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息子side

静かな、最低限の明かりを灯した台所にトントントン……と単調な音が響く。


ボウルに切った人参、じゃがいもが水に浮かぶ。今日はハヤシライスが晩御飯だ。


ずっとカレーにするか、シチューにするか悩んでいた。どれを作っても父さんは喜ぶから、好みが把握出来ない。


そんなこんなで悩んでいたら、不意に目に入ってきたハヤシライスの箱。


正直ハヤシライスは作った事が無い。けど、箱の裏にはカレーと良く似た作り方だと書いてあったから、買い物かごに放り込んだ。


父さんの意表を突いてやろうかと思って。


「にゃああ」


「クロ」


鳴き声と共に、真っ黒なのが僕の脚に擦り寄り、頭を擦り付ける。


「クロも晩御飯にする?」


「にゃあん」


クロはあの晩、学校の屋上で僕に懐いてくれた野良猫。


僕が自殺するんじゃないか、って父さんが誤解して屋上へ来たあの時、あの晩から、クロはこの家の一員になった。


あの日以来。


父さんは、早く帰って来ることが以前よりも増えた。僕が家だけでなく、学校でも一人で過ごしていることが、ショックだったんだとか。


残業しなきゃいけないはずなのに、無理にでも帰宅してくる。そして晩御飯を食べると、書斎へ引きこもる。


やっぱり会話は少ない気がするけど、別に良いんだ。何ヶ月も一言も会話無し、なんて事にはなってないから。



「うん。我ながら美味い」


味見して、初めてにしては美味く出来たと自己満足。


早く帰って来る様になったとは言え、父さんが帰宅するのは必ず21時を過ぎる。だから結局、僕は一人で晩御飯を済ませて風呂も終わらせる。


学校の課題も済ませなきゃならないし。


二階へ上がろうとすると、ドライフードを平らげたクロが階段を付いて来た。



***************



「ただいま」


階下からの声に、真っ先に反応したのはクロ。課題を終え、読書に勤しんでいた僕の邪魔をしてきて、ドアを開けろとせがんで来る。



「おかえり」


玄関にコートを引っ掛ける父さんに声を掛ければ、その顔が少し綻ぶ。


「ああ、ただいま。……もう全部終わらせたのか?」


「まあ、うん。後は寝るだけかな」


そうか、と途端にしょげるから何故か罪悪感に蝕まれる。これは僕の所為じゃないぞ!


「何、何でしょげてるわけ?」


「いや……、今日なら勉強見てやれるかな、と思ってたんだが……」


……。

なんだこの人。そんな事でしょげたのか?可愛いじゃんか。


「この前の、分からなかった数学の問のことを言ってる?」


居間で、父さんがハヤシライスをがっつく様に食らうのを眺め、そう聞けば。


「そう。……しかし美味いな」


そそくさと二杯目をよそいに行く。


「あれなら、参考書と先生に聞いたから解決済みだけど。……別に父さんの手を煩わせるまでも無いよ」

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