うよ」
え、と俺へ視線を投げる透の眼が、僅かに見開いて。
「食材、ダメにしそうで怖いんだけど。奮発して買った肉なんだから」
失礼な!俺にだって少しくらい調理は出来るぞっ。
「お前なぁ……」
俺はどんだけ、信用が無いんだ?でも、こんな会話にも心が弾む自分が居る。
きっと今日のプラネタリウムも、俺のリフレッシュの為に言ってくれたんだろう。勿論、自分が行きたいのもあったんだろうけどさ。
ありがとう、と胸中で呟いて。透との時間を、もっと持ちたいと自欲が膨れるのを感じて。
心に決めたんだ。残業をもう少し減らして、お前と過ごす時間を増やそうって。
その分給料は減るかもしれないけど、きっと代え難い充足感が得られるはずだから。
fin.
この後、彼は透の料理の手際の良さに感服させられます。
結局手伝える事はなく、炊事は息子に任せる事に。
家事全般を任せ切っていたツケですね。頑張れ父さん。
もう父親の威厳も何も無いけど。