その7
うーん、これからどうすればいいんだろぉ?
by美流九
作者より
今回より書き方がを変更し、行詰めを行なっていきたいと思います。読みづらい、またはこうしたほうが見やすいという意見があれば、どんどんお寄せ下さい。
また、今回は勉強の合間を縫って執筆したので普段より短めですが、そこはまあ、目を瞑って下さい。
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科学ゾーン:ステーション265:タワー:高度二百メートル付近――
「全く、どうしてこうなったんだよ……」
俺は溜息を吐きながら眼下の街並みを見つめた。遥か下では俺達を探す人々が起こす喧騒で、嘸かし賑やかなことだろう。
「半分くらいちぃーちゃんの所為だと、私は思うんだけどねぇ」
美流九の責めるような物言いに、思わずむっとする。
「おいおい、これが俺の所為だって言うのは筋違いだろ? 俺はむしろ巻き込まれた被害者側だぞ?」
俺の弁解に、南嶺が俺よりもむっとした顔で睨みつけてきた。
「そもそも、ちぃーちゃんがあんな変な能力を選ばなきゃよかったのよ」
「…………」
全くその通りなので、思わず黙りこんでしまった。
しかし――
「それはそれとしても、やっぱり不自然じゃねえか?」
「なにがぁ?」
「ムジカが人質を取ろうとした事だよ」
うん、どう考えても不自然な事だらけだ。
第一に、俺は相手の要求を呑んだのに、人質を全く解放しようとしなかった事。第二に、これはただのゲームだ。いくらアカウントが削除されそうだから、生き残るために仕方なく――と言ったって、別に人質を取るほど切迫してもいなさそうだし、別に俺を引き入れなくたって色々方法はあるだろう。あそこまで無理強いして俺を引き入れようとするのは、あまりにも不自然だ。
第三に、何故かアイツは俺の名前を知っていた事だ。――が、これはある程度納得できる。俺のニックネームは「タタラ」になっているし、あの二人が俺の事を「ちぃーちゃん」と呼んでいる事は周知の事実で、このゲームの中でも二人はそう呼んでいたので、俺とあの二人とある程度既知の間柄の人物なら、俺を特定できてもおかしくない。
という事は、やはり近辺の人間か、学校の同級生辺りが怪しいのだが――う~ん、あそこまで恨まれるほど中の悪い女子はいない筈なんだけどな――
「ちぃーちゃん、一人で考え込まない」
ガツン!!
「いだっ! 南嶺、いきなり頭を殴るのはどうかと――」
「……幼馴染でしょう、一人で抱え込まないで」
南嶺の言い分に、俺は思わず笑みを浮かべてしまった。
「ああ、そうだな……。しかし、ムジカの事はよく考えたら何も情報がないから、分かりようもないし、第一、俺達が今考えるべきはこんなことじゃないな」
今、考えるべきは、
「これからどうするか、でしょう?」
さすがは南嶺だ。俺の言いたい事が伝わっている。
「言いたい事はわかるんだけどさぁ――」
しかし、すかさず美流九が横槍、というか懸念を示す。
「南嶺ちゃんもちぃーちゃんも分かってると思うけど、もうここには間違っても居られないよ?」
「分かってるさ。拠点を移さなきゃいけないことぐらい」
幾らなんでもここを拠点にするのはまずい――それぐらい、俺だって理解していた。仲間に引き入れようとするために人質など使おうとする所に、信頼なんて置けない。
「でも、どうやって別のステーションに移るんだ?」
「また説明を聞いてなかったようねちぃーちゃん。その耳は何のためにあるの?補聴器でも付けましょうか、馬鹿でかくて、何か言った途端に鼓膜が破れそうなやつ」
キュ、クルクル、タァン!!
「すみませんごめんなさい。ボクガワルカッタデス」
南嶺は俺の謝罪に何の反応も示さなかった。
酷い! 折角二回転を空中で行い、そのまま着地の勢いで土下座までしたのに!!
「――ステーションを移るには、まずあそこに行く必要があるわ」
ビシ、と南嶺が指さした先には、今いるタワーにも勝るとも劣らない高い建造物があり、一見してみると、まるで煙突のようにも思える円柱状の建物だった。ただし、その胴回りは煙突ほど細くは無かったが。
「あれは、転移用のアンテナみたいなものよ」
「アンテナ?」
「そう、アンテナ。電波みたいに、人を他のアンテナに送り出すから。あそこの一階では転移用のポッドがあって、そこに乗り込んで行きたいステーションの番号を入力すると、そのステーションに移動できるの。転移の際に多少Sを使っちゃうけど、さっきの戦いで荒稼ぎできたから、そこで困ることは無いでしょう」
「ようはあそこに行けばいいんだな?」
俺は南嶺が指さした方向をじっと見つめ、南嶺に再確認を取った。南嶺も頷いて、そちらを見据える。
「そうか、あそこか。思い立ったが吉日と言うし、早速――」
行こうか、と言おうとした俺の腕を、美流九が掴んできた。
「そう簡単には、上手くは行かないと思うよぉ」
いつものぶりっ子口調なのに、その声色はいつになく真剣だった。
「私だったらぁ、あそこに行くって事前に予想してぇ、見張りを置くと思う」
確かに、美流九の言う通りだ。ただでさえ俺を引き入れるために人質をとってきたのだ。それぐらいやってきてもおかしくはない。
「だとしても、行く以外に方法は無いと思うわよ」
南嶺はそれでも行くつもりのようだ。
「それ以外に方法があると思えないし、いざというときは、私達にはちぃーちゃんがいるのよ」
南嶺は俺の肩にポンと手を置いて、俺に向かって微笑んだ。
「そうだね」
美流九も笑みを浮かべて、俺の肩をぎゅっと抱く。
うわ、ちょい何してんの? と俺がドギマギしていると、もう片方の腕に同じように南嶺が抱きついてきた。
「お、おいお前ら」
「ちぃーちゃん、すっごく顔赤くなってるよぉ」
「さすがね、ここまで感情表現が豊かだなんて」
――なんていちゃついていたら、
ピキューン、と目の前の鉄骨に鉛玉がめり込んでいた。
まるで、「こんな所でいちゃつきやがって、この男子の裏切り者がぁぁぁあああああ!!」という狙撃手の怒りがこもっているように思えて、
「や、やべえ。南嶺、美流九、しっかり掴まれ!!」
慌てて俺達は離陸体制に入る。
「行くぞ!!」
焦るように思いっきり三人で身を空に投げ出した――
さあ、次は街中を失踪するわよ。背後から追手に追われるスリリング感。まさにリアル逃走中ね。(これはゲームです)
by南嶺