「俺」達のクラスで席替えの話
半月振りの三角定規...
ですが、今回は長めです★
「暑い、溶けるぅ……」
そんなことを言いながら、俺は手の甲で汗を拭った。
俺達の追いかけっこもどきは結局、校門まで続いた。
奴は自転車置き場に向かい、俺は直接教室まで歩いて来たのである。
しかし、かなりの距離を走った気がする。
久々のハードな運動かもしれない。
全く、朝っぱらから何をやってるんだか。
俺達は二人揃うと、いつも童心に返るようだ。
どうせなら、「同心」であっても良いと思うんだけどな。
そう思うと、笑ってしまう。
ある意味一緒で、ある意味違う。
だから、俺達はいつも笑い合っていられるのに。
二人が全く同じ気持ちでいたら、飽きてしまうだろうに。
「うわ、汗が止まらないな」
俺はブラウスの襟を掴んで、パタパタと扇ぎ始めた。
こう言う時は下敷きが便利なのだが……俺は生憎、下敷きを使う習慣がない。
と言うか、下敷きの必要性が分からない。
仕方なく、俺はハンカチで汗を拭き始めた。
「これ、貸そうか?」
スポーツタオルを差し出しながら、彼が言った。
「あ、おはよう新谷。大丈夫、借りる訳にはいかないし」
俺は笑いながら、バックから扇子を取り出した。
基本的に暑い地域に住んでいるため、学校に団扇や扇子を持って来る人は多い。
特に、折り畳んで持ち運べる扇子は便利なのである。
「お前、でも顔色が良くない。この前みたいに、もし……」
「大丈夫だって。自分の体は自分で管理出来てるよ」
彼の言葉を遮るように、俺は小さく笑って言った。
それが逆効果だったらしい。
力なく笑う俺を見て、彼の心配を増長させてしまった。
「……でも」
彼は不安げである。
「ありがとう。心配してくれるだけで嬉しいから」
俺は、本当に心から彼に感謝していた。
「よっす。お前、走るの遅過ぎ」
教室へと入って来た奴は、自分の鞄を机に置くなり話し掛けて来た。
「失礼な。荷物もあるのに、全速力で走れる訳がないだろ」
俺は答える。
「大体、無理して追い付こうなんて百年早いんだよ」
奴は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あのねぇ、いい加減にしないと……怒るよ」
俺は、答えた。
「そう言えば、今日は初めての席替えだな」
奴が、その話題に触れてしまった。
今は名前順で座っているため、俺と奴の席は近い。
奴は俺の斜め前の席である。
苗字が「な」行である彼は、今は俺達と席が離れている。
だから彼は、俺に言ったのだ。
「次はお前の隣を引き当ててやる」と。
彼はこの前、何を思ってそう言ったのだろうか。
彼の意図することが、分からない。
……いや、考え過ぎだ。
彼に限って、「裏」や「本心」があるとは思えない。
ただ彼は単純に、友人である俺達と近くの席になりたいと思った訳で。
その純粋なる言葉に、深い意味などなくて。
だから、気にしないことにした。
俺達の間にある三角定規を、歪ませないために。
今回のノンフィクションは2つ。
・下敷きは使わない派。
・学校には扇子派。
以上です^^