その3
ちぃーちゃんちぃーちゃん!!
ついに戦闘だよぉ、きたよ~!!
燃えてきたぁぁぁああああああ!!
by美流九
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『戦闘が開始されます。戦闘員の方々は外縁部で待機して下さい』
遠くから聞こえるアナウンスに耳を傾けていると、一つ重要な事に気付いた。
「なあ、戦闘って、科学ゾーンだったら宇宙間戦争なんだろ」
「それはさっきも説明したわ!! それがどうしたっていうの!?」
明らかに急いだ様子の南嶺が言う。隣で走っている美流九はのんびりしたものだが、どうも南嶺は戦闘が待ちきれないらしい。そんなに急いだって、まだ始まらないものは始まらないのに。
「俺たちってさあ、戦闘機まだ持ってなくない?」
そうだ。戦闘機が無ければ戦闘なんてしようがない。生身で宇宙空間へ飛び出すことは、自殺行為に等しいと言うより、自殺行為だからだ。だから戦闘機に乗って戦う。だけど、生憎俺達は戦闘機をまだ一つも開発していないのだ。
しかし、南嶺はおでこに手を当ててはぁーと溜息を吐く。なんでだろう、すっごく馬鹿にされた気分だ。
「ちぃーちゃん、話を本当に聞いてたの? なんならもう一度ボディーブローから始めようかしら」
「すいませんごめんなさい。これからはちゃんと聞きますのでボディーブローとかラリアットとかまじで止めて下さい」
南嶺がいきなり腹部を思いっきり殴りだしたのは本気で驚いた。お陰で血反吐を二回吐いてしまったよ。
「仕方がないわね……。良い? もう一度説明するわよ」
「いっいでぇーす!!」
「美流九、お前たまにテンションがおかしいよな」
「いぇーい☆」
「……良い? 外縁部には戦闘機が借りられるところがあって、そこで戦闘機を借りて戦闘に参加するのよ。でも、当然貸し出しには限りがあるから、早めに行かないと借りれないのよ」
「借りれなかったらどうするんだよ」
「借りれなかったとしても同じことよ。外縁部に幾つか設置してある砲台を先に場所とって、使うだけ。それも数に限りがあるから、どちらにしても急がないと」
なるほど理解した。道理で南嶺が急ぐわけだ。
でも、戦闘機貸し出しって、やっぱり金掛かるんじゃないんだろうか?
その旨を南嶺に伝えると、南嶺はしっかり答えてくれた。
「レンタル料は活躍次第では安くなる時もあるわ。それに破損や大破させなければ、10sあれば普通に借りれるのよ」
「10s! 随分と安いんだな」
「ええ、あそこでレンタルしているのはここのステーションの長が開発したり、ここに住んでいる住民が開発したものばかりだから、あそこで自分の戦闘機をモデルとして出すことも可能なのよ」
「あれ、でもさっきショップでは戦闘機の販売とかなかったよな」
「うん、だからそのかわりにプレイヤー間での個人販売は自由なんだよぉ。その代わり大抵が法外な値段だけどねぇ」
「法外って……」
美流九の言った現実に、とてつもなく嫌悪感を抱きながらも、俺達は街を疾走していった。
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科学ゾーン:ステーション265:外縁部:戦闘機、武器レンタル『トレーダー』前――
「ええ~!! 後一機しか残ってないぃ~!?」
美流九の驚愕の一言に、人のよさそうなNPCの店主は申し訳なさそうに頭を下げた。禿頭が見事に晒される様は本当に見もの、いや潔く、敬意を表したいくらいだ。
「う~ん、どうしよっかぁ~」
「南嶺か美流九のどっちかが乗ればいいさ。俺とどっちかは二人で残って砲台へ行こう」
「「二人で!!??」」
俺の提案に、二人が声を合わせて驚いた。なんだなんだ、お前たちは俺と二人でするのがそんなに嫌なのだろうか。
「南嶺ちゃん、そういえば戦闘機乗りたいとか前に言ってなかったっけぇ? ここは私が譲るから、乗ってきたらぁ?」
「美流九こそ、前に『戦闘機ってなんかスリル満点でかっこいいよねぇ~!』と多少興奮気味で言ってたじゃない。ここは私が譲るから、美流九が乗って行きなさいよ」
しかも、二人共譲りあう事によって相手を誘導し、自分が乗れるように誘導している。なんて高等技術を使うんだ。それほどまでに俺を嫌うのか。確かに俺は容姿が良いほうじゃないけど、さすがにこれはちょっと……傷つく。
「もういいよ……。俺が乗ってくるから、二人は仲良く砲台ではっちゃけてきてくれ……」
「あれ? ちぃーちゃんなんで意気消沈してるのぉ!?」
「ちょっとちぃーちゃん!?」
制止する二人を尻目に、俺は一人寂しく受付を終えた。
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科学ゾーン:ステーション265:外縁部:戦闘機離発着デッキにて――
ズラリと並ぶ戦闘機、戦闘機、戦闘機。幼い頃に行った航空自衛隊の航空祭を思い出す。あそこで滅茶苦茶に戦闘機が並んでいて、見た時は本当に圧巻だったが、今はその時以上の迫力がある。
ていうか、普通の戦闘機には見えないもん沢山あって、現実味が無さすぎる。
スターウォーズは一時期ハマっていたので、あの奇怪の戦闘機に乗ってみたいと幾度と無く思っていたが、実際にそのようなものを前にしてみると、本気で迫力があって、尚更その思いが強くなる。
というか何でこんなのが普通に空飛べるの、とかちょっと夢の無いことはほっといて!!
「えーと、カタパルト番号は38番か……」
俺は薄い黄色のカードの表示を見て、辺りを見回す。
店主の話では、俺が乗る戦闘機はすでにカタパルトで発進を待っているらしい。コクピットに入って、今俺が持っている淡黄色のカードキーをコクピット内のホルダーに差し込めば、ETCよろしく音声がして、戦闘機の操縦桿や制御システムが作動するらしい。詳しい操作方法は、初めてなら説明が貰えるらしいので、気にしない。
それにしても、さっきも行った通り奇怪な戦闘機が多い。4本足で立ち上がっているものもあれば、まるで脱出ポッドを思わせるような、小型の卵のように流線型なものもある。ちなみにロボット兵器は別にカタパルトが用意されているらしいので、お目見えするのは戦闘時のみだ。さて、俺の戦闘機は一体どれかな――
「おお、あったあった38番。さて、俺の戦闘機は――おおっ! こ、これは!!」
F―35じゃないか!!
せっつめいしよぉぉおおう!! F―35とは、F―35ライトニングという愛称で呼ばれる、アメリカ空軍で開発中の戦闘機の事である!! ステルス性に優れた菱形翼を持ち、その後方には平面形の全遊動式水平尾翼を持つ(略)で、それに使われるエンジンは(略)、さらにヘッドディスプレイが採用(略)で――っておい、作者!! 調べんのと書くのが面倒だからって極端に端折るんじゃねえ!!
それはさておき、確かにF―35だ。当然俺は機種名ぐらいしか知らないのでそれ以上の事はよく分からないが、兵装としては、両翼に三発ずつミサイルを持ち、胴体内部にも4発のミサイルを隠し持っているようだ。また、機内武装として機関砲ポッドも搭載されている。しかし当然ポッドから射出されるのは、鉛玉ではなく、光粒子ビームだが。
「……今更だけど、宇宙間戦争に超現代的な戦闘機で戦うっていうのはどうなんだろ」
一人文句を言っていると、
『敵艦、近付いて来ております!! 戦闘機パイロットは速やかに発着準備に入って下さい!!』
少し気弱な雰囲気の女の子の声がアナウンスで響き、戦闘機の点検や手入れ等をしていたプレイヤー達が皆慌ててコクピットに乗り込む。
「やべっ、俺も急がねえと」
俺も皆を見習い、急いでF―35に乗り込む。コクピットは何故か半開きの状態だったが、まあ以前使用したパイロットが締め忘れたんだろうと思い、コクピットによじ登って、全開にする。
「ひゃ、」
「ひゃ?」
あれ、今中から聞き覚えのある女の子の声がしませんでしたか?
コクピットをよく見てみると、後部座席にパイロットスーツと無骨なヘルメットを被った小柄な人物が居た。その人物の胸の辺りを見てみると、僅かながらに膨らみがあることが確認できた。という事は女の子なのか。そしてさっきの声もこの女の子のものなのか。
「あのー、ここで何してるんで?」
「え、えっと……」
返答ができないのか、妙にまごついている。それにしてもこの声、どこかで……?
あ、思い出した。
「あれ、もしかしてさっきアナウンスしてた人じゃないですか?」
「え、ええ、まあ、そうですが」
うーん、何でここにいるんだろ。
もしかして……?
「機体、間違えちゃったんですか」
「はい? あ、ああ~そうです! そうなんです! 機体を間違えてしまいましてカードキーが入らなかったからそれでどうしようかと迷っていたところを……」
「じゃあ、一緒にあなたの機体探してあげますよ。どこですか?」
「え、それは……」
俺は思わず自分の表情が硬くなるのを感じた。
「本当に機体、間違えたんですか」
「…………」
返答は、無い。
「……だって、」
「だって?」
「だって私だって戦闘参加したいのに、皆さんステーションの主は最後の砦だから戦闘に出ちゃダメっていうんですもん!!」
と喚くようにそいつは言うと、突然「ヒック……」と泣きだした。ていうか、コイツここのステーションの主なの? 全くそうは見えないんだけど!?
だが、ここで見捨ててしまえるほど、俺の道徳精神は腐ってなかった。
「あの……よかったら、一緒に乗って行きません?」
「え……?」
「いや、初対面で厚かましいかもしれないですけど、でもちょっと可哀想だな、っていうかなんていうか……。とにかく、良かったらどうですか? もちろん、危なくなったら退避しますんで」
「でも、ご迷惑を掛けるわけには……」
「いやいや全然迷惑でもなんでもないですよ!! それに俺初めてなんで、多分逆に教えてもらうこと沢山あるだろうし」
これは実際、本気でそう思ってる。ここの主という事は、即ちそれだけここに長く居て、俺よりも戦闘経験が豊富だということだ。教えてもらうことは、少なくはない。
「あの……お名前聞いてもよろしいですか?」
「名前、ですか。タタラって言います。よろしく」
「私はムジカといいます。あの、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ、どうぞ宜しく」
二人で握手を交わすと、今度はドーン、と響くような低い音と振動がして、何事か周りを見渡す。
俺とは違い、ムジカは現状を把握したらしく、素早くヘルメットの無線をONにして、何事かを呟いた。
『相手が先制攻撃を仕掛けてきました! 総員、攻撃を開始して下さい!!』
大きな音でムジカのアナウンスが響くと、戦闘機の列の中でも中央のほうにある大型戦闘機が素早く発進し、それに続くように様々な戦闘機が発進していく。
「タタラさん、私達も行きましょう!!」
「え? ああはい、今すぐ!!」
ムジカの促しに応え、素早くカードキーを差し込みコクピットに飛びの――
コクピットから突き落とされました。
「へ……?」
間抜けに空で声をだす俺に、ムジカは上から言い放った。
「すみません。でも、初心者では足手まといなんです」
「ふざけんなよっ……」
俺は懸命に手を伸ばすが、当然機体に捕まれなどしない。俺はそのまま地面に叩きつけられた。
「うっ……」
HPゲージが数ドット減って、コンマ一秒もしない内に回復した。が、そこで安堵も脱帽感も抱いている暇は、凄く残念かつ不幸なことに、無かった。
F―35ライトニングの車輪が、徐々に近づいてきたのだ。
「え、ちょっと待った。本当にマジでふざけんなよッ!!」
とっさに横っ飛び。横をスレスレの所でF―35の車輪が通り過ぎる。しかし、残念ながらそれで安堵するのもまだ早かった。
F―35が発進する際の爆風が、俺の体を更に前方へふっ飛ばしたのだ。
「おわわわわわわわわッ!!」
――やべえ、宇宙空間に出ちまう!!
俺は必死に掴むものを探すが、所詮無駄な足掻き。掴むものなんて、どこにも無かった。
「死ぬぅぅぅううううううううううううう!!」
最後の悲鳴が虚しく響き、俺は、満点の星空の真空状態な宇宙に、放り出されたのであった。
……あら? 戦闘シーンは?
え、作者からの伝言? 何? ちぃーちゃん早くもDEAD!?
……いくらなんでも戦闘もしてないのに死ぬなんて、おかしい、絶対何かあったんだわ。
それにしても、どうしてちぃーちゃんは自分一人で行ってしまったのかしら。どうして私を――ブツブツ。
by南嶺