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オチ天魔  作者: ぶんた
天使だったリオウ
1/2

第0羽

  俺は天使だ。



 天界本部所属、人事課配属勤務のリオ・リオウはいわば天界のエリートだ。

 人事課とは、天界に送られた数少ない人間を招くかどうかという仕事をこなしていている。

 とはいってもその者の厳密な調査や審査なのどの大変な仕事は、他の課や委託業者にやらせていて最終決断を行うだけのお役所仕事なのだった。

 立派な椅子に脚を組んで腰を掛けているリオウは、今日ものんきに分厚い書類の一枚目だけに目を通していた。

 大体一枚目には、その者の名前、経歴などが書かれていてるのでこれさえ見ておけば問題はなかった。

「今日もよくこんなに…」

 尊敬をこえて、バカだなと二言目には呟きそうになってしまう。

 莫大に積まれた書類が立派な木の机を占拠していた。

 椅子に座り、とりあえず朝のコーヒーを一杯口にしたのは午前九時。

 そして、天使の命とも言われている純白の羽根の手入れをしつつ、天界テレビを眺める。

 午前一一時頃にもなると、自慢でもある白銀の髪の毛をいじりながら週刊誌を読みつつ、本日二杯目のコーヒーをすする。

 年中晴天の心地良い明かりと気温にうたた寝を始めたのが丁度お昼時だった。

 正午ピッタリの時刻にリオウは、部屋を後にしてランチに向かう。

 今日は、日本食と朝から決めていたリオウは、真っ先に行きつけの日本料理屋へと羽根を伸ばした。

 ここでも役人、いや役天の力を使い行列に並ばないで食事にありつけたのであった。

 刺身に焼き魚、それに煮魚と日本食のフルコースを平らげたリオウだが昔から変わらない、スマートな体格はそこらのお役天者と一緒にしないでほしいポリシーがある。

 こうして、午後の仕事まで部屋で昼寝をするのだが、今日に限ってはやけに睡魔が強かった。


「……ん?」

 机に覆いかぶさって寝ていたリオウは、目を擦りながら掛け時計を眺めた。

 ぼやけた視界をゆっくりと合わせているとなんと短針が四の数字の位置にいるではないか!? 

 慌てて起き上がるリオウは真っ先に向かった先は一つ上の階にある上司の部屋だった。

 

「やっときたか、 リオウ」

「すみません、レオウ兄さん」 

 リオウの部屋より更に豪華な部屋で待っていたのは、リオウの二つ上の兄であるレオウだった。

 リオウより少し大人びた風格のレオウ。もちろん天界階級もリオウより上位だ。

 約束の時刻は午後三時だった。完璧に遅刻をしてしまったリオウだがレオウは、表情一つ変えないでリオウを応接椅子に座るよう手をかざしてきた。

「本当にすみませんでした」

「すんでしまったことは、もうしょうがないです。さあ腰を掛けてください」

 とレオウが先に着席したのを確認してリオウもふかふかなソファーに対面越しで腰を掛けた。

 昨日の夜に急に話がしたいとレオウ直々に連絡が入った。それも時間指定となればさぞかし大切な用件だったと思ったが、話の内容はいたって世間話だった。

 途中であくびでもしたくなるくらいつまらない会話にリオウは、飽き飽きし始めてくる。

 なんせ、いくら兄弟であっても階級が上の限り、相手には丁寧な言葉使いを行わなければならない。普段、上位の階級の者との接触を拒んでいるリオウにとっては、兄との談話ほど息苦しく、面倒な行事はないと感じている。

 それでも、自分が天界三級天使の称号を得られているのは、この兄と親のおかげなのも十二分に承知している。つまり俺は七光りということだ。

 二〇分間たったころには、レオウが喋ること全てに「ハイ」とだけ答えている始末のリオウ。もはや、言葉を選ぶの面倒くさくなっていた。

「話は変わりますが、そろそろ選挙の時期になりますね」

「…ハイ」

 言われてみればそうだ。

 選挙なんて全く興味なかったリオウだったが、嫌でも選挙活動に参加しないといけない理由がある。それは、父親が神だからだ。

 天界の最高位である『神』は、五年周期の選挙で決められている。リオウの父は『天気の神』に即位していた。毎日毎日、関連する神様と会議をして世の天気を決めるという、なんとも物好きな神様になったんだろうと感心するリオウだった。

「前回は、リオウはまだ幼い頃だったので選挙活動はあまりされていませんでしたが、今回は少し手伝っていただきますよ」 

 とニッコリと言う。

 その表情が妙に嫌味たらしくていらだつリオウ。

 アンタとは二つしか変わらないだろ。前回の選挙でもかなりの仕事量をこなしていたレオウ少年は、我が家族でも自慢の天使ですよと言い返してやりたい気持ちで一杯だ。

「そうですね。今回は、しっかりと働きます」

「いい心がけです。それでは期待していますよ」

 この辺で区切っとかないと本音が口に出そうなリオウは、静かに立ち上がって会釈をした。

「わざわざ、忙しい中ご苦労様でした。そうでした! アナタが大好きなコーヒーを出し忘れていました」

 一刻でも早くこの場から去りたいリオだったが、兄の出す逸品のコーヒーの香りに負けて飲み干してから部屋を後にした。

 さすが兄弟だ。リオウ仕様のミルク半分にコーヒー半分の黄金比に狂いのない味わいをだしていた。

「ごちそうさまでした」

「ええ」

 美味しそうに飲み干したリオウの姿にレオウは、ご機嫌の笑みで見送ってくれた。



 息苦しかった部屋から開放されたリオウは、ここまで自分の仕事部屋が快適なものなんだなぁだと改めて実感した。

 まさに天国とはこのために創られた言葉だろう。

 仕事椅子にどっしりと寄りかかって天井を見上げるリオウ。

 ちょうど真上の部屋にはレオウがいる。

 父親は神、そして兄は容姿端麗のエリート、そして俺は……。

 視線を下に戻していくと目の前には、山済みになっている書類がある。

 たまには、本気で……と思ったつかの間、この場面でいつもの睡魔が襲い掛かってきやがる。

「しょうがねーなぁ……」

 と呟きながらもリオウは、睡魔の先制ジャブに一発KO負けしてしまった。



 しかし、この次の日の朝、寝起きのリオウの元に突如現れたのは、天界門番の者たちだった。

 門番はいわば、日本の警察的な存在だ。 

 そして令状を片手に天界三級天使の剥奪をもうしたてられる。

 天界法にのっとり『悪魔接近罪』とかなり重い罰を命じられた。

 そして、名門リオ家から破門されしまう。


 

 一言も話すことは許されず、リオウの立派な羽根は切り落とされてしまい、勢いよく地上の世界に落下していってしまった。


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