その18
皆、久しぶりだねぇ!!
作者が一時期失踪してたからさぁ! ほら、ごめんなさいは?
「ひぃぃぃぃっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
今日も元気にカオスに始まるよぉ
by美流九
✚
神話ゾーン:北欧神話領域:火の国『ムスペルヘイム』上空――
――混乱していても仕方がない。
まずは、どちらを先になんとかするか。
見えない不明瞭な敵と、大きくて分かりやすいお友達(巨人)の王様。
優先するならば当然――
「ムスペルゥウウウウウッ!!」
思いっきり大声で叫んでみると、案外地に響くような大声が出て、ムスペルが一瞬ビクッとこちらを見る。
「うう……耳が」
抱えていたメイ(おっとりな人格に変化)が耳に手を当てて呻く。
申し訳ないと思いつつも、一応断りをいれる。
「悪い、ちょっとしっかり捕まっててくれ」
「え……今何ていっ――きゃぁああっ!?」
言葉を最後まで聞いている暇なんてない。構わずムスペルめがけて空を蹴って一気に加速した。
輸送機とすれ違い、こちらを振り向く南嶺達を見送りつつ、片手に持った青い羽根を大剣に変化させておく。
向かいでは、ムスペルが大斧の柄に両手を添えて、腰のあたりで構えている。
――片手じゃどれだけの怪力になるだろうか
「うぉおおおおおおおおっ!!」
考える間もなく、縦に振られた剣と横に振られた斧が交差した。
「って、重っ!」
想像を絶する重さだ。喩えるならば、あのそのなんてゆーかその……アメリカンフットボーラーのタックルを間近で受けた感じの。うん、ボキャ貧だ。
「あのー……」
剣と斧が押し合いをし、火花が激しく飛び交う中、腕の中のメイが恐る恐るといった感じで言う。
「よければ、お手伝いを致しましょうか……?」
「よろしくお願いします! はい!」
即答だった。男と男の真剣勝負? 二体一は卑怯? 女に男が助けられるとかプライドが傷つく? 何それ美味しいの?
何にせよ、切羽詰まった状況だ。正直猫の手だって借りたい。肉球を揉みたい。……そうじゃなくって。
「あの……じゃあ、ブラインド掛けますね。――えいっ」
メイがムスペルの方を指さし、掛け声をすると、同時に一瞬人差し指が輝いて、すぐに輝きはぱっと消える。
すると、大斧からかかる重圧がふっと軽くなる。
そして、ムスペルが周囲を混乱したかのようにキョロキョロと見回しはじめた。彼は首に手を当て、困ったさんな表情をして首を傾げ、周囲を確認している。微笑ましい。
「きめぇ……」
「ですねえ……」
あまりの気持ち悪さにほとんど初対面(二重人格の面倒な所その1。同じ姿かたちしてるくせして別人ということ)の俺達が同意しあうほどである。
――が、その瞬間、ムスペルがふっとこちらを向いた。
「あ――、もしかして、声で場所バレた、とか」
「あ、ダメです! 余計バレてしまいます! 声出さないで下さい!」
「そういうアンタのほうが声大きいですよ……」
とやかく言ってる間に、ムスペルが必死の形相で走ってくる。
「どうにかしなくちゃな……」
この状況だと、下手に逃げればがむしゃらに斧振り回してきたりして危ないかもしれない。
「こういう時はつっこんでみるか」
「えと、少し短絡的な気が――きゃあぁっ!」
言葉を最後まで聞く暇など(ry。とにかく、突っ込んでみよう。
ちょうどその時、目の端に写ったMPゲージが多少回復している事に気づいた。
「ここは熱血少年になってみるか!」
拳を握り、がむしゃらに振られた斧を掻い潜り、そして懐に入って、
「うおおおりゃああっ!」
怪力の出せる限りを拳に込めて、巨人のドテっ腹に叩きこむ。
轟! と鈍い音が鳴り響き、風を吹き散らしながら、巨体が後方の山ごと吹き飛んでいく。
やがて見えなくなると、ようやくひとつ溜息をつく。
「ふぅ、気持ちいいなあ、これ」
「私は怖かったです……」
メイは顔を引き攣らせていた。
「あ……ゴメン」
瞬時に申し訳なくなり、謝る。
メイはうっすらと笑顔を浮かべて、
「あ、気にしなくていいんですよ? ジェットコースターみたいで楽しかったですし」
――なんて心の広さだ!
俺は思わず目から涙を浮かばせていた。
「な、なんで泣いているんです!?」
「い、いや……。これが南嶺とか美流九とかだったら、叩かれたり殴られたり首締められたりしてるからさ……。なんか、こういう人もいるんだなあって感心しちゃいまして」
「あなたのお友達は中々過激ですね……」
苦笑いされた。
『――僕を忘れてもらっては困る!』
ほんわか空気には似合わない、低い声が大地に響く。
つーか、
「誰だっけ?」「誰でしたっけ?」「誰だったぁ?」「誰?」
俺とメイ、上空にいる南嶺と美流九の声がハモった。
『キ、ラ、ーだっ!!』
――そんな感じの奴、居たなあ。
「そういえば、メイからのメモに『キラーに気をつけてね』とか有りましたね」
メイが呟く。話からして別人格のメイが残したメモということだろう。
『そうだ、僕は誰もが恐れるキラーだ!!』
「なーみねー。怖いか? キラー」
「カ●キラー? なんだかすごくダサいわね」
『なんでだ!? カ●キラーネーミングセンスいいだろう!! ていうか何の話だ! 僕はキラーだっ』
「はいはい厨二病だねぇ。声低くしてみたり、姿隠して謎キャラになってみたり、かっこいいとか思ってるんだよねぇ」
『なんだと! 声はもともとだ!』
いやいや、キャラメイクの時に声選ぶんだから、もともとも何もねえだろ。
――てゆーか始まったなあ、南嶺と美流九による言葉攻め。
『そもそもお前ら三下にようはない! 僕が用があるのはそこのフェイカーとリベロだけだ!』
「とか余裕ぶって、いざとなると三下にやられちゃうキャラだよねぇ」
「そうね。はっきり言って最後最底辺に落とされて、泣きながら許しを請いそうなタイプね」
『勝手気ままに言ってくれるなあ! 貴様ら、殺してやる!』
――ッ。
「やってみてよぉ。デスゲームじゃないんだし、私達あと二回は残機あるんだしぃ」
――『クロス・クロス・オンラインが、デスゲームだとしたら、どうしますか?』
「そうね、私達もそんな隠れてコソコソしている人にやられたりなんかしないわよ」
『なんだとぉっ! このぉ今すぐ殺して――』
「おい、キラァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
我慢の限界だった。もうこれ以上の挑発は、流石に危ない。
思いっきり大声をあげた所為か、酷く周りは静まりかえっていた。
「用があるのは俺だけなんだろう! お前の相手は俺だろう!! 何余所見してやがるんだ!!」
最初にあいつが言っていた通りならば、用があるのは俺たちの筈だ。――いや、単なる気まぐれのようだとか言っていた気がする。まあ、いいか。ようは注意を逸らせばいいのだ。
『……フフ』
零れるような笑い声が、聞こえた。
『フフフアーッハッハ! 面白い!! どうやら新参レグルスだと思ってなめていたみたいだ! お前、もしかしてこのゲームの秘密を知っているんだろう!!」
アーッ♂って……
いや違う。反応するのそこじゃない。
『このゲームの秘密』? まさかコイツも、和海さんが言っていた話を知っているんだろうか?
なら、あの話は本当に――?
『フハハハッ、もう良い。興が冷めた! 今日は見逃してやる! ……くぅ~っ、やっと言えたあ!」
「あっ、今本音漏れた」
『――ウッ。ご、ゴフンっ。再び相見えた時こそ、殺してやるからな! 覚えていろ!』
その後、アーッハッハッハという声が遠ざかっていく感じでキラーの声は消えた。
「な、なんだか悪役に憧れた少年みたいな奴だな……」
「そうですね……」
俺とメイは、この純粋な少年を忘れないでおこうと思った。
✚
美流九と南嶺はそこらへんの砂浜に輸送機を着陸させ(常識的に考えて無茶すぎるが、ゲーム補正とキャラ補正でそれはまあ見事に着陸を果たしていた。常識はどこかに逃げたようだ)、俺達も陸に降りて、四人で合流を果たした。
南嶺と美流九がこれまたなんとも言えない表情(つまり俺を殴りたそうな表情)で俺を睨んでいたが、流石にこんなおっとり少女の前では憚れているようだった。
「じゃ、じゃあ自己紹介からしようか……」
「私はミルクだよぉ。よろしくぅ」
ミルクが手を差し出して、メイが掴む。
「よろしくお願いしますね」
メイが微笑むと、ミルクがどきっとした表情になり、すぐに手を引っ込めた。
「あ……どうした、美流九」
「負けたよ、ちぃーちゃん。私の負けだぁ」
どうやら何か負けたらしい。美流九はそのまま浜に座り込んで、砂に木の棒で絵を書き始めた。
「黄昏れている人は、放っておきましょう。私は南嶺よ」
南嶺は余裕の表情で手を差し出し、メイも笑顔で差し出された手を握った。こちらは問題なさそうだ。
「南嶺、美流九。こっちの女の子はメイっていうんだ」
「メイです。よろしくお願いします」
ペコリ、とメイは頭を下げた。
「サイドテールが、似合ってるわね……バストも大きい……」
「ん? どうした南嶺?」
「な、なんでもない」
南嶺は俯いた。
「はあ……? まあいいや。メイ、今の人格じゃあ初めて自己紹介するよな? 俺はタタラだ。よろしく」
「あれ? でもそこのお二方は『ちぃーちゃん』と」
「タタラだ」
「は、はい……。よろしくお願いします」
押し切った。押し切ってやった。
さて、自己紹介も終わったとこだし、そろそろ本題に入ろう。
「南嶺、船の破壊は成功したのか?」
ふと我に還った南嶺が、すごく言いづらそうな表情で言った。
「それが、実は――」
「船が無い? つまり出港したってことか?」
「まだ確認出来てないわ。でも、多分そうだと思う」
思わず頭を掻いた。これでは島で暴れた意味がない。
「しゃーねえ。なんとか出港した船を見つけて、破壊しないとな……」
切り替えるように俺が言うと、美流九が立ち上がった。
「私達だけじゃ無理じゃないかなぁ」
「――なんでだよ?」
美流九は地平線の彼方を眺める。
「出港したってことは、そこに闇の軍勢が大勢いるってことだよねぇ。ラグナロクを起こして、神様を何人も殺すくらいだよぉ? そんなところに私達が行っても、無駄死するだけじゃないかなぁ」
「た、確かに……」
美流九の正論に、俺は思わず押し黙ってしまった。
「参ったわね。これじゃあラグナロクが起きてしまう。約束が果たせなくなってしまうわ」
南嶺が珍しく狼狽していた。案外人との約束を大切にするようだ。
それに、このまま逃げることはあのステーションの皆を裏切ることになる。話には出てきてないが、輸送機を買いに言った時に、皆さんに随分親切してもらったのだ。その分、余計に裏切りなんてできなくなってしまった。
「なら……」
沈黙の最中、メイが声を出した。
「ラグナロクを止めるのだったら、フェンリルを討伐するのはどうですか?」
「フェンリルってあの……? でも、難しいだろうしなあ」
フェンリルとは、つまりあのオーディンを倒す最強の狼である。勝てる可能性はかなり少ない。
「大丈夫です。鎖が外される前だったら、フェンリルは無力に等しい。その隙を狙って倒せば、ラグナロクを防ぐことは出来ます」
それに……とメイが続ける。
「私のギルドに頼めば、もっと楽に倒せますし、情報収集も楽です」
「――協力してくれるのか!?」
俺は飛び上がりたい気分になった。
メイが笑顔で答える。
「協力するも何も、ラグナロクは私にとっても脅威ですからね。当たり前のことです」
笑みが思わず溢れていた。
「ありがとう! 本当に有難う!」
「そんなに喜ばれましても……」
それでも、こんな朗報だ。もしメイが居なかったら、今頃黄昏れていた。ありがたくてしょうがない。
「なら早速、輸送機に――」
南嶺は笑顔で言いかけて、固まった。
「ん? 南嶺どうした?」
「ちぃーちゃん、後ろ……」
俺はゆっくりと後方を振り向いた。
そこには、
「あのー、ここどこですかね?」
見るからに記憶無くした感じのムスペルが立っていた。
ようやくMMOらしくギルドとか出てきたわね……。
それにしても、何あの子? スタイル良すぎじゃないの。
分かってるのよ? あれは仮想アバターだって。
でも、私ももう少し設定をいじれば良かったかしら……
ブツブツ……
あっ、次回もお楽しみに。
by南嶺




