その4
やっほー!! 来たよ来たよ敵艦隊!
南嶺ちゃん、一緒に何百体と鉄くずに変えようね!!
それにしても、妙な予感がするのは、私だけかなあ
by美流九
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科学ゾーン:ステーション265:戦闘機離発着デッキにて――
「死ぬぅうううううううううううううううううううううううう!!」
俺はF―35のコクピットから女の子に落とされた挙句、F―35の車輪に轢かれそうになり、間一髪で避けた所をF―35から発せられた猛風によって宇宙空間に突き落とされそうだ。ていうかその寸前だ。
結果的に、悲鳴と抵抗虚しく俺は宇宙空間に飛び出してしまった。
莫大な圧迫感。いくらVRMMOでもこれはいただけない。
ていうかヤバ、意識が……。
う……。
……。
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科学ゾーン:宇宙空間
俺は宇宙空間で浮遊していた。
遠くでは沢山の閃光が行き交っており、傍から見るぶんにはまるで花火のように思えた。残念ながら、宇宙なので音は全く聞こえなかったが。
いやいや、ちょっと待て。おかしい事がある。
なんで俺は当たり前のように宇宙空間で浮遊していて、しかも生きてんだ!? 宇宙らしく、多少の圧迫感はあるし、声も出ないけど、間違いなく俺は生きているぞ!?
基本的にこのVRMMOは『神』が関わってくる案件以外、科学に矛盾するような事は何一つ起きないはずだ。つまり、宇宙なんかに放り出されれば、気圧の低さのお陰で体内の気体が派手に膨張し、ひでぶと言いながらパンと風船見たく弾けて死んでしまうはずだ。ほら見ろ、あそこでコクピットを壊されて宇宙空間に投げ出されて、膨張し、パンと弾けて光のクズとなった同胞がいるじゃないか。
だからなんで俺は生きてんだって!!
なんで俺ばっかしこんなおかしな目に遭うんだ!? リベロといい今といい、何か不幸の女神かなんかが取り憑いてるとしか思えねえぞ!?
喚いてたってしょうが無い(声出ないから喚けもしないし)。どうにかして現状把握を――
くるり、と俺は戦闘から背を向けて、見た先には、青くてまんまるとした、地球があった。
地球って、本当に丸いんだな――いやいや、本物じゃないし。
話によると、あそこに見えるアレこそが、神話ゾーンの場所らしい。科学ゾーンは神話ゾーンの周りを人工衛星のようにグルグルと周回していて、週に一度だけ降りて戦争を仕掛けるんだとか。なんでも、もとはあそこも科学ゾーンの場所だったらしく、次元の狭間からやってきた神たちに乗っ取られてしまったらしい。追いやられるように宇宙に逃げ込んだ科学ゾーンは、神を上から見下ろすとして神に不興をかったらしく、結果的に神に滅ぼされそうになる。だが、決死の戦いで手に入れた神殺しの槍、ロンギヌスを奪い、科学ゾーンはそれを科学的に解明することによって自身の兵装に埋め込み、神と対等に渡り合えるようになったんだとか。
これだけ聞くと完全に神話ゾーン悪もんじゃん! と俺は南嶺に突っ込んだのだが、南嶺によると、
『これは半分科学ゾーンも自業自得ではあるのよ。彼らは奴隷や安賃金での過酷労働を平民に強いてたから。だから神話ゾーンの神の加護によって、現状のあの世界も、危険ではあるけど人々は幸せよ。結局、どっちも良くてどっちも悪いの』
喧嘩両成敗、ってところなのか。
ま、今の俺にはあんまし関係ないけどなー。
そんな事をのんびり考えていると、急速に体が火照ってきた。
南嶺の事を考えてたからか? まさか俺、南嶺のこと――
いや、もちろん全然違った。
ようは、大気圏に突入しかけているのだ。有体に言えば、このままじゃあ摩擦熱で死ぬ。
ぎゃあああああああああああああ!! やべええええええええええええええッ!!
声なき悲鳴を上げつつ、なんとかして上へ戻ろうとする――平泳ぎみたいに。
でも、一介の人間が引力に抗える筈もなく、俺はどんどん神話ゾーンに落とされそうになる。
やべえ!! 足もつかって、もっと抵抗ぅうううううう!!
……まあ、そんな事をしたって無駄な足掻きだと、俺は思っていたんだ。
でも忘れてた。リベロの能力、空中遊歩を。
たんッ、と足に確かな感触があって、
俺は跳ね上げられるように引力から逃れた。
――これが空中遊歩。
宙を自在に歩く、跳ねる能力。
ってどこまで行っても止まらないんだけどッ!!
まあ、普通そうだろう。宇宙っていうのは、何かにぶつからない限りは進む方向に延々一方通行なのだから。
ならば、足で横を蹴ってみるか?
蹴り足を右に繰り出す。――だが、さっきと同じように地面に着地して、跳ね上げられるような感覚は無かった。
……もしかして、飛ぶって意識が足りないからか?
そんな馬鹿な、と思う。いくらこのゲームが優秀だからって、プレイヤーの心までを読み取れないはずだ。だってこれはヘッドギアの性能の問題なんだから。そして俺の知るかぎりでは、ヘッドギアにそんな性能は持ちあわせていない。
でも、何故だか不思議とそんなような気がしてきた。
もう一度、天を目指す意識で、空を蹴る。
飛んだ。今度も地に足がつく感覚から、押し上げられる感覚がして、俺は大きく跳ね上がった。
本当に勢い良く。
――勢い良すぎて、宇宙空間でドンパチやってるなかに飛び込んでしまったッ!?
眼前をビームが行き交い、慌てて空を蹴って後方に下がる。すると今度は背中にズシンと何かにあたった感覚がして、今度は何だ!? と振り返ると、超巨大人型ロボットが。
やべえ、これ敵!? 味方!?
俺が疑問に思った次の瞬間、
宇宙に展開される戦闘機や兵器の頭上に、全てに赤と緑で吹き出しのようなマークが付いた。
赤の吹き出しが付いたものは、ふきだしの中にENEMYと書かれている。逆に緑のふきだしのものはALLYと表示されている。つまり、ENEMYは敵、ALLYは味方、ということだ。
それにしてもどういうことだ? なんか表示が俺の意思に従ったみたいに変わったぞ!?
まさか本当にこのゲームには、プレイヤーの意思を汲み取る技術があるのか!?
思う暇もない。横に突き刺すように来る光線を、空を蹴って上空に逃げて避け、天から突き刺すように来る光線を、右に空を少し蹴って避ける。
――短い間に随分と使い慣れてしまったもんだ。
でも、いつまでもこうやって逃げ続ける訳にも行かないだろう。そろそろ俺も攻撃をしたい所だが、拳銃は当然宇宙空間では使えない。
じゃあ何で抗戦すりゃいいんだよ!? と俺が疑問を抱いたその時だ。
俺の右手には、いつの間にか青い羽根が握られていた。
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科学ゾーン:ステーション265:外縁部:砲台――
「南嶺ちゃん!! 発射よーい!!」
「発射!!」
威勢の良い声と共に、昔なつかしの砲台から、黒い弾ならぬ青い光を弾かせる、赤いビームが発射された。
遠くで戦闘機が幾つも爆破され、破砕した破片が星空を舞う。
「いやぁー、スカッとするねぇ!! こうも爽快に敵が倒せるとさぁ!!」
「まだ発射角度に修正の余地ありね。ここをこうしてっと」
すぐ隣では同じように砲撃する人々がいるのだが、一向に撃墜率は上がらない。逆に彼女らは異常な数の撃墜率を叩き出していた。
「へへー、ちぃーちゃん褒めてくれるかなぁ」
「美流九、馬鹿言ってないで早く装填準備手伝ってよ」
「はいはーい」
美流九達が小言を呟いて装填準備に取り掛かった瞬間だ。
砲台の窓から覗く星空が、莫大な光に塗りつぶされた。
光が収まると、そこにはもう自軍と残骸しかない。
敵ステーション艦隊は、クズの山と化していた。
「す、すっごー。ここのステーション、こんな凄すぎる武器持ってたのぉ?」
美流九は目を丸くして、まるで他人ごとのようにつぶやく。
だが南嶺は周りの様子を伺って、これはここの兵器ではない事に気がついた。
「どの人を見ても、唖然とした顔ばかり……。一体どうなっているというの?」
南嶺は砲台の窓に顔近づけ、目を細めて自軍を見る。
その先、もっとも先頭に居たのは、
「ちぃーちゃん……?」
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科学ゾーン:宇宙空間:五分前――
なんでこの状況で、羽根が出てくるんだ?
俺の疑問に、当然青い羽根は答えてくれない。
首を捻っていると、突然目の前のロボットが動き始めた。
反射的にロボットの頭上を見ると、ふきだしの表示は赤、すなわちエネミー《てき》というわけだ。
――おわっと、あぶねえ!!
唐突にロボットが俺を鷲掴みにでもするつもりなのか、手を開いてこちらに右腕を伸ばしてきた。当然、足で空を蹴って跳躍。間一髪で腕を避ける。
だが、当然敵のほうもそのまま止まってはくれない。捕獲は無理だと思ったのか、左腕に構えていたライフル銃の銃口をこちらに向けてくる。
――ッ、ヤバッ!!
思った瞬間には、ライフルから眩しい閃光が一直線に放たれる。回避ももう、間に合わない。
くそっ、なんか身を守るもんでもあれば……!!
そう思い、目を瞑った瞬間、
青い羽根が手の中で白く瞬き、腕が勝手に前に突き出される。そして、大きく光を放ち始めたかと思うと――
次の瞬間、俺の身長分もある大きさの巨大な盾が現れ、文字通りライフルからビームを弾き返した。
まるで、鏡に光を当てたように、綺麗に弾きかえる。
振動で体がバックする。盾の影から顔を覗かせると、ちょうどロボットが自身の放ったライフルによって体を貫かれている所だった。
鳩が豆鉄砲を食ったような表情になりながらも、自身が持つ巨大な盾を見る。俺の身長分もある盾が、幅一メートルにわたって広く展開されており、縁には青い羽根の名残なのか、青くふさふさした羽根が生えていた。
もしかして、これってさっきと同じ――
俺はようやく、リベロの能力の一つを理解する。武器を自由自在に変更できるということは――
俺は巨大な盾に念じる。
そして光が放たれ、生み出されるのは巨大な剣。青い羽根をそのまま連ねて巨大化させたような風貌だが、しかし羽根の一枚一枚はとてもつもなく硬質で鋭く、危うい。
そう、武器を自由自在に変更できるというのは、青い羽根を所有者の意思によって自由自在に様々な武器に変化させることだったのだ。
無謀にも飛び込んでくる戦闘機一機を見据え、刺し抜くように構えて、飛び込む。
怯えるパイロットの顔が一瞬コクピットから見えたが、容赦はしない。
勢い良く貫き、戦闘機を真っ二つにした。
すると正面から飛び込んでくる二発のミサイル。
少し考え、弓に変化。既に弓矢は背中に幾つも背負っている。二本取り出し、矢を番えてよく引き絞り、発射。
自動追尾するように真っ直ぐミサイルに向かう矢は、二本ともミサイルを貫通、爆破する。
――ほっんと凄すぎだろ、コレ!!
自分が内側から弾けそうなほどにこれを愉しんでいるのが分かる。
やってくるビームを盾で受け、剣に替えて斬って捨てる。ゆるやかに流れるような動作で、次から次へと敵機を破壊していく。
段々敵がステーションへと後退していくのが分かった。味方でも、俺の姿に圧巻されたのか、尻込みするように何もできないでいた。
おかげで、敵と味方が完全に二分化した。
――今なら、一気に殺れる!!
今度は剣を銃に変える。銃といっても口径がゆうに十五センチくらいはありそうな巨大な銃だ。視界の右端にエネルギー充填のグラフが現れて、未だゼロパーセントで止まっていた。
エネルギーをどうやって充填するかは、まるで頭の中にインプットされたように分かった。銃のトリガーを引き絞ると、少しずつ銃口から光が放たれ始め、エネルギーメーターのゲージが徐々に上がっていく。
ところが敵だってそれを全くもって見過ごす訳も無く、無防備な俺に沢山のミサイルやビームを俺に向けて放ってきている。
――くそ、まだ五十%も充填できてねえ。このままじゃあ――
俺が思わず歯噛みしていると、いくつか味方の機体が俺の前に出てきた。
どうやら、俺をかばうつもりのようだ。
その中には、先程俺が突き落とされたF―35もある。
――さっきのお詫びって訳か?
どちらにせよ、ありがたいことこの上ない。
充填完了まで、あと残り十%を切った。
いつの間にか、多くの機体が俺を守るために前に出て、戦ってくれている。
――こりゃあ失敗できねえな!!
ついに、充填が完了する。銃口からは眩いばかりの光が溢れ出していた。
俺は空中を蹴って、味方の先頭に出る。
そして改めて銃を構えて、トリガーに掛けていた指を、放した。
次の瞬間、半径が一メートルはある巨大な青い光が、銃口から放たれた。
俺はそれを、敵軍に向けて横から薙ぐように照射していく。
エネルギーメーターが残り二十%を切る頃には、殆どの敵機が壊滅していた。
だが、まだ足りない。
俺は遠くに見えるステーションを見て、迷わずそこに光を放った。
光はステーションを真っ二つに切り裂き、破壊した。
その頃になればエネルギーは切れ、銃口からは光は放たれなくなった。
そして、目の前にはもう、残骸しか残らない。
これがリベロの力。
たった一人でバランスを崩してしまう程のチート能力。
――いや、まじで凄すぎだろ!!
思わずガッツポーズをしていると、チャラーンと音が聞こえた。
なんだあ、と驚いていると、視界右下の方に二千体撃墜ボーナスと、ステーション破壊ボーナスが現れていた。
ポップアップにタッチして開くと、『今回の獲得合計Sは二十万Sです!!』という表示。
うーん、ありがたいんだけど、少し締まらないなあ。
……ちぃーちゃん、あんなにお金を貰えるなんて羨ましじゃなくて凄すぎるわ。さすが私の幼馴染ね。
――え? いつから私のになったかって?
それは語りだすと本当に長いことになるわ。まずは何から話そうかしら。そうね、まずはちぃーちゃんに出会った瞬間に鼻フックを仕掛けた所から――
作:いや、そういうのもう結構間に合ってるんで。
――!!?? 何!? 今の!?