その17+特別編
皆、久し振りだねぇ!!
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神話ゾーン:北欧神話領域:火の国『ムスペルヘイム』――
「私はメイ。レグルスの「騙し」よ。よろしくね」
「………」
唐突に現れた女に、俺は完全に呆然としてしまう。
その様子に我慢出来ないと、メイとか名乗った女はププッ、と失笑した。
「……なんで笑うんだよ」
少々イラつく。
「いやだってね? とてもびっくりしているみたいだったから、その呆け顔がすっごく笑えちゃって」
「はぁ………」
俺によるメイという女(?)の第一印象。変で面倒くさい女。
「それで、助けてくれたのはありがたいけど……一体何のつもりだよ?」
「そんな顔で睨まないでよ。困ったときはお互い様っていうでしょ? ……まあ、もちろんそんなつもりで助けたワケじゃないんだけどね、『殺し屋』さん?」
「は? キラー?」
またまた知らない単語が出てきたぞ。一体このゲームはどれだけプレイヤーを驚かせばすむんだ。
「またまたー。シラを切るつもりなの? アンタが今回のラグナロクの原因の一端であることは分かり切ってるんだからね?」
しかし、そんな疑問を無視して、メイは話を続ける。
――待てよ。さっきコイツ、俺の事が「レグルス」だって事は分かってみたいだった。つまり「キラー」ってのもレグルスの一人なんじゃねえか?
もしかして――勘違いされてる?
「ま、待てよ! あんたもしかして俺をキラーと勘違いしてるんじゃないのか!?」
「そうやって否定するところが物凄く怪しいねえ。大体、このタイミングでこの島にくるレグルスなんかキラーぐらいしかいないじゃないの。即ち」
決め付けるように、メイは俺を指さした。
「あんたがキラーだ」
「だぁぁああああもう、違うってのッ!! 俺はキラーじゃなくて」
「まあ、キラーは通名だって聞いたしね。ここで偽名使っても可笑しくないよね」
き、キラーのバカやろぉぉおおおおおおおおッッ!!!! と俺は心の底で見知らぬキラーさんに呪詛を吐きながら、目の前で余裕ぶっているメイを睨んだ。
「仮に、だ。仮に俺がキラーだったとして」
「だったとして?」
馬鹿にするような嘲笑を浮かべるメイに対して、やるせない気持ちが苛立ちと共に浮かび上がってくるが、なんとか抑えた。
「だったとして、どうして俺をあそこで助けたんだ!?」
そうだ。メイの様子からして、メイが「キラー」に対して殺意がある事は明確だ。なら――助けた理由は何だ?
メイは少しうーんと考えこんでから答えた。
「それは、幾つか聞きたいことがあったから、ここで消えてもらっても困るなーっていうのと、もうひとつは」
愉しそうな笑みが、メイの表情に浮かんだ。
「私が存分に痛めつけたいからかな?」
――さ、サディストだ!!
駄目だ、俺の周りにはサディストが多すぎる。どMには天国かもしれないが、これが本当に天国へ行く可能性が孕んでいることを(デスゲームの可能性も含めて)忘れてはならない。このままでは史上最悪のサディストハーレムが生まれてしまうっ!!
おおっと、と俺は邪念というかいつか真剣に悩まなくてはならないが、今気にすることでは無いことを思考から振り払った。
「ち――結局は力づくで証明するしかないのかよ」
俺は右手の中に蒼い羽根を生み出して、巨大な剣を生み出した。
「そうだね~。でもその前にっと」
メイはその言葉を合図に、両腰に拳銃の入ったホルスターを出現させた。そしてそのまま拳銃を両手に持って構える。
――この状況でカッコいいとか言ったらお間抜けなのは目に見えているので、俺は必死に口を噤んだ。
何をするつもりだ、と俺は剣を強く握り直すが、
「そんなに警戒しなくていいよ。別にあなたを攻撃しようって訳じゃないから」
意味不明な言葉に、は? と俺が拍子抜けしていると、メイは二丁の拳銃を上空に向かって打つように構えると、バシュバシュバシュバシュ、と連続で撃った。
その先から、紫の光線が放出される。
「な……光線拳銃!?」
見かけからどう考えても神話ゾーンのプレイヤーだと思っていたのだが――?
「あ、驚いた? 私の能力の特徴上、こういう武器が必需だからね。科学ゾーンの友人から買い取ったんだ」
能力の特徴? と俺は訝しがりながらも、放たれた光線の軌跡を目線で辿っていく。すると――直線で進んでいた光線は、何もない空中でぐにいとカーブして、今度はこっちに帰ってきた――って嘘だろオイッ!!
「何で光線が曲がって戻ってきてるんだ!?」
「ふふふっ、君聞いてたより面白いね。大丈夫、攻撃はしないよ」
光線はそのまま俺の目の前を通り過ぎてメイに向かい、光線はメイの周りを周回するように動いていた。
「ど、どうなってんだ――?」
思わず訊かずにはいられなかった。
メイは特に自慢するような様子もなく、平然と答えた。
「私の能力は『光を操る』能力なの。即ちこうやって――」
メイは掌に光線を乗せると、クルクルとお手玉のように投げ始めた。思わず拍手してしまう。
「す、凄いな。じゃあ、さっき巨人たちを騙したのも、この能力のお陰っていうのか」
そうだよー、と答えるメイは、笑顔で俺の後ろを指し示した。うん? と俺は後ろを振り向く。
そこにはめっちゃくちゃ息を切らした状態でものすっごく怖い表情をしている体の大きなおじちゃん達が、俺を睨んで仁王立ちしていた。
「ぎゃあああああああああああああああああッ!! 忘れてたぁぁあああああああああああああっ!!」
巨人族さん達の幻覚(?)は解けてしまった模様だった。
「くっそ、面倒くせえ!!」
俺は巨人のほうに体を向けて改めて剣を握り直すが、
「私に任せてよ」
メイが後ろで制止した。
「サプライズは好きなんだ」
は? サプライズ? と俺が首をかしげていると、巨人族の一人が思いきり棍棒を振りかぶってきた。
「ほら言わんこっちゃねぇぇええええっ!!」
俺は慌てて受け止めようと剣を真上にかざす。
そして――振り下ろされるはずの腕が、何十本の光の線に貫かれた。
貫かれた腕は、穴がぐるりと一回りに開いていて、やがてブチブチと肉の繊維が弾ける音を立てて、自重によって引きちぎれた。
グロいなあ。断面が表現されてないけど、音だけが無意味にグロい。
そんな呑気な事を考える俺の頭上を、カラフルな光がいくつも尾を引いて飛び交う。
そして、腕を失くして呻く巨人や、後方で光の動きに見とれる巨人達にバラけて襲いかかった。
光が襲い掛かってくる事に気付いた巨人たちは慌てふためいて、足早に逃げようとする。先程仲間の腕が引きちぎられたのだ。危険度なんか当然理解しているんだろう。しかし、巨人という種族は生来から愚鈍且つお馬鹿な生き物と人類に定義されている。あるものは慌てすぎて小石に躓き倒れて、仲間をドミノ倒しにし、あるものは岩棚に足の小指を引っ掛けて地面を転げまわり、あるものはその転げまわる巨人に足を引っ掛け……先程までの自尊心の高さは何処へ? 生きるために必死なのはわかるが、人生しゃべらない、おさない、はしらない、もどらないの「しはおも」の精神で――あれ、なんか順番違うな。まいっか。
そんな巨人たちのおふざけ(?)も長続きはしない。
バラけた光は、次から次へと巨人たちの頭蓋を貫いて、次から次へと踊るようにして仮想の生を屠っていく。逃げようとしてもどこまでも追いかけ、防ごうとしてもそれを難なく掻い潜る。巨人族は悲痛な叫びを上げて死んでいった。その姿がどこまでも人間に似ているような気がするのだから、思わず同情してしまいそうなくらいだ。あばよ、愚かで愚鈍で馬鹿で阿呆で、でかくて大きくて鬱陶しくて暑苦しい我が巨人族よ。地獄に行っても元気に叫び声上げて暮らせよ。――ちょっと南嶺がうつってきたかもしれなかった。
1分も経たない内に、目の前に居たはずの巨人共は全滅していた。
「どう? 凄かったでしょ」
改めてメイの方を向くと、大きく胸を張ってメイが自慢気に言った。ただでさえ大きいんだからそんなに誇張しなくても。小さいお友達や、大きくなっても「壁」と呼ばれ続ける子達が泣いちゃうじゃないか。
「どうって言われてもな。確かに綺麗だったし、あれだけ俺が苦しんだ巨人が圧倒される様は凄かったけど、なんか地味だな」
「それは作者が貧困な語彙しか持たないから、苦肉の策でギャグ路線に走ったからじゃない? 私の所為にはしないでほしいな」
それもそうだから、俺はこれ以上追及しないことにした。
「さて――邪魔者は排除したし、そろそろやっちゃおうか」
メイは光線拳銃を腰のホルダーにしまうと、細身で、簡単に叩き折れそうな細剣を取り出した。
「――俺を馬鹿にしてるつもりかよ?」
「いやいや、そんなつもりは一ミリもないよ。これはエストックといって、ヨーロッパでは結構有名な剣なんだから」
メイはエストックを突きの体勢で構えるが、どうみてもその剣先は頼りげない。しかも光線拳銃をしまっているので、レグルスとしての特殊能力さえ使う気が無いようだ。
どう考えても馬鹿にしているとしか思えないが、それでも俺は剣と剣との打ち合いは初めてだ。少し緊張しつつも、こちらも青羽根の剣を中段で構えた。
「じゃあ、行くよ――」
俺はメイが足を一歩踏み出す瞬間を見た。いや――正確にいえば、「その足が地面に触れる瞬間まで」といったところだろうか。
彼女が足を地面につけた瞬間――その全身が一瞬にして掻き消えたからだ。
だが、そんな事に驚いている暇もない。
ズバシュ、という音が自分のアバターから発せられたことを認識するのに、しばらくかかった。
HPゲージがほんの1センチ程減少する。
ダメージとしては、些細なものだろう。だけど――
あいつは今、何をしたんだ――!?
何もない虚空に向かって剣を構え続ける俺に、背後から声が掛かる。
「――何突っ立ってるの? 私はそっちじゃないけど?」
首をゆっくり動かして、後ろに居る人物を確認した。
「どうして――いつの間に後ろに?」
向き直る俺に、メイは馬鹿にしたような嘲笑を浴びせながら、当たり前のように言う。
「どうして私の能力が、『光を操る』だけだと思ったのかな。私は別にそれだけなんて言ってないよ? ヒントを言うなら、私は『光』に関連する能力を持ってる。それだけだ――よっと!!」
再び、メイの姿が掻き消える。そして、俺の脇腹を掠めるようにして、ダメージを喰らった。
「――!!」
だけど――その瞬間に理解はした。
「分かったぞ、その能力。――『自身の体を光と同じ性質にする』、じゃねえか?」
再び後ろから声がする。
「正解だよ。流石腐ってもレグルスなだけあって、頭の回転は早いみたいだね。だけど――それだけじゃ勝てないよ?」
俺が向き直ると同時に、メイが掻き消えた。
――同じ手は二度も喰らうかよ!! あ、二度は喰らったんだっけ。
俺はメイが掻き消えたのを確認したと同時に、足首を限界まで酷使して横っ飛びをしようとする。
しかし――
「遅いよ。光に速度で勝とうなんて考え方で行ったら、勝てるわけ無いでしょ?」
跳ぶ直前で、腹にエストックが突き刺さる。
「なっ――――!?」
メイがズザザッ、と大きく後ろに体を滑らせながら、正面に再び現れた。
「んー、発想自体は惜しいと思うんだけどね。残念なことに、光のスピードを考慮してないよね」
エストックをクルクルと手で弄びながら、メイは随分と上から目線で評価する。それが癪にさわるが、しかし勝つ手立てが無いのもまた事実だ。
ならば――不意打ち上等!!
俺は余裕持て余してるメイに、大きく剣を振りかぶって襲いかかった。
しかし、それは余裕で躱され、逆にカウンターで突きを何度も喰らってしまう。
「ちょっと弱すぎるんじゃない? 戦闘経験不足が露骨に出てるよ?」
慌てて身を引く俺に、メイは手を叩いて笑った。くそう、今までは遠距離から攻撃してくるやつばかりで、近距離になると腰が引けててたからやりやすかったけど、実際に敵が剣をとると、こんなにも苦戦するなんて!!
「まだまだ行くよ――」
身を引いた俺に、ここぞと言わんばかりにメイの剣が俺を襲う。視認も出来ないので防ぐことさえできない。何か、反撃の手は――
ふと、理科の授業を思い出した。
そして、メイの動きも思い出す。
そうだ、もしメイの「体が光の性質と同じになる」というのが、メイの体を一本の光と定義しているのならば――
まだ、反撃の手立てはある!!
「さあさあ、そろそろ降伏してもらおうかな!! レグルスは一度死んだらゲームオーバー、こんな所でで残機失いたくないでしょ!!」
「勝手に、決めるんじゃねえっ!!」
まずはこの状態から抜けださなくては――と俺は思いっきりジャンプして、バク宙しながら後ろに下がった。
「わあ、凄いね」
メイが目の前の出来事に思わず声を漏らすのが分かったが、一番驚いているのは当然俺である。まるでスターウォーズの聖騎士様にでもなった気分だ。
いや、そんな事はどうでも良くて。
「来い!!」
俺は剣を構えた。
「――どうやら諦めが随分と悪いみたいだねえ。だけどね」
エストックの剣に、全体的に緑のベールがかかる。
「これで終わらさせてもらうよ!!」
ちょっと待て、今の緑のなんだ!? と思っている場合ではない。
俺はやるべきことをやるだけだ。
メイが一歩――いや、足を上げた時、俺は羽根の形状を一瞬にして巨大な盾に変化させた。
「――!?」
メイが驚くが、もう既に遅くその体は動き始める。
そして――盾にメイの剣がぶつかった。
その瞬間、俺は盾を斜めに押し倒す。
すると――
「あうっ」
目論見通り、メイの体は地面に叩きつけられていた。
すかさず、メイの体に馬乗りになり、改めて形状を剣に変化させた羽根を首に押し当てた。
「ははは、どうやら気付かれたみたいね……」
メイの声はまだ余裕ぶっていたが、顔は目に見えて狼狽していた。
「ああ、あんたの『光の性質』ってのと、動きがヒントだったよ」
俺はメイの顔を見下ろしながら言う。
「俺は少し変に思ってたんだ。明らかに突き刺したりしたほうが攻撃力が高いのに、どうしてあんたの攻撃は掠ってばっかなんだろうって。でも、一度俺はあんたに突き刺された。だけどあんたは――何故か下がっていたよな? 普通は光っていうものは直線に進むものなのに」
「………」
メイは黙って話を聞いていた。
「つまり、あんたが光の性質を持ったということは、反射も可能だって事だ。だから地面に押し倒すように、斜めに盾を向ければ、そこにいい具合にあんたがのこのこやってきてくれるって訳だ。……南嶺じゃないから、上手く説明出来たつもりはないけどな」
まあ、現状に至る説明はこんなものである。
「それで? どうするつもりなの? キラーの異名に等しく、ここで首を斬ってしまうつもりなの?」
メイはもう覚悟を決めたという表情でこちらを見据えてきていた。畜生、美人だなあ。仮想だって分かっていても美人だ。そんな人を斬れるわけないじゃないか……という私情は飲み込んだ。
「……あのなあ、さっきから言ってるけど俺はキラーなんかじゃないぞ?」
「まだシラを切るつもりなの? 無駄に守秘主義なんだね」
「ちがうって!! 大体、俺はまだ昨日このゲームを始めたばかりなんだぞ!!」
しかし、メイはまだ信じない。
「言葉だけなら、なんとでも言えるよ」
「だーっもう!! どうしたら信じてもらえるんだよ――!!」
――殺気!?
俺はなりふり構わず、メイに上から抱きつく。
「なっ――突然なにすん」
「暴れんな!! とにかく一緒に転がれ!!」
強引に転がると、先程まで居た場所に、弓矢が突き刺さった。
メイと俺が、呆然とそれを見る。
「い、一体何が」
メイが呆然とつぶやく。どうやら咄嗟の出来事に頭が対応していないようだ。
だが、まだ安心するのはまだ早いっ!!
俺はメイの体を再び持つと、リベロの力で大きく飛び上がる。刹那に足元に矢が飛ぶが、どうやら一瞬の判断で助かったようだ。
飛び上がり、矢の飛んできた方向に向き直る。
「――どうやら、殺気を見破れる程度の実力はあるようだな」
その矢の方向から、声が走った。しかし、人影はどこにもいない。まるで影に潜むようだ。
「誰だてめえ!!」
思わず怒鳴り返す。
「そこの女が言っていた通り――キラーとかいう通名で呼ばれる者だよ」
メイがその声に反応する。
「そんな馬鹿な。そこのレグルスがそのはずじゃあ――」
「俺がそこの馬鹿レグルスみたいに甘いと思うか? もし俺がお前と戦っていたのなら、とっくにお前を殺していた筈だぞ?」
ぐっとメイが口を瞑った。ようやく分かってくれたようだ。ありがたいが、ありがたくなかった。
「……俺たちに何のようだ」
俺はどこから声がでているか、正確に知るために耳をすました。
「特に何も。役者はそろいそうだ、と思っただけだ」
「じゃあ、何の為に襲ってきた!!」
声の元を見つけるのは難しい。そもそもここの地形が音響のようにそこら中に切り立った壁があるので、そこらじゅうから音が聞こえてしまい、居場所は特定できなかった。
「簡単だよ、そこの新参レグルス。そのフェイカーは、僕にとって用済みだからだ」
だから――と、キラーは言う。
「なんとなく殺そうと思って」
ギリ、と歯軋りした。だが――何故歯軋りしたか、自分でも分からなかった。だけど。
この声主は、何か知っていてこれを言っている――そんな気がしたのだ。
「それに、面白いことになりそうだ」
キラーがいうことに意味がわかず、一瞬くびを傾げて、ようやく気付いた。
メイがぐったりとしている。
「あ、あれ? メイさん? だいじょうぶですか? おーい?」
何度か叩いても、音信不通音沙汰なしの無反応。
だが――やがて、ゆっくりと起き上がった。
「あ、あれ私何やってる――のですか?」
ん? 『のですか』? メイって敬語使うキャラだっけ?
「あ、あれ? なんで私抱かれて……? ていうかなんなのですかこの格好!? 露出しまくりじゃないなのですか!! しかも髪型もツインテール!! しかもいつの間にVRゲームやってますし……。もう、メイはホントに自分勝手です!!」
……『メイ』は?
「あの……一つお伺いしてもいいですかね」
つられて敬語口調になりながらも、俺はメイの筈の少女に問いかけた。
「あなたは……メイじゃないんですか?」
メイらしき少女は今更気が付いたように俺をみて言った。
「ああ、すみません。私はメイの二重人格であるもう一人、マリーです」
え……? 二重人格?
「え……!? 二重人格ぅ!?」
「はい」
にっこり笑顔で頷いてくれた。
あああああ、と開いた口がふさがらない俺に、さらなる追撃。
「ちぃーちゃん!! ちょっと助けてよぉー!!」
遠くから、轟音と共に声が聞こえてきた。
恐る恐る、そちらを見る。
「ちぃーちゃん!」
そこには、輸送機の窓から顔を出して手をふる美流九(←良い子は真似しないでね?)と、必死な形相で輸送機を運転する南嶺と……その後ろに、もうこないと思っていた巨人の姿が。
「ムスペルたおしてぇ!!」
「あ……ああ……」
だれか、教えてくれ。
一体何がどうなったら、怖そうな奴に狙われ、二重人格者に出会い、ラスボスと会敵するという状況が、一度に起こるんだぁぁああああああああっ!?
――その17終了
――――お正月プレゼント特別編開始
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「あはははは」「うふふふ」
ポーン、バシィ、ズガッ、ドガッ。
「ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル」
一体、どうしてこうなったんだろうか。
南嶺がネット越しにアタックしてきたボールを、美流九が見事にブロックして返す。それをアンダーハンドで南嶺が打ち返し、飛んできたボールをオーバーハンドで美流九が受け止めて、アタックし、それを南嶺がブロック……。
やばい、意識が朦朧としてきた。寒い。サムスギル。
意識がこぼれ落ちるのをこらえるように、俺は言った。
「なあ、確かに俺は初日の出を見に行こうとは言ったけどよ」
その声は、いつしか叫んでいた。
「誰が真冬の雪降る海で日の出までビーチバレーやろって言ったよぉぉぉおおおおおおおっ!!」
その声に、南嶺が何を馬鹿なことを、とこちらを向いて言った。
「ちぃーちゃん。それまで一体なにをするつもりだったの? 冬に海といったらビーチバレーでしょ」
「そぉだよぉ、ちぃーちゃん。冬はバレーで決まりってね」
確かに、南嶺や美流九の水着姿は見れて嬉しい。眼福だ。だが、それ以前にサムスギル。この状況でビーチバレーという発想ができるほうがどうかしている。てか寒い。眠い。
「お前達の肌は一体どうなってんだ……」
「そういうちぃーちゃんだって水着じゃん」
そう、水着だ。俺は水着を着ている。それが問題だ。なんで水着なんだ、サムスギルだろ。っていうかなんで着替えたんだ俺ェェええええええっ!!
「くそう、かえってやる。今直ぐにでも帰ってやる。日の出なんか知ったことか!!」
「あっ、ちぃーちゃん待って、よぉ!!」
美流九のアタック攻撃!! 俺の前頭葉にクリティカルヒット!! 俺はそのままゆっくりと雪の積もったふかふかの地面に仰向けに倒れた。
意識が朦朧とし、急激に眠気が襲ってくる。
心配そうに二人が駆け寄ってきて、俺を上から下から見下ろした。
下乳……グッジョブ……!!
二人が何か言っているが、もう聞こえなかった。どんどん視界が闇に落ちる。ああ、でもいいもん見れたしもう未練はないなあ。
「眼、福……眼ぷ、く……」
俺はそううわ言を言って、意識を埋没させた。
✚
……
………………
………………………
………………………………痛っ、誰だ耳引っ張る奴は。
起きてよ、だと? なんだよ、俺はいい夢見ていい気分なんだ。ちょっと待ってくれたっていいだろ。
起きないと腹をプレスするよ、だと? まずい、この展開はまさか。
「えい♪」
「ごっふぅうううううううっ!!」
史上最悪の年越しの朝だった。
「南嶺、美流九!! 腹に全体重をかけて飛び乗るとか勘弁してくれ!!」
「何言ってるのちぃーちゃん、もうすぐ日の出よ」
「そうだよぉ。はやくいかなきゃ見れなくなっちゃうよ?」
「そういえば、そんな約束してたっけ。それであの初夢か」
「はやくしないと、ビーチバレーできないわよ」
「は? お前何言って」
「急ごうよぉ、折角水着も買ってきたんだし」
「おい、まさか外で雪――」
「降ってるわよ。絶好のお天気じゃない」
「ほらほら、ビーチボールも持ったし、行くよぉ!!」
「ちょっとまて引き摺るな、ていうかこれ現実!? ああっ、頬つねりが痛い!! ってことは今の正夢か!? やべえ、このままじゃ死ぬ。死んじゃう。下乳みて死んじゃう。なあ、ちょっと待て。思い直そうぜ? なあ、おい。待てって。待ってくれ連れてかないでくれぇええええええっ!!」
*良い子は真似しないようにね?
ホントはコレに●●が付くはずだったんだけど……まあ、もうしばらくしたら何か変化が起きるかもね? 期待してみることよ。
――その後の話――
ナ「いつまでやらないつもりなの? 逝くの? 逝っちゃうの?」
作「い、いやね? こっちも受験で忙しいっていうか……(・・;)」
ナ「逃げてんじゃないわよ」
作「痛っ! 踏むんじゃない! 取り敢えず、まだしばらくは無理だって……」
ナ「早くしなさい」
作「っ!? そのムチは……!」
「アァァアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
――という感じで誤魔化しましたが、正直の所、現段階ではちょっとやる予定だった挿絵の挿入が出来そうにありません。もしかして! と思って楽しみにしてくださった皆様にはご迷惑をお掛けしますが、もう少々お待ちください。
――次回は4月更新予定ですっ!




