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その15

 いいぇっっっ!!!!

 今回は巨人がでるよぉ!!

 巨人っ、巨人っ、進○の巨人っ!!

by美流九

      ✚


神話ゾーン:北欧神話領域:火の国上空――


「――ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああッッッ!!」

 あああ地面が来るぅうううううう!!

 以前ステーションを止めたときはまだ覚悟があった分恐怖が和らいだが、今回はそこまでの覚悟があるわけでは無い。下に確かな感触が無いというのは、ここまで恐怖を感じさせるものなんだと今一度思い知る。

 怖気づきながらも、地面まで残り二十メートルといった所で、俺は空を蹴って落ちるスピードを減速させた。

 ドタッ、と地面に足が着く勢いで俺は地面に崩れ落ちる。曰く腰が抜けたのでした。

「……今までは一生懸命だったから気付かなかったけど、結構怖いなー」

 ブツブツ独り言を呟いて、よっこらしょっと立ち上がる。

「さて……」

 一度上空を見ると、眩しい光に隠れて、影がぐるぐると回っていた。どうやら俺が行動を起こすのを待ってくれているらしい。

 俺は視線を正面に移して、しばらく周りを見渡す。流石火の国と言うだけあって、あたり一面に火が舞っていた。緑など霞むほども無い。火、火、火ばかりだった。

 禿げた岩肌からさらけ出される溶岩は噴水のように時折飛び出して、そこらじゅうに飛沫のように飛び散る。

「取り敢えず、騒ぎを起こさなくちゃな……」

 そうは言っても、具体的にどうしようって話だ。取り敢えずナグルファルから巨人たちを引き離さなければならない事は分かってる。それにムスペルを殺さなくてはいつ再びナグルファルが造り始められるか分からないのでムスペルを倒すという目的も明白だ。目的は明確なんだが……はて、どうすれば巨人をナグルファルから引き剥がせるだろうか?

「っても、俺頭悪いしなぁ」

 途方に暮れそうだ。と俺は思わず溜息を吐いた。

「ムスペルを先に殺ってしまえば、巨人達も激昂するんじゃないかい?」

「でも、そのムスペルはどこに居るんだ? ――ん?」

 今ケツアルコアトルの声がしたのは気の所為か?

 辺りをぐるっと見渡すが、あの少年のような姿をしたケツアルコアトルは見当たらない。

 首を傾げていると、再びケツアルコアトルの声が聞こえた。

「どこを見ているんだい? ああ、これが俗にいう『灯台下暗し』って奴なんだね?」

 ――耳、元?

 俺は顔だけを動かして、右肩を見る。

 何故か羽毛のあるガラガラヘビが腕に巻き付いて、こちらを不思議そう(?)な目で見ていた。

「の、のうぅぅわぁああああああッ!! き、気持ちわりいッ!!」

 驚きのあまり口から罵声を飛ばしつつ、肩からヘビを引き剥がしてぽいっと投げ捨てる。

「ヘブッ!!」

 そのヘビが飛んでいった方向からケツアルコアトルの呻きが聞こえたが、どうでも良かったので俺はまずどこからアタックするかと辺りを見回した。

「ちょっと酷いよ! 僕を投げ捨てるなんて」

「何を馬鹿言ってやがる。お前を投げ捨てたことなんて一度もねえよ」

 ブツクサ文句を言うケツアルコアトルの言っている意味が分からず、俺は少しだけ頭を傾げる。間違いなく投げたことはない。確かに契約してから存在はスルーしていたが、それは作者のミスだ。

「全く、自分の契約した神の神話ぐらい調べようと思わないのかい?」

「生憎数学の勉強で忙しかったんだよ!!」

 やれやれ、とケツアルコアトルは溜息のように言って、

「ケツアルコアトルは羽毛の生えたガラガラヘビの姿をしているんだよ」

 なるほど。即ち――

「俺が今さっき投げ捨てたのは神様ってことなのか?」

「そういう事になるね。もっと敬って欲しいもんだよ」

 後ろから聞こえてくる声に、俺は呆れてしまった。

「一応言っておくけど、俺は一応お前らの敵だぜ? 敬うわけねえだろ、敵なんだし」

 味方だとしても敬うつもりはもとよりないが。

「それは残念だけど、僕は君が神を倒してくれる事自体は全面的に味方するつもりだよ」

 ……この神様のAIはバグってんじゃないんだろうか。

「意味がわからねえ。なんで神をして敬えとか言いながら、神話ゾーンを倒すのには賛成なんだよ」

 この質問に、ケツアルコアトルはしれっと返答する。

「それは単純に、僕が平和の神だからだよ」

 はぁ? と思わず振り返ると、そこには以前空中で出会ったあの少年が笑みを浮かべて立っていた。

「平和の神……。こんな戦争がお題目のゲームにか?」

「そうだよ。だからという部分もあるかもしれない。僕としてはね、戦争馬鹿の北欧神話は心から気に食わない訳だよ。何をするにも戦争という言葉がちらつく。僕としては、滅んでくれたほうがありがたいわけさ」

 いやいや、と俺はツッコミを入れたい気分になった。

「それなら今の俺の行動はお前にとって邪魔になるんじゃねえのか? ラグナロク止めようとしてんだぜ?」

 北欧神話はラグナロクでオーディンを失う。それぐらい既知の筈だ。

「だから戦争は嫌だって言ってるだろう? 僕は戦争さえ防げればいいんだ。だからラグナロクを止めるのを邪魔する理由はないよ」

 やはり平然とした笑みですらすら答えるこの少年に、俺はおもわず疑いの目を向けたくなった。コイツ本当にAIなんだろうか?

 答えは当然分からず、俺はぐっと肩を落として溜息を吐いた。

「もう、なんでもいいや。難しい話は懲り懲りだ。さっさと大暴れしてえんだよ俺は。ムスペルはどこだよ?」

 するとケツアルコアトルは珍しく小馬鹿にした様子で言った。

「船を持っているのはムスペルなんだ。どう考えたって船の近くに居るんじゃないかい?」

「それじゃあダメだろ!! その船から巨人共を引き剥がさなくちゃならねえのに、その船の近くで騒ぎ起こしてどうすんだ!!」

「大丈夫だよ。君が何をする必要もなく、もうすぐ騒ぎは『向かってくる』」

 ケツアルコアトルが言い終わると同時に、ズシンと地面が小さく振動した。

 背中から冷や汗がでていないのが不思議なくらい、悪寒がする。

 恐怖と興味が混ざって、思わず後ろを向いた。小刻みな振動と共に、山の影から一瞬その巨体が垣間見えて、思わずびくついてしまう。心拍数は上がり、きっと現実世界の自分は呼吸を乱しているだろう。

「な、なあケツアル、これって一体――」

 どうして見つかったのか聞こうと、俺は正面に視線を戻してケツアルに問いかけようとしたが、既にその姿は霧のように消えていた。

 あ、あんにゃろぉぉおおおッ!! 逃げやがった!!

 歯軋りをしつつも、念じて右手に蒼い羽根を出現させる。

 その間に振動はどんどん近付いて来て、そして、


 ついに、『奴』は来た。



      ✚


神話ゾーン:北欧神話領域:火の国の遥か上空――


「南嶺ちゃん、今ちょっと『解説書』でラグナロクについて色々調べてたんだけどぉ」

「どうしたの?」

「この島にさぁ、ムスペル以上に警戒したほうがいい奴が居る気がするんだぁ」

「ムスペル以上に? どんな奴なの?」

「それがぁ、どうもムスペルを『率いている』のがこっちらしいんだよぉ」

「……厄介どころの騒ぎじゃないわね」

「しかもフレイも殺しちゃってるしぃ、むしろこっちを倒すべきじゃないかなぁ」

「なんていう名前なの?」

「ええっとぉ――――」


      ✚


神話ゾーン:北欧神話領域:火の国のどこか――


 タタラは決死の思いで後ろを振り向いて、五秒で頭を下げたい気分になった。

 そこには、炎で出来た光り輝く剣をもつ、例の、頭にブーメランみたいなのついてて胸にいきなり赤になってピコピコ光るアレがついている光の巨人さんの半分程度の大きさの武骨なおっさん顔の巨人が厳しい顔でこちらを睨んで仁王立ちしていた。装着しているハートメイルは所々白熱しており、それだけで彼の体から高熱が発せられている事がわかる。それだけでなく、彼が踏みしめている大地に生み出された亀裂からは赤い線が走り、時折そこからマグマが吹き出していた。

「な、なんだコイツ……」

 タタラが誰に言うでもなく驚嘆から独り言を小さく漏らしていると、

「火の巨人であり、この火の国ムスペルヘイムの国境を守る番人、スルトだよ」

 足元から返答があった。そっとタタラが下に視線を移すと、すぐ左に羽毛ヘビがシャーと舌を出しながら体をクネクネ動かしていた。

 即座に視線を戻しつつ、タタラは小声でぼやいた。

「国境を守る番人……てことは潜入はとっくにバレてたのかよ」

「そういう事になるね……。ちなみに彼はムスペルの倍以上は強いからね?」

 タタラの口端が一瞬で引き攣った。

「はい?」

「彼はラグナロク中に豊穣の神フレイを倒すんだよ? 当然強だろうね」

 即ち最も接触すべきじゃない敵と当たってしまった、という真実に気付き、タタラは苦虫を噛んだような表情になる。

 唐突に突風が吹いて、タタラは何となしに全身を身震いさせた。

「おぉぉぉまぁぁぁぁえぇぇぇぇッッ!!!! なぁぁぁにものッッッスかぁぁぁぁぁッ!!!!」

 あまりの迫力と音量と親しみやすい口調に、タタラはしばし絶句。

「巨人って、親近感あんま無かったけど、こんなフレンドリーだったんだな……」

 勢い余ってポツリと零した言葉に、巨人が食いついてくる。

「言わないで欲しいッス!!!! これでも結構気にしてるんっすから!!!!」

 ……口調はコンプレックスらしかった。

「……で、ここまで来てはぐらかすって事は、敵って認定していいんッスね!!」

「ああ、それでいいよ」

 投げ返すような口調で認める。もともと騒ぎを起こすには何か「敵」と認定されるアクションを起こしたほうが危ないが手っ取り早い、と考えていたタタラにとって、否定は無意味なのだ。

「フフ」

 その様子を見たケツアルコアトルは、少しだけ笑いを零してそそくさと立ち去った。

 それに気付かぬまま、タタラは言う。

「かかって来いよ、うすのろ!!」

 ピキ、とスルトの額に青筋が走った。

「こぉぉぉの、ひょろい人間風情がぁぁぁぁぁぁッス!!!!!!!」

 迫力はあるが、タタラが最後の口癖に思わず白けそうになったのは言うまでもない。

 とにかく、スルトは猪突猛進しながら剣を大きく掲げる。

 それが振り落とされると、そのまま地面に線が走り先からマグマが迸る。

 しかし、そのあまりの感触の無さにスルトは当然気付く。避けられたと考え反射的に左右を見渡すが、見渡せる限りの範囲にタタラの姿は発見できない。

たまには上も見上げてみろよお間抜け!!」

 声が頭上から聞こえて、スルトは反射的に剣を頭上に攻撃するように振り上げる。だが、またしても当たった感触はない。

 苛ついた表情で空を見上げるスルトの背後から、またしても馬鹿にしたような声。

「こんだけ近くてもまだ見つけられないってか。偶には後ろ振り向いて見ろよ!!」

 流石にこれだけ馬鹿にされて腹が立ったスルトは、剣をブン、と振り回しながら後ろを振り向く。今度も当たらない。残像のように炎が尾を引いていく。だが、今度はスルトでもタタラの姿を確認できた。

 なぜなら、彼はスルトの顔の前で小さく拳を握って振りかぶっていたからだ。

「巨人と力比べでもするつもりっすか!!!! 馬鹿な真似を!!!!」

 タタラは小馬鹿にしたような声に、反射的に笑みを浮かべた。

「馬鹿かどうかは喰らってから判断しやがれ!!」

 振りかぶった拳を、勢い良く巨人の頬に叩きつける。


 次の瞬間、スルトは五百メートル(巨人感覚だから一キロぐらい?)ほど後ろの位置に居た。


「はは……想像以上じゃねえか……」

 眼前の岩山に開いた巨大な人型トンネルを見て、タタラは苦笑いしかできなかった。

 ただでさえチートだったのに、チートさに拍車がかかってきている。

 改めてとんでもない神と契約したなあ、とタタラは自身の契約欄の表示を見て、思わずぶっと吹き出しそうになった。


 契約1【ケツアルコアトル】2【ケツアルコアトル】3【ケツアルコアトル】


 全部ケツアルコアトルってどういうこと……とタタラは思わずにはいられない。

 しかし、これが巡り回ってこれほどまでの怪力になったとしたら、それは本当にありがたい。じゃなきゃきっとステーションの墜落と破壊は免れなかったのだから。そして今頃はキャラクターデータを失って――


 『クロス・クロス・オンラインが、デスゲームだとしたら、どうしますか?』


 ふと、和海の言葉を思い出したタタラはブンブンと首を振った。有りえる筈がないのだ、そんな事。

 しばらくすると、ズシンズシンと再び地面が振動し始める。

 再びスルトが立ち上がってこちらに向かってきたと思ったタタラは、ふと振動の仕方に違和感を覚えた。

 ――後ろ、いや様々な方角から振動が来てねえか!?

 まさか、と周囲の地面を見渡す。

 気づくと、タタラを中心に円を描いて、赤い線が地面に描かれていた。

「やばッ、まず――」

 逃げ出そうとした頃にはもう遅い。

 火山の噴火のように、赤い地面の割れ目からマグマが吹き出し、1000度を超える高熱の岩漿が小さなタタラの体に襲いかかった。

 あとからノシンノシンと全身に青あざを残しながらも、不敵な笑みを浮かべたスルトが歩いてきた。

「俺は昔っから火山活動のイメージで想定されたことが多いんっすよ。地中のマグマを移動させて囲み、噴出させることなんてお茶の子さいさいっす」

 ニヤニヤとドヤ顔を浮かべるスルト。どうやら先程思い切り殴られたのが相当にきていたようだ。

「地表の、それも火の国なんていう活火山の多い地帯で戦いを挑んできた時点で、あんたの負けは確定していたんっすよー!!!!」

 スルトは返答が無いということを分かっていて、敢えて呼びかけるような口調で声をマグマに包まれ炎が渦巻く方へと投げかけた。だが、


「何馬鹿言ってんだ、うすのろ。負けなんてそもそもどこにもねえぞ?」


 その渦巻く炎の中から、確かに言葉は返ってきた。

 そして、その言葉と共にゆらりゆらりと影が炎の中から近づいてきて、やがてタタラの笑みを浮かべた大胆不敵な表情が垣間見える。

「ぬりーな、このマグマ。最低でも3000度はねえと、熱いとすら感じれねえよ。なあ?」

 その笑みを見たスルトは、素早く悟った。

 この男に、自分が敵う事はないという事を。

 ケツアルコアトルは太陽の化身よ。

 太陽の表面温度はおよそ6000度。中心だと1万5000度に達すると言われているわ。だからたかだか1000強程度の温度だとビクともしないわよ、ちぃーちゃんは。

 さて、次回は多分巨人が多く入り乱れる筋肉な回よ。とても汗くさそうね。まあ、私達は遠くからミサイル撃って船ぶち壊すだけだから関係無いけどね♪

by南嶺

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