10.4 神頼み(1)オルレアンの守護聖人たち
当時のキリスト教世界では、地震、戦争、飢饉、疫病はすべて悪行に対する罰であると人々は教えられていた。
オルレアン公シャルル・ドルレアンは、善良なキリスト教徒だったので、「フランスに大いなる悲しみが降りかかったのは、フランスの罪、すなわち王国に蔓延している傲慢、暴食、怠惰、貪欲、色欲、正義の軽視に対する罰だ」と考えていた。
彼はバラッドの中で、その悪行と救済策について語った。[855]
(⚠️バラッド(ballad):物語や寓意のある韻文詩。識字率の低い時代に、民衆にニュースを伝える役割があった)
(⚠️王族詩人シャルル・ドルレアンの『獄屋の歌』:シャルル六世の甥(王弟の子)でシャルル七世のいとこ。アジャンクールの戦いで敗北して捕虜となり、イングランドに幽閉された25年間に多数の詩を書き残した)
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オルレアンの人々は、「この戦争は神が罪人を罰するために下したものであり、神の忍耐が尽きたのだ」と固く信じていた。
彼らは、悲しみの原因と、それを解決する手段の両方をよく知っていた。
それは、善良な修道士・説教者からの教えだった。
シャルル公爵がバラッドで語ったように、解決策は「正しい人生を送ること。生活を改めること。王国のために死んだ犠牲者の魂のためにミサを捧げて歌うこと。罪深い生活を捨てること。聖母マリアと聖人たちに許しを請うこと」だった。[856]
オルレアンの人々は、この救済策にすがった。
彼らは、オルレアン防衛のために命を落とした貴族、隊長、兵士のためにサン・クロワ教会でミサをおこない、特にニシンの戦いで哀れな死を遂げた犠牲者の魂のために祈った。
聖母マリアと町の守護聖人にろうそくを捧げ、聖エニャンの聖遺物を掲げて城壁の周りを練り歩いた。[857]
人々は、大きな危険にさらされていると感じるたびに、サン・クロワ教会からそれを運び出し、盛大な行列を組んで町中や城壁の上を練り歩いた。[858]
その後、大聖堂に戻ってくると、行政官によって選ばれた善良な修道士が玄関先で説教するのを聞いた。[859]
彼らは公共の場で祈りを捧げ、生活を改めることを決意した。
天国にいる(町の守護聖人)聖ユヴェルテと聖エニャンが、オルレアン市民の信仰心に動かされて、神に執り成しをしてくれるに違いないと考えた。(修道士の説教は)まるで二人の司教の声が聞こえるかのようだった。
聖ユヴェルテはこう言うだろう。
「全能なる神よ、どうかオルレアンを救ってくださいと切に祈り、懇願します。私は生前オルレアンの司教で、今はその守護聖人です。オルレアンは私のものです。敵に引き渡さないでください」
次に、聖エニャンがこう語った。
「オルレアンの人々に平和を与えてください。神よ、あなたは幼子の口を通して、私をオルレアンの羊飼いに任命されました。彼らが敵の手に落ちないようにしてください」
オルレアンの住民は、神は二人の守護聖人の祈りにすぐには答えてくれないだろうと予想していた。神の裁きは厳しいと知っていたので、神はこう答えるのではないかと恐れた。
「フランスの人々は、自身の罪ゆえに正当な懲罰を受けている。彼らは聖なる教会に従わなかったために苦しんでいる。王国では、最も卑しい者から最も高貴な者まで、互いに競うように悪事を働いている。農民、市民、法律家、司祭に至るまで冷酷で貪欲である。王侯貴族と領主は、傲慢で虚栄心が強く、人を呪い、くだらない誓いを立てる裏切り者である。彼らの堕落した生活は空気を腐敗させている。彼らが懲罰を受けるのは当然である」
神がこのように語るのは当然だろう。
神が怒っているのは、オルレアンの人々が大罪を犯したせいなのだ。
しかし、今こそ見よ——。
百合の王を愛する聖母マリアは、フランス王とオルレアン公のために、御子に祈りを捧げる。御子は、すべてにおいて聖母の御心を叶えることを喜ばれる。
「わが息子よ、心からあなたに懇願します。イングランド人をフランスの地から追い払ってください。彼らにフランスを支配する権利はありません。もし彼らがオルレアンを奪ったら、残りの地も思うがままに奪うでしょう。わが息子よ、どうかそれを許さないでください」
そして神は、聖なる母の祈りに応えて、フランス人を許し、救うことを承諾するだろう。[860]
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このように、当時の人々は、霊的な世界に対する考えに基づいて、「天国の評議会」に自分たちの望みを代弁させていた。この「天国の評議会の結果として、神が大天使を羊飼いの少女に遣わした」と民衆は信じた。
教養ある知識人の中にも信じる者が少なくなかった。
神は、ひとりの女性の手によって、王国を救うかもしれない。
神は、この世界の弱者を通じて、その力を顕現するのではないだろうか?
神は、幼いダビデに巨人ゴリアテを倒させ、ユディトの手にホロフェルネス将軍の首を渡したではないか。オルレアンでは、包囲された町をアッティラから解放する羊飼いの名前を、赤子の口から言わせたではないか。[861]
(※)こんなのも公開しています。
▼幽閉された王族詩人シャルル・ドルレアン『獄屋の歌』【日仏対訳】
https://kakuyomu.jp/works/16818093086105884440




