6.15 ジャンヌの規範「私のオリフラム」
(※)冒頭に出てくる聖職者3人(ジャック・ジェリュ、ジャン・ジラール、ピエール・エルミテ)は「6.8 聖職者と占星術師の意見」で言及されており、今回はその続きとなります。
▼6.8 聖職者と占星術師の意見
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一方、遠く離れたサン=マルセラン司教区にあるデュランス川の岸辺の険しい岩の上では、長年仕えてきた王に(王の評議会から引退後も)忠実であり続けるジャック・ジェリュが、オルレアン家とフランス王家の利益を気にかけていた。
王に仕える二人の聖職者ジャン・ジラールとピエール・レルミットから、(ラ・ピュセル来訪を伝える)手紙を受けて、ジャック・ジェリュは次のように答えた。
「孤児と虐げられた人々のために、神は間違いなく顕現れ、イングランド人の邪悪な企みを挫折させるだろう。だが、孤独の中で育った農民の少女の言葉を軽率に信じるべきではない。なぜなら、女性はか弱く、簡単に騙されてしまうからだ。フランスが諸外国に滑稽に見られるような振る舞いをしてはいけない」
ジェリュは「フランス人は、騙されやすいことですでに有名だ」と付け加えた。
手紙の最後に、「王が断食して懺悔をすれば、天の神が王を啓蒙し、誤りから守ってくださるだろう」とピエール・レルミットに助言した。[700]
しかし、神託者であり元顧問官であるジャック・ジェリュの心は落ち着かなかった。
彼は、シャルル王とマリー王妃に直接手紙を書き、危険を警告した。
彼にとって、ラ・ピュセル来訪が良いきざしとは思えなかった。
彼は、3つの理由からジャンヌを信用しなかった。
第一に、彼女は王の敵であるブルゴーニュとロレーヌの支配下にある地域から来たため。
第二に、彼女は羊飼いで騙されやすい。
第三に、彼女はラ・ピュセル(若い女中・下女の意)であるため。
彼は、マケドニアのアレクサンドロス三世が毒殺されそうになった伝説を例にあげた。アレクサンドロスの父母は不仲で、父に追放された元妃は敵にそそのかされてスパイとなり、毒を盛って父子もろとも謀殺するためにマケドニアに送りこまれた。しかし、師アリストテレスは誘惑者を退けて王子を死の危機から救い出した。
賢明なアリストテレスと同じく、アンブラン大司教のジャック・ジェリュは「ラ・ピュセルと個人的に会話しないように」と王を戒め、さらに「遠ざけて観察すべきだが、拒絶してはならない」と忠告した。
これらの手紙に対する慎重な返答が届き、ジェリュを安心させた。
新しい手紙で、彼は王に「ラ・ピュセルが疑いの目で見られ、信じられるかどうか不確定にされていると聞き、満足している」と証言したが、その後、かつての不安に戻り、彼はこう付け加えた。
「彼女の生活様式と道徳観について、確信が持てるようになるまで、王と頻繁に接触することは好ましくない」[702]
シャルル王は実際に、ジャンヌをどう思っているのかわからない態度を取っていた。
しかし、ジャンヌが悪い企みを秘めているとは思えず、快く受け入れた。
ジャンヌはごく素朴な親しみを込めて王に話しかけた。彼を「優しい王太子」と呼びかけ、その言葉遣いによって高貴な王家への敬意を示した。[703]
ジャンヌはまた、王を「私のオリフラム」と呼んだ。
なぜなら、ジャンヌにとってシャルル七世はオリフラム、つまり現代の言葉で言えば「旗印」だったからである。[704]
オリフラムとは王家の軍旗である。
シノンでは誰もそれを見たことがなかったが、驚くべきことが語られていた。
オリフラムは、サンダルと呼ばれる上質で軽い高価な絹で作られ、2つの翼を持つゴンファノン(旗の一種)の形をしており[705]、緑色の絹の房で縁取られていた。
それは天から降りてきたもので、初代国王クローヴィスと聖シャルルマーニュの旗印だった。
国王が出陣するときには、王の前にオリフラムが掲げられた。
その威光は絶大で、敵はオリフラムが近づくと無力になり、恐怖に駆られて逃げ出した。
記録によれば、1304年に端麗王フィリップ四世がフランドル軍を破ったとき、オリフラムを掲げる騎士が狙われた。翌日、彼は遺体で発見されたが、それでもオリフラムを腕に抱きしめていた。[706]
この旗は、シャルル六世に不幸が起きる前までは使われていたが、それ以来、一度も広げられることはなかった。
(⚠️オリフラム(oriflamme):フランス王家の軍旗。ラテン語の「黄金の炎(Aurea flamma)」に由来し、宗教的な「聖なる旗」の意味も兼ねる。王の怒りを示すとも言われ、この旗が掲げられた戦場では、一切の容赦・恩赦・捕虜を許さず、旗が下げられるまで無慈悲な戦い(皆殺し)が続けられる。なお、シャルル七世の治世下でこのオリフラムは一度も使われていない)




