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その10 前編

 ふふ、面白い、面白いわあ!!(高らかな笑い)

 by南嶺


作者より

 その10で切りよく一日目を終わらせたかったのですが、思ったより長くなりそうですので、前後編に分けることにしました。すいません。

 また、南嶺が披露する科学知識はもしかしたら(というか間違いなく)解釈を間違えている可能性があるので、そこにツッコミがあれば容赦なく仰って下さい。場合によっては大幅に加筆、修正する時もあります。

 それでは、お楽しみ下さい。


      ✚


科学ゾーン:ステーション265:内縁部:アンテナ付近――


「まずは、もうちょっと近づいてみるかしらね」

 唐突に言われた一言に、美流九は一瞬だが確実に絶句した。

「南嶺ちゃん、それはちょっと自殺行為じゃないかなぁ」

 茶化すように返すが、南嶺の目はどこからどうみても真剣だ。彼女の浮かべた笑みは、ジョークなどの面白いものを見たような表情ではなく、圧倒的な決意と自信からくる大胆不敵な笑みだった。

 しかし、その自信満々の笑みを見ても、美流九の不安が余さず取り払われる訳ではない。

「バレたら大変だよぉ」

 辟易するように呟いた美流九に対し、南嶺は意外そうな表情で言った。

「意外ね。あなたはちぃーちゃんの事になるともう少し一心不乱になるかと思ってたんだけど――勘違いだったみたい」

「……それはどういう意味かなぁ」

 南嶺の言い回しに少しカチンと来た美流九は喧嘩でも売るような目線で南嶺を見る。

「なんにせよ、協力し合うべきよ」

 南嶺は不遜とした態度で言う。

「あなたが本当にちぃーちゃんを思うなら、ね?」

 否応なくうんと頷くしかない美流九は、心中複雑な気分で南嶺の跡を追いかけた。

 こうして、蹈鞴千助の知らない所でちょっとした修羅場が発生していたのである――


      ✚


「っイタタタ。くそ、だから妙にHPが減ると思ったんだ……」

 俺は下腹部からくる細かい痺れに顔をしかめながら、腹に突き刺さった鉄骨を引き抜く。正直この世界が血などの描写をしていなくてよかったと心の底から思う。きっと見た瞬間にリアルで吐き出していた事だろう。

 振り払うように細い鉄骨を横に投げ捨てると、改めて右手にある羽根を巨大剣に変化させる。

「さあ、改めて殺り合おうか、巨人め」

 構え、虚勢を張る俺の耳に、呆れたようにも聞こえるムジカの声が入ってくる。

『何故そんな虚勢を張るのか、理解できません。私に勝てないのは一目瞭然でしょう?』

「さあな」

 特に考える事もなく、気付くと口を開いていた。

「別に勝てる勝てないどうこうのという話じゃねえ。俺は単純に時間稼ぎしてるだけだからな。だから虚勢を張れる。負けても言い訳できる。残念ながら、俺は言い訳がましい卑劣な人間だからな。ここで負けるのはどうってことねえさ」

 ただ、と。

「でもな、だからってここで引くつもりもねえんだよ。幾らなんでも、ここまで無茶苦茶人が愉しんでいるところを邪魔されて、黙って諦めて何もせずっていうのは俺の性分に合わねえんだよ!!」

 言葉の勢いのまま、俺は地面を蹴って空中に飛び出す。

『無策で出てくるとはいい度胸です!!』

 ムジカも虚を突かれずに見事に応じた。巨人の胸に格納されているミサイル群の残りを一気に解き放ったのだ。

「まだ残ってたのかよ!!」

 思わず叫ぶように愚痴が溢れるが、一秒後には愚痴を言ってる暇さえ惜しまれるようになった。なんせミサイルの大群である。必死に空中で足漕ぎして逃げる逃げる。

 ちょっと前にした家を周回してみるとか、地面すれすれで急上昇とか、そういうことが通じる量ではなかった。最早どう言葉で表現したものか困ってしまうほど一杯のミサイルがわんさか追ってくる。流石にコレ以上ムジカもミサイルを持っていない模様だが、それについて安堵できるようになるには、まだ相当先の話になりそうだ。

『逃げているばかりじゃあ、笑い話にもなりませんよ!』

 ムジカの挑発する声が聞こえるが、それに耳を一々傾けている余裕さえない。

 くっそーいっその事格好良く爆死してやろうかなとかそんな事を考えていたら、妙案が思いついた。

 少しづつ蹴る方向を右に傾け、左にとても緩やかにターンする。ターンしている最中、巨人と真正面から目があった瞬間――

「うぉおおおおおおおおッ!!」

 突然直線ダッシュを敢行する。

 さしものムジカもこれには驚いた様子で、一瞬だが確実に動きが止まる。

「喰らいやがれ!!」

 巨人の顔と衝突する、といった寸前の所で一気に上に体を跳ね上げる。

 そして巨人の頭を飛び越えた所で、盾にするように巨人の頭の後ろに隠れる。

『なっ――――』

 ムジカが驚愕の声をあげようとした時、


 巨人の躰に大群のミサイルが激突し、全てが白く塗りつぶされる。


 咄嗟に耳を両手で塞いで、目を塞いだが、その程度で防げるような光量と音量じゃなかった。鼓膜に鉛筆でも突き立てられたような鋭い痛みと、強く押し付けられるような爆風が叩きつけられる。

「――――――ッ」

 歯を食いしばって耐える。どうやらあまりの攻撃の威力に痛みの感度もかなり負荷を負っているようで、その威力に抑えが効いていないようだった。

 数十秒――俺には何時間にも感じられた――の長い爆発が収まり、目をゆっくり開く。幸いここは現実世界ではないため、光による目の眩みなどの後遺症は無い。HPは52%まで落ちたが、大した問題ではない。問題は、巨人が今ので動けなくなるぐらいまでダメージを受けたかどうかだが――

「―――!! 南嶺、美流九!?」

 ゆっくり視線を動かすと、下の方に二人が倒れていたのが見えて、慌てて頭から飛び降り、二人のもと駆け寄る。

 一メートルほど手前まで駆け寄った所で二人がムックと起き上がった為、俺は思わず「大丈夫だったか!?」と心配の声を掛けた。

 だが、二人は無言で俯くばかりで何も言わない。どうしたんだ、と俺が少し不安になった所で、

「ごっぶぅううううううううううううううううううううううッ!!!!????」

 風のような素早さで動き、一瞬の内に放たれた100の拳が俺を4、5メートル程ふっ飛ばした。

 慌てて立ち上がると、無表情で拳を握る二人の幼馴染。どうやら一人五十発は拳を放ったらしいが、いやいや二人で北斗って。「お前はもう、死んでいる」みたいな無駄に格好いい台詞を言われなかっただけでもまだマシかもしれない。

「何してくれやがる!!」

「てめえこそ何しやがる糞野郎」

 完全に冴えてぶりっ子口調どころか精神崩壊でもしたんじゃねえかと思いそうな男勝りな口調に変わる美流九。背中に冷たいものが走り、思わず後ずさりする。

 が、ザッ、と後ろから足音が。

 恐る恐る振り向くと、不気味な笑みを浮かべた南嶺が、一瞬の内に俺の背後を取っていた。

 ち、血祭りにあげられる。

 これはとっとと上空に退散したほうがいいなぁと思い、上に視線を向けて、そこで気付いた。

 巨人の顔がプスプスと煙を上げながら、俺を見下ろし睨みつけていた。しかもそれがミサイルの爆発やら破片やらによって内部の様子が垣間見え、電線やらなんやらが火花散らしながら覗いてるもんだから、睨みつけられるこっちとしては思わず怯まずにはいられない。

 三方から向けられる殺意。それはちょうど俺の位置でクロスしていた。

 ――リベロともおさらばかぁ、と俺が憂鬱気味に思った時、

 巨人の口にあたる部分がパッカリ開いた。中からは半径5メートルはあろうかという砲台が、奥底をオレンジに輝かせている。

 すでに発射体制だった。

 ――これは修羅場なんか経験している場合じゃない。

「くそ、休戦協定だ!! 早くここから逃げないと!!」

 俺は二人に話しかけるが、二人は俺に殺意をぶつけるばかりで話を聞いてくれない。

 眩い光が巨人の口の中の砲門の先に収束して、今にも光を放たんとしている。

 ああくそ、もうだめだぁ、と俺は歯軋りして巨人の顔から無意味にも顔を背けた。

 そして、視界が眩み、世界は真っ白に溶けて――


 なんていう事は一切起きなかった。


 いつまでも何も起きないので、ちょっと好奇心が勝り(この場合は好奇心というよりは恐怖からか)、巨人の顔を見上げて見ると、その砲台は僅かに周りがオレンジ色に発行しているが、光はシュウと消えていた。

 しばらく緊張が続くが、巨人の躰は微動だにしなかった。一体何がどうなっている――?

 俺が巨人から目を離せないでいると、南嶺が突然静かに重々しく話しだす。

「動けないわよね?」

 確認するのではなく、当然の事を言うように、南嶺はそう言った。

「当然よね。発電タービンからの供給も断たれている状態で無理に光粒子ビームを放とうとしたんだから。しかも特大のをね。そんな電力を喰う攻撃したらそうなるのも当たり前よ。馬鹿なことに、その所為で動けたかもしれない数分間を一瞬にして費やしてしまったんだし」

 南嶺はこの場を支配していた。俺でも美流九でもムジカでもなく、南嶺が支配していた。

 ピィーガガッ、と突き刺すようなノイズ音を聴きとって、俺は思わず顔をしかめる。どうやらムジカが、内部のスピーカーがバッテリーが落ちたために使えなくなった為、外部のスピーカーを使って話そうとしているようだった。

『……どうやってチューブを切断したんですか? あれは使っている素材がカーボンナノチューブですし、接続部に使われているナット(ボルト)だって宇宙の真空空間でも耐えられる耐久性の高いものですよ?」

 どうやらムジカには信じられていないようだった。今の話を聞いた俺だって同じ心境だ。だってカーボンナノチューブといえばダイヤモンドにも勝るとも劣らない硬質さとしなやかさで有名だし、宇宙空間でも耐えるようなネジなど、チャチな拳銃で撃った程度で外れるとも思わない。ていうか、一つ聞こう。今まで知ったかぶりで説明しておいて何なんだが、こりゃ一体全体どういう状況だ!? 発電タービンからの電力供給って何!? どうしてそんなの分かったんだ!?

 南嶺が勝ち誇った薄ら笑みを浮かべて、勝ち誇ったように言う。

「そうね。時間はたっぷりある事だし、たっぷり説明させて貰うわ――」


      ✚


科学ゾーン:ステーション265:内縁部:アンテナ付近:十五分前――


 途中途中で邪魔な敵兵が乱入してきたものの、特に苦もなく殺戮を完了させて、二人は巨人の背後に回った。

 巨人の尻から尻尾のように出ているそのパイプは、細いパイプを何本も連ねて太くしたものだった。その尻尾の先は地下へと開いた穴へと吸い込まれている。

 南嶺はパイプをポンポン叩き、溜息を吐く。

「やっぱりそんな簡単にはいかないわね。カーボンナノチューブか……」

「ちぃーちゃんに頼んで叩き斬って貰ったほうが速いんじゃないぃ?」

「だめ、というか時間の無駄だと思うわ。さっきちぃーちゃんの剣が弾かれたのを思い出してよ。カーボンナノチューブはダイヤモンドにも勝るとも劣らない硬さとしなやかさを兼ね備えるのよ。多分さっきみたいに弾かれるのがオチよ」

 それは暗に、「私達にはこれを切断できない」と断言しているのと変わらない。

 それは聞いた美流九は、目に見えて狼狽した。

「やっぱり私達じゃちぃーちゃんの役に立てないのかなぁ」

 そんな元気の無い発言をする美流九に、南嶺はパン、と軽く頭を叩いた。

「まだそんなネガティブ発言するには早いわよ」

「……どういうことぉ?」

「まだあそこがあると言うことよ」

 疑心暗鬼になる美流九に、南嶺は指先でパイプの接合部を示した。


「……よいしょっとぉ」

 腕力にものを言わせてカーボンナノチューブで出来たパイプをロッククライミングする二人。傍から見るとあまり女の子らしからぬ体勢(自分より胴回りが太い柱にしがみついている所を想像してみよう。スカート姿でそれを登っている情景はあまりにもあれなのでここの詳しい描写は割愛する)で上り、苦労してパイプと巨人の接合部まで辿り着く。

「しめたわ」

 接合部を暫く見た南嶺は勝ち誇ったように言った。

「何がぁ?」

 まさしく大衆の意見を言う美流九。

「まあ、簡単に言えばこのパイプを切断する手段が見つかったということよ。正確にはパイプの接合を放すのだけど」

「どうするのぉ?」

「まあまあ、そんな急かないで。取り敢えずは一旦降りましょう。話はそれからよ」

 また女の子らしからぬ姿で降り始める二人。この小説はあまりエロい描写をしたくないのでアハンな部分は割愛する。そこはみなさんのたくみな想像力でカバーしてほしい。――つまり何が起きたかは言うまでもない。

 苦心して降りると、南嶺は美流九に向かってしっかりとした口調で語りだす。

「あそこで使われているナットは、ハードロックナットなの」

「???? ハードロックナット?」

 首をひねる美流九。まあ、当然である。南嶺もそれは分かっているので特に気にしたりはしない。

「ハードロックナットっていうのはね、ナットとボルトの間にくさび(硬い木材や金属で作られたV字形の板。一端を厚くして、そこから徐々に薄くなっていくように作られている)を打ち込んで、ナットのネジで押し込んだものよ。概要はこんな感じ。NASAのスペースシャトルにも使われるようなどんな衝撃や揺れにも絶対に緩まないかなり頑丈なナットよ」

「す、スペースシャトルにぃ!? そんなのどうやって外すの!?」

 ますます出来ない気がしてきた美流九に対し、南嶺は対照的に笑った。

「大丈夫よ。心配要らないわ」

 はあ、と取り敢えず話を聞いて見ることにした美流九。南嶺はそれを見ても気にせず話を続けた。

「金属は熱を帯びると柔らかくなるわよね。それを急速に冷凍させると、金属によってはかなり硬くなる場合があるの。でもね――」

 ここからが本題よ、と南嶺は念を押して語りだす。

「ある程度硬化が進んだ物質の微量の金属間化合物原子の析出が進むと、逆に金属は脆くなるのよ。簡単に言えば時効しすぎると、もろくなっちゃうって事」

「???????????????????」

 もう訳が分からない美流九は知恵熱を出しそうだ(これは秘密だが作者自身あまり理解できていなくて頭が痛い)。

「ま、まあとにかく、加熱してすぐ冷やせば金属は脆くなるんだねっ!!」

 自分自身を納得させるように美流九は断言する。間違っているような間違っていないような。

「なら、私冷やせるもの持ってくるよぉ!!」

 と言うが早いか、一目散に駆け出す美流九。南嶺は突然の事に唖然としてしまった。

「あの子、ちゃんと持ってくるかしら……」

 まるで子供をお使いに出した親のように言いながらも、これで良かったか、と南嶺はポジティブに思考を切り替える。

 そう、ここからが問題だ。いかにして金属を熱するか。

「あ………」

 今更思い出す。この世界には金属を『焼き切る』レーザーがあるではないか。

「ふふ、面白くなってきたわね」

 見るものによっては邪悪な笑みを浮かべ、南嶺は駆け出していった――

 後編へ続く。

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