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その11

 今日は意外な事がわかる日常編だよぉ。

by美流九


      ✚


現実世界:蹈鞴千助の家:午前7時頃――


『さて、本日のニュースですが、最近自殺が多発しております。先日は十件ありました。一見関連性のないようにも見えますが、親族の方々に話を伺うと、どの方も「二日前から様子がおかしくなって一日中何かを片言でつぶやき続けていたということです。あるご家庭では前日は壁に頭を打ち付けて「ゲームをやらせろ、ゲームをやらせろ」と――』

「随分と物騒なニュースだな。朝から聞いてると気分が萎える」

 朝からこんなニュースを見て鬱にならないほうがおかしい。気分を悪くした俺は、テーブルのリモコンを南嶺に取って貰ってピ、とチャンネルを変えた。

『本日発売のゲーム「クローズ・ド・ソード」が世界中で大反響を浴びています。担当のゲームクリエイターである護堂遊里ごどうゆうりさんは今回のゲームに関して――』

 ああ、そうか。そういえば今日は、かの護堂遊里さんが作った新作ゲームの発売日なのだ。……残念ながらそのゲームを買う余裕が、俺には無いのだが。

 チン! という音がして、俺はトースターからパンを取り出した。皿に乗っけてマーガリンをつけようと辺りを見回していると、横から「はぁい、ちぃーちゃん」と美流九がマーガリンを渡してくれる。

「あ、ありがとう。……ん?」

 あれ、そういえば。

「なんでお前ら俺ん家にいるんだ!?」

 今朝から感じていた奇妙な違和感はこれだったか!! 気付かない俺も馬鹿だがな!!

 美流九が大きく欠伸をしながら言う。

「ふあぁ~。ちぃーちゃん今更何言ってるのぉ? いつもの事じゃん」

「『いつものことじゃん』じゃねえよ!! 今日初めてのことだよ!!」

「でも、親さんの許可も取ってあるよぉ?」

「はぁ!? 両親共に単身赴任で一ヶ月は帰ってこねえぞ!? いない人間の話だぞ、信用できるか」

「でも、合鍵貰ったしぃ」

「その指先で回ってるのは確かに俺の家の鍵! しかも親が失くしにくいようにって津軽海峡のペンダントのストラップを付けて保管してたやつじゃねえか!?」

「ついでに襲ってもいいって言われたよぉ?」

「うっぎゃあああああああああああ!! なあにしてくれてんの母さああああああああああああんんん!!」

 その内近所迷惑で苦情が来そうなので、シャウトそのものは音量を小さめにした。

「五月蠅いよぉちぃーちゃん。そんな事より、今日もやるんでしょぉ。クロス・クロス・オンライン」

「ふぇ? ああ、当然だ」

「今日は早く帰れるしねぇ」

 二人で他愛ない雑談をしていると、南嶺がカクカクした動きで唐突に立ち上がった。

 その動きに意表を突かれた俺と美流九は、思わず談笑を止めてそちらに視線が行った。

 ――そういえば、さっきからコイツ一言も喋っていないような。

 そんな事に俺が気付きながらも、南嶺はそのまま真っ直ぐ流しに向かって、食べ終わった皿を流しに置いた。

「な……南嶺?」

 思わずそのロボットのような動きに対して疑問を抱き、南嶺に問いかけるが、南嶺の反応はなし。

 どうなってるんだこりゃ、と首を傾げていると、ああ、と美流九が何か合点がいったようで、確信の篭った声で言った。

「南嶺ちゃん、寝ぼけてるぅ」

「えええええええッ!? あれ寝ぼけてんのぉおおおおおッ!?」

 うん、と美流九は頷き、

「ちぃーちゃんがここに越してくる前にぃ、南嶺ちゃん一回学校寝坊してた時があってねぇ。その時の動きと、今の動きが全く同じなんだよぉ」

 としみじみと語った。どうやら以前の時も驚愕の嵐に包まれたらしい。

 寝ぼけると動きがロボットになるとは一体……と俺は人体の神秘にでも触れた気分になる。

 俺たちは寝ぼけた南嶺を三回ほど叩いてスリープ状態から再起動させて、もれなく南嶺のキックを(俺だけが何故か)股間に喰らってしばし悶絶した後、何事も無かったかのように学校へ向かわされた。


      ✚


現実世界:〇〇高校:一年二組――


「よぉ、ちぃーちゃんおはよっ」

「…ああ、おはよう」

「あ、ちぃーちゃんお早う御座います」

「……おはよ」

「お、ちぃーちゃんじゃん。おっは~」

「…………おはー」

「うん、ちぃーちゃんか。おはよう」

「もうこんなん耐えられるかぁぁぁあああああああぁぁあああああああああああああああッッッ!!!!!!」

 担任の先生に言われた時点で耐え切れずシャウト。

「おおっ、今日は五分も耐え切ったぞ」

「新記録だな♪」

 スマホの時計でも見ていたのか、席で嗤いやがる野郎ども。

「新記録だな♪じゃねえええええええええええッ!! なんだ!? このクラスで俺を弄るのは朝の名物行事かなんかなのか!?」

 何故か意外そうに顔を見合わせる一年二組の面々。

「え!? そうじゃないのか?」

 最早これは常識らしい。愕然とする俺の肩に、二人の幼馴染の手が諫めるようにポンと置かれる。

「仕方ないでしょう。だってちぃーちゃんは……」

「童顔、だもんねぇ」

「童顔になど生まれたく無かったぁぁああああぁぁあああああああああああああぁぁぁッッ!!」

 随分とわがままな意見かもしれない。世の中にはそれになりたくて仕方ない奴だっているだろうから。でも実際問題、これは結構自分の中でもっともコンプレックスになっている問題なのだ。何故ならば俺は、もう少し凛々しい顔つきの精悍な男になりたかったのだから。しかし、内面と外見のギャップが酷いというかなんというか。だからせめて仮想空間だけでもと、VRゲームでは精悍な顔つきになっているのだが。

 特に自分の身体にコンプレックスを抱かず、VRゲームでも自分に近い容姿にしている幼馴染二人は、クスクス笑って言った。

「大丈夫だよぉ、ちぃーちゃん」

「あなた、内面だけは無意味に男らしいから」

 俺はもうガックシと肩を落として、笑い合う皆の視線を受けながら自分の席に向かうしかなかったのである。


      ✚


 昼休みになった。

 当然自炊なんて出来るはずもない俺は、一回渡り廊下へとフラフラ向かう。購買部がそこでパンやジュースやお菓子やその他雑貨をたたき売りしているのだ。

 ――が、その行動は俺が教室から出る直前で遮られる。

 唐突にパンをもった腕が左から伸ばされて、俺の進行を妨げたのだ。

 朝から無意味に不機嫌だった俺は、誰だ一体何しやがると文句を言おうとして、腕が伸ばされた方に振り向く。

 そこには、

「かずみさん……? 一体何してんだ」

 品行方正で端正な容姿且つ童顔だから男子からは人気だけど、その厳しさ故に周りからは敬遠されているクラス委員長護堂かずみさんが、俺を睨みつけて立っていた。

「少し、付き合って頂けませんか?」

 その剣呑な雰囲気に、俺は思わず昨日科学ゾーンで出会ったムジカを連想してしまった。

 ん……待てよ?

    K A Z U M I

         ↓

    M U Z I K A

 いやいや……まさかな。

 一瞬頭に浮かんだ可能性を振り払って、俺は答える。

「それはいいけど……。一体何の用だよ?」

「その話は後でしましょうか。取り敢えず屋上へ。あそこなら立ち入り禁止ですから、話は聞かれないはずです」

 是が非でも連れて行くといった感じのかずみさん。強引に制服のえり袖を引っ張ってくる。

「ちょ、首締ま、締まってる。首が締まってる!!」

 俺の必死の抵抗虚しく、俺は屋上へと誘拐された――


      ✚


現実世界:〇〇高校:屋上――


 ああ、花畑の向こうに川が見える。あの向こうにおわすは俺の曾祖父さんではないか? 確か校長もやった事がある高名なお方だった筈だ。おーい、曾祖父さん。ひ孫はここで元気にしてるよー。え、こっち来いって? 仕方ないなあ。あ、あそこに川渡ししてくれる船頭さんがいるなあ。すみませーん、乗せてくださ――


 暗転。


「ぶっはあ!!」

 俺が荒い呼吸をしながら息を吹き返して、目を開くと、そこにはめんどくさそうな表情のかずみさんが居た。その後ろには青空が広がっていて、なるほどどうやら俺は見事屋上に攫われたらしい。それにしても、さっきのお花畑は一体何だったんだろう?

「全く、人工呼吸なんて面倒な事をさせないで下さい」

 すごくめんどくさそうなかずみさん。それにしても人工呼吸ってまさか……と、俺が思わず唇に手を当てたら、かずみさんが勝ち誇った表情で何かを投げた。それは保健体育で使った人工呼吸用の唇と唇を付けない為のチューブだった。どうやら世の中ライトノベルの主人公のようにはいかないらしい。

 恥ずかしくなって手を素早く引っ込め、俺はすぐに話題を切り出した。

「で、一体何の用だって聞いてるんだけど?」

 かずみさんはその質問にしばし思案顔だったが、やがて決意したように顔を上げた。

「クロス・クロス・オンライン、って知ってますよね?」

「……ああ。それがどうかしたのかよ?」

 別に隠す事でもないから、素直に言った。なんだろう、もしかしてやりたいからゲームコピらせてくれとか?

「もし……」

 かずみさんは、表情を固くしながら大きく息を吸って、言った。

 思えば、その一言が、これからの俺を取り巻く環境を、変化させたのかもしれない。


「クロス・クロス・オンラインが、デスゲームだとしたら、どうしますか?」


 随分と思い切った事を言ってくれるわね……。

 このゲームがデスゲーム? でもそれだとおかしくないかしら?

by南嶺

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