6.11 魔術師マーリンの予言(1)アーサーと呼ばれるアルモリカの王子
ゴークール卿は、ジャンヌを宿から連れ出し、クードレ城の塔に宿泊させた。
ジャンヌはこの3日間、町を見下ろすようにそびえ立っているこの城を眺めていた。[682]
シノン城を構成する《《3つの城》》のひとつ「ル・クードレ」は、王が居住している中央の城と堀と要塞によってのみ隔てられていた。[683]
ゴークール卿は、シノンの町の副官で王の執事長でもあるギヨーム・ベリエに、ジャンヌの世話を任せた。[684]
彼は、ジャンヌの身の回りを世話する小姓として、自分の従者の中から15歳のイメルゲ(Immerguet)を与えた。ミンゲまたはミュゴーと呼ばれていたが、本名をルイ・ド・クートといい、オルレアン家に100年にわたって仕えてきた古い家柄の出身だった。
彼の父ジャンもミンゲと呼ばれていた。フレネイ=ル=ジェルメール、ラ・ガドリエール、ミトリーの領主で、オルレアン公の侍従だったが、前年に極貧のうちに亡くなった。
未亡人と5人の子供(男子3人と女子2人)が残され、娘のひとりジャンヌは1421年以来、シャトーダンの総督フロランタン・ディリエ卿の妻となっていた。
母親はスコットランド貴族出身でノヴィアンの女領主カトリーヌ・ル・メルシエだが、子供たちとともに非常に貧しい生活を送っていた。だが、オルレアン公は亡き侍従の忠実な働きに報いるため、私財から援助を与えていた。[685]
ジャンヌは、ミンゲを一日中そばに置いたが、夜は女性たちとともに寝た。
善良で敬虔なギョーム・ベリエの妻が、ジャンヌを見守っていた。[686]
クードレ城で、小姓のミンゲはジャンヌがひざまずいて祈りを捧げながら、ときどき涙を流しているのを何度も見た。[687]
数日の間、身分の高い人たちがジャンヌと話をしにやって来た。彼らは、ジャンヌが少年の格好をしているのを見かけた。[688]
ジャンヌが王に仕えるようになってから、多くの人が「あなたの故郷に『ル・ボワ・シュニュ』と呼ばれる森があるのではないか」と尋ねた。[689]
この質問が、ジャンヌに投げかけられたのは、「ル・ボワ・シュニュ(Le Bois-Chenu)から乙女がやってくる」という魔術師マーリンの予言が広まっていたせいだ。
当時はさまざまな予言が流行し、特に魔術師マーリンの予言は誰もが耳を傾け、感銘を受けていた。[690]
マーリンの母は悪魔に誘惑されて身ごもり、息子はそこから深遠な智恵を得た。
未来を解き明かす鍵となる数秘術に加え、物理学の知識を持ち合わせており、それらを駆使して魔法をかけた。岩を巨人に変えることも簡単だった。
しかし、マーリンは女性に打ち負かされた。妖精ヴィヴィアンは魔法使いを魅了し、サンザシの茂みの中に魔法をかけて閉じ込めてしまった。
これは女性の力を示す多くの例のひとつにすぎない。
著名な学者や名高い師匠たちは、「マーリンは多くの未来の出来事を明らかにし、まだ起こっていない多くのことを予言した」と述べている。
悪魔の息子が予言の才能を授かったことに驚く人々に対して、彼らは「聖霊は望む者には、誰にでも秘密を明かす。なぜなら、聖霊は巫女に語らせ、バラムのロバの口を開かせたではないか」と説明した。
(⚠️バラムのロバ:旧約聖書『民数記』第二十章に登場する寓話。天使が見えない預言者バラムと、天使を見て言葉を話せるようになったロバが議論する)
マーリンは、ベルトラン・デュ・ゲクラン卿が盾に鷲をつけた戦士の姿をしているのを幻視した。この話は、ゲクラン卿がシャルル五世に仕えて偉業を成し遂げた後に思い出された。[691]
この賢者の予言を、フランス人同様にイングランド人も固く信じていた。
アジャンクールの戦いで、(のちにフランス大元帥になる)若かりしリッシュモン伯爵アルテュール・ド・ブルターニュが捕虜となり、身代金を要求され、イングランド王ヘンリー五世の前に連れてこられたとき、ヘンリー王は「リッシュモンがブルターニュ公爵家とイノシシ(Boar)の紋章をつけている」のを見て歓喜した。マーリンの予言を思い出したからである。
「アーサーと呼ばれるアルモリカの王子が
イノシシ(Boar)の紋章を掲げてイングランドを征服する
彼は、イングランド人を滅ぼしたあと
ブルターニュ人を再びこの地に住まわせるだろう」[692]
イングランドの言葉で聖ゲオルギウスを聖ジョージと呼ぶように、アルテュールをアーサーと呼ぶ。アルモリカとは、ロワールやブルターニュ一帯を含む古代ガリアの地名である。
アルテュール・ド・リッシュモン伯爵は、ブルターニュ公の弟であり、ブルターニュの王子だった。
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⚠️リッシュモン(?)に関する、魔術師マーリンの予言詩の原文です。
A Prince of Armorica, called Arthur,
with a boar for his crest, shall conquer England,
and when he shall have made an end of the English folk
he shall re-people the land with a Breton race.




