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教皇庁に禁書指定されたジャンヌ・ダルク伝  作者: しんの(C.Clarté)
上巻・第一章 幼少期

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1.4 Fateの伝説:妖精の泉と女神の木

 ドンレミ村から西に1.25マイル行くと、深い森に覆われた丘があり、野生のイノシシやオオカミを恐れてそこに入る勇気のある人はほとんどいなかった。

 オオカミは田舎では恐怖の対象だった。村長は、オオカミやオオカミの仔を狩って首を持ってきた者に報酬を与えた。[184]


 ジャンヌの家の玄関から見えるこの森は、ボワ・シュヌ(樫の森)またはホアリー・シュヌ(白髪の森)と呼ばれてる、ようするに古い森だった。[185]

 このボワ・シュヌが魔術師マーリンの予言の対象となったことは後で説明しよう。



 村に向かう丘のふもとに泉[186]があり、泉のふちにはグーズベリーの茂みが灰色っぽい緑色の枝を絡ませていた。その泉は「グーズベリーの泉」または「ブラックソーンの泉」と呼ばれていた。

 ジャンヌは「私たちの主なる妖精の泉(La Fontaine-aux-Bonnes-Fées-Notre-Seigneur,)」と表現したらしいが、パリ大学の卒業生が考察したように[188]、それは村の人々がその名前で呼んでいたからに違いない。


 そのような言い方をすることで、地元の人たちは森と水の妖精をキリスト教化する方便にしていたと考えられる。ある宣教師は、異教徒がかつて女神として崇拝していた悪魔をその妖精と見なした。[189]


 それはまったく真実であった。

 ローマ神話の「運命の三女神(Parcæ)」と同じように畏怖され崇拝されていたこの妖精は「フェイト(Fate、運命・宿命)」呼ばれ[190]、人間の運命を支配する力があるとされていた。


 しかし、この村のフェイトの権威はずいぶん前に落ちぶれて、人間と同じくらい素朴な存在になっていた。


 フェイトは子どもの洗礼式に招かれ、母親の隣に席が用意された。

 こうした祭りで、フェイトは一人で食事をして誰にも見られずに出入りする。

 人々は、フェイトの機嫌を損ねることを恐れて、その姿を覗き見することを避けた。

 神々はこっそり出入りするのが古来からの慣わしだ。


 フェイトは生まれたばかりの子どもに贈り物をした。

 中にはとても親切な妖精もいたが、そのほとんどは悪意がなくとも怒りっぽく、気まぐれで、嫉妬深い。うっかりして機嫌を損ねると、邪悪な呪いをかけてくる。

 理不尽な好き嫌いの感情で、いかがわしい女のような性格を見せることもあった。騎士や無法者を恋人にしたフェイトもいたが、一般的にそのような恋物語は悲惨な結末を迎えた。

 結局のところ、優しいか恐ろしいかに関わらず、彼らは運命の女神であり、いつも運命そのものだった。[191]





 近くの森の境界には、ヌフシャトーの町へ続く街道があり、ブナの古木が張り出して心地よい木陰を作っていた。[192]

 このブナは、ガリアに宣教師が来る前の時代に神聖視されていた木々と同じく、敬虔に崇められていた。[193] 地面を這うその枝に、誰も手を触れようとしなかった。

 地元の人は「王家の百合だってこれほど美しくない」と言った。[194]


 妖精の泉と同じく、この木も多くの名前があった。

 貴婦人の木(l’Arbre-des-Dames)、貴婦人の宿り木(l’Arbre-aux-Loges-les-Dames)、妖精の木(l’Arbre-des-Fées)、ブルレモンのすてきな妖精の木(l’Arbre-Charmine-Fée-de-Bourlémont)、美しい5月(le Beau-Mai)と呼ばれていた。[195]




 ドンレミ村の人たちは誰もが、妖精が実在すると信じ、そして「女神の木」の下に行けば会えると知っていた。

 昔、ベルテが糸紡ぎをしていた時代、ブルレモン領主のピエール・グラニエ[196]が妖精の騎士となり、夕方になるとブナの木の下で彼女と逢瀬を重ねた。

 二人の愛を物語るロマンスが生まれた。

 ジャンヌの名付け親の一人で、ヌフシャトーの学者だった人物は、この話を聞いたことがあった。それはロレーヌ地方でよく知られている水の妖精メリュジーナの物語によく似ていた。[197]


————————————

(⚠️訳註)メリュジーヌ(別名:メリュジーナ、仏: Melusine):フランスの伝承に登場する水の精霊で、一種の異類婚姻譚の主人公。 上半身は中世の衣装をまとった美女の姿だが、下半身は蛇の姿で、背中にはドラゴンの翼が付いている事から竜の妖精でもあるとも言われている。

————————————


 しかし、妖精が今でもブナの木によく出没するかどうかは疑わしかった。

 妖精がいると信じる者もいれば、いないと考える者もいた。


 ジャンヌの名付け親のひとりであるベアトリクスはよく「昔、妖精たちがブナの木に来たという話を聞いた。しかし、悪い罪を犯したからもう来なくなった」と言っていた。[198]


 この素朴な女性は、妖精は神の敵であり、司祭が妖精を追い払ったと考えていた。ジャンヌの名付け親であるジャン・モレルも同じ考えだった。[199]





 挿絵:1419年、ドンレミ村にあったジャンヌ・ダルクの生家(The House of Joan of Arc at Domremy in 1419)




 実際、昇天祭(復活祭から5週目の木曜日)前の祈願節(昇天祭前の月曜から水曜)、四季の斎日(断食と祈りの日)に、十字架が野原に運びこまれ、司祭はブナの木の下で『聖ヨハネの福音書』を唱えた。


 司祭は、グーズベリーの泉や教区内にある他の泉でも同じことをした。[200]

 悪霊を追い払うには、『聖ヨハネの福音書』に勝るものはなかった。[201]



 オーベール・ドゥールシュ卿は、ドンレミ村には20~30年前から妖精はいなかったと主張した。[202]


 一方、村には、キリスト教徒が今でも妖精と会話を交わしており、木曜日が待ち合わせの日(約束の日)だと信じている者もいた。




 ジャンヌのもう一人の名付け親、市長オーブリの妻は、木の下で妖精をみずからの目で目撃した。彼女は名付け子にそのことを話した。

 オーブリの妻は魔女でも占い師でもなく、善良で慎み深い女性として知られていた。[203]




 これらすべてにジャンヌは魔術を疑った。

 ジャンヌ自身は木の下で妖精に会ったことはなかった。

 しかし、他の場所で妖精を見たことがないとは言わなかっただろう。[204]

 妖精は天使とは違い、いつも本当の姿で現れるわけではない。[205]




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