その5
ククク、どうやら、ちょっと活躍しているくらいで、調子に乗っている輩がいるらしいねぇ。
ちょっと成敗しないとねぇ……♪
by美流九
✚
科学ゾーン:ステーション265:外縁部――
「「「わーっしょい、わーっしょい、わーっしょい!!」」」
「皆のもの、タタラ様のお通りだぁああ!!」
大通りでは文字通りお祭り騒ぎになっていた。なにせ、ここステーション265では、最近敗戦や引き分けが相次いでおり、士気も下がっていて、少しづつステーションから離れていく人も多かったからだ。そこに来て、敵ステーションの完全破壊。完全破壊となれば、ステーションに入る収益は半端な額ではない。なにせ、相手のステーションが持っているSを全て手に入れることが出来るのだ。誰だってこんな事が起きれば有頂天にもなる。
その中でも一際有頂天になっていたのは、タタラというプレイヤーだった。
というのも、たった一人で敵機を二千体も破壊し、挙句にはステーションを単独破壊するという英雄的所業を成し遂げたのだ。帰ってきた瞬間に祭り上げられて、褒め称えられたら、そりゃ誰だって「いや~それほどでも~」とか謙遜言いつつ表情だけはドヤ顔になる。
しかし、誰にも文句を言わせない。何故なら彼は間違いなく一人で敵を殲滅した英雄なのだから。
だが、それを良く思わない人物が、たった二人だけだけど、居た。
「ふふふ、調子乗ってくれちゃって……」
「ちぃーちゃん、この幸せ者が、いい気にならないでよぉ……!!」
彼女たちの耳に風に乗ってこんな話が届く。
「タタラさん、さっきはごめんなさい!」
「あはは、いいんですよ! 結果オーライだったし」
「あの、お礼と言ってはなんですが……後で、私の部屋に来ていただきません?」
「え? それってどういう……」
「大事な、お話があるんです」
「え……!? わ、分かりました! 必ず行きます、すぐ行きます!!」
その会話を聞いた二人は、ブチン! と何かが切れる音を脳内から発した。どうやらこのVRMMOは感情表現もかなり豊かに表してくれるらしい。何かしらのオーラが発生されているらしく、周りの人々がビクゥ!! と背筋を一瞬の内に伸ばして、慌てたように退散していく。
「くくく・・・」
「ヒヒ、イヒヒ・・・」
もう精神が崩壊してんじゃないかと思うほど奇怪な声と負のエナジーを放つ二人の視界の先には、一人の有頂天男が。
ロングの髪をおしとやかに纏めあげた、しかしブラックなオーラを身にまとう少女のほうが、片手を挙げた。その挙げた手には拳銃が。
パン! とその拳銃から空砲が放たれる。
何事かと驚く人々の視線は、一人も残さずそちらを向いた。
その背後から、
ショートヘアの活発そうな少女が、人々に担ぎあげられた、それなりに精悍な顔つきの男にハイキックをぶちかます。
「ブホエッ……!!」
「ああ、タタラ様が!」
うめき声を上げながら間抜けに空を飛ぶ男は、先程拳銃を撃った少女のほうへ真っ直ぐ飛んでいく。
「ハタァッ!!」
「グワッ!!」
少女は一喝して飛んできた男の顔面にさらに足蹴りを叩きこむ。メキリ、とリアルにやばそうな音がして、男は弾き飛ばされたように真横に吹っ飛び、ジャンクパーツショップの壁面に体をめり込ませた。
ふー、と少女たちは残心。そして壁にめり込んだ男を引き剥がし、路面に引きずりながら退散していく。
一瞬で起きた出来事に、人々は只々呆然とした。
✚
科学ゾーン:ステーション265:外縁部:どっかの路地裏――
「調子乗ってすみませんでしたぁぁああああッ!!」
何故俺はこんな所で幼馴染二人に土下座をしているのだろう、と俺は路面に額を擦りつけながら、一生懸命謝る中で、かすかにそう思った。
特に何も悪いことはしていないはずだ。うん、絶対していない筈だ。だから謝る必要は無いはずなのに、何故か俺は土下座までして謝っている。きっと、引っ越してきてから仕掛けられた鼻フックが全ての元凶だ。だって、あれさえ上手く躱せていれば、こんな風に反射的に謝る癖ができるほど屈服させられては……あれ、どうしてだろう。どのルートを選んでも、最終的にはこの結果に落ち着きそうな気がする。どんなルート選んでも結果は一つとか、どんなギャルゲーだよ、畜生。
とかそんな事を考えているなかでも、結果的には謝っているには変わらない。だからつまり俺は絶対二人の幼馴染には勝てないのだ。一生、永遠に。
でも、このままでは終わらせない。最低限、反抗させてもらおうじゃないか。
「だいたいお前ら、いくらVRMMOの中だからってあれはやりす」
「「なんか言った?」」
「とても激しく反省しております!! ほんと、調子乗ってごめんなさぁああああああい!!」
だから何を反省してんだよ!! というノリツッコミはしない事にして、心の深奥に秘めた。
✚
しばらくして落ち着くと、南嶺が尋ねてくる。
「さっき砲台から見てたんだけど、アレは一体何が起こったの? なんでちぃーちゃんは祭り上げられていたの?」
「お前……そんなことも知らずにあんな事を――ってごめんなさい! ごめんなさい!! 今すぐ説明致しまぁあああああっす!!」
幼馴染二人の眼光に空寒いもの覚えて、口が反射的に開いて、声帯が反射的に震え、舌が反射的に動いていた。全く、癖と予感というものは本当に恐ろしい。
俺は、戦闘機から突き落とされて、その戦闘機が起こした突風で宇宙空間に放り出された事、宇宙空間でも当たり前に生きていたこと、念じると空に足場ができて、自由自在に跳べるようになった事、青い羽根が発光して、様々な武器に変わったこと、そしてその後の戦闘について、赤裸々に語った。(というか語らされた)
「……ちぃーちゃん、これからどうするつもりなの?」
全部説明し終えた後で、南嶺は俺に聞いた。
「どうする、って何が?」
「もう、これからどうするか、だよぅ」
美流九の言葉に、はぁ? と首を傾げてしまう俺。これからって、普通にオンラインゲームを楽しむだけなんだけど。
「はぁ……つくづく鈍感ね、色んな事に」
「あ? どういう意味だよ?」
「ちぃーちゃん、自分がしたこと、よく思い出してみてよぉ」
自分がしたことっていえば、ステーションの単独破壊、敵機二千体破壊……。
「けど、それがどうしたってんだ?」
「はぁ、わからないの? 簡単に言えば、今のあなたはモテモテってわけよ」
「モテモテ?」
そんな、彼女いない歴=人生の俺にこんな人生の花の時期が訪れているなんてっ……ゴフゥ!?
「ちぃーちゃん、何か勘違いしてなぁい?」
「突然脇腹を殴るなんて……え? 勘違い?」
「モテモテっていうのは、恋愛の意味でいうモテモテじゃなくて、戦力としての意味でのモテモテよ」
完全に説明モードの南嶺さん。俺が戦力の意味でモテモテってどういう事?
「このゲームは、皆で戦うパーティーゲームみたいなものよ。つまり、味方が強ければそれほど自軍は強くなるし、得をする」
「ふむふむ」
「で、そこでちぃーちゃんの登場。ちぃーちゃんは今回、たった一人でステーションを壊滅させた。この意味、分かる?」
「えーと、どういう事?」
「わかりやすく言えば、今のちぃーちゃんは核爆弾同様の位置なのよ」
「核爆弾? ちぃーちゃん物騒だねぇ」
「でも、そうなのよ。ちぃーちゃんさえいれば、どんなに弱小のステーションだって無敵の艦隊になる事が可能なのよ。今回のステーション265みたいにね」
「ということは……」
「どうやら、ようやく実感できたみたいね。あなたが単独でステーションを破壊したという噂は、遅かれ早かれ、広まっていく。そうするとどうなるか」
「俺という核爆弾を求めて、色々な人たちがスカウトにやってくる?」
「ええ、その通り」
なるほど。核爆弾を持ったアメリカは、たった二発で日本を降伏させた。それと同じように、俺はたった一人でステーションを壊滅させたのだ。それも短時間で。もし俺がステーションの主だったとしたら、どんな手を使ってだって、そいつを手に入れようと躍起になるだろう。
「でも、それがどうしたっていうんだ?」
「今のあなたは、どこへ行っても大歓迎よ。つまり、どこにだって自由に行くことが出来る。だから、これからどうするのって」
「は? そんなもん、ここに残るに決まってんだろ」
幼馴染二人が一瞬唖然としたようにこちらを向いてきたが、俺としてはコレ以外の選択は思いつかなかった。そもそも、俺はコイツらと遊ぶためにこのオンラインゲームを始めたのだ。
「それでいいの? ちぃーちゃん」
「ああ、どんな誘いを受けたって、この意見は変わらないだろうさ」
「う~ん、なんというか、ちぃーちゃんらしいねぇ」
「大金受け取ったら、ころっと意見が変わりそうだけどね」
またそんな身も蓋のない話を、と俺が苦笑いしていた時だった。
「それじゃあ、困るんですよ。それじゃあ、ね」
全く別の声が聞こえて、
道路側に近かった南嶺と美流九が、突然現れた人だかりの中の数人に取り押さえられ、口を塞がれた。
その先頭、勝ち誇った表情の女を、俺は睨みつける。
「てめえは、さっきの……!!」
「覚えていただけて光栄です」
忘れる訳がない、と俺は歯噛みする。
一番最初、俺をF―35から突き落とした、ステーションの主と名乗ったムジカという女だ。
警戒し、俺は青い羽根を願って右手に現出させる。が、その瞬間、捕らえられた南嶺と美流九の頭部に、黒光りする拳銃が突きつけられた。
「おっと、動かないで下さい。動けばこの子達がどうなるかは、分かりますよね?」
「くっ……」
完全に先手を打たれた。これでは、手の出しようもない……!!
「ふふふ、誓ってもらいますよ? この子達を助けたかったら、ね」
「ああ、誓うさ。俺はここにいよう」
ムジカの要求に、俺はあっさり答えた。もとよりそのつもりだったのだ。ここで拘泥するだけ無駄な話だ。だが、
「ふふ、では、この子達はお預かりしますよ」
「はあ!? 何いってんだよ、てめえ!!」
そのまま退散しようとするムジカ達。どういうつもりなんだ、一体!?
「ふふ、簡単なことですよ。人質です。ひ・と・じ・ち。あなたが心変わりしないように、ね」
「心変わり、だと!?」
一瞬食って掛かろうかと思ったが、ふと気付いた事があった。思わずにやけた表情になる。
「人質、ねえ……。無駄な事したな。ここはVRMMOだぜ? ログアウトさえすれば、キャラクターも同じく消滅する。お前らが例え南嶺と美流九を拘束して、ログアウトできないようにしたって、寝落ちすれば自動ログアウトだ。それから俺が守れば、人質にはならんだろ。残念でした♪」
打って変わって勝ち誇った笑みを浮かべる俺。だがしかし、相手の表情は一切変わらない。
まさか、別の方法があるのか――?
「あなたこそ、本当に馬鹿ですね」
「なんだと!?」
「プレイヤーが宿泊施設でログアウトすると、どうなると思います? 次にログインした時に、そのプレイヤーはその泊まった部屋の中からゲームをスタートするんですよ」
「おい、てめえまさか……」
「はい、そのまさかです。二人を宿泊施設に監禁します。もちろん24時間体制で見張りもつけますよ。」
この畜生め!! と俺はギリギリと歯ぎしりするが、打開策は見つからない。
「くそ、いっその事アカウントは消して作りなおせば……!!」
「あなたゲームの内容を忘れたんですか? このゲームは、一度アカウントを消すと、二度とそのユーザーはこのゲームには参加できないんですよ。例えヘッドギアを買い換えて、アクセスポイントも変えたとしても、その所有者の脳内情報から個人を特定するので、そんな事無駄ですしね」
「……ッ!? そんな!?」
ふざけている。とてもとてもふざけているッ!!
ゲームっていうのは楽しむもんだろ!! こんな他人を邪魔するみたいな姑息な真似が、楽しいもんなのか? こんな事が、まかり通って良いのかよ!!
激怒を抑えきれず、こんな言葉が口から出た。
「たかがゲームだろッ!! なんでこんなことするんだよッ!!」
その言葉にムジカは少し暗い表情をして、
「あなたにとっては遊戯でも、私にとっては現実なんですよ」
冷たく、言い放たれた。
これが決定的だった。
そうだ、いくらゲームだからと言っても――ゲーマーにとって、この世界だって立派に現実なのだ。
でも、だからといって、
「だからって、俺はてめえらが二人を束縛するのは、断じて許容できねえッ!!」
こんな理不尽だけは、俺にはどうやっても許すことはできない!!
ち、ちぃーちゃん格好いい……!!
意外だわ、こんな男らしいところがあるなんて!!
次回が本当に楽しみだわ、フフ……!!
作:いや、それが何も考えてないんですよねー。
――!!?? 今度もなんなの一体!?