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教皇庁に禁書指定されたジャンヌ・ダルク伝  作者: しんの(C.Clarté)
上巻・第五章 オルレアン包囲戦:1428年10月12日〜1429年3月6日

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5.7 1428年10月12日、開戦

 その週、イングランド軍の砲撃でヌーヴ塔(新塔、La Tour Neuve)付近にある水車12基が破壊された。オルレアンでは小麦粉が不足しないように馬力で動く水車(製粉所)を11基建設した。[514]


 橋上では小競り合いが何度かあった。


 10月21日木曜日、イングランド軍はレ・トゥーレル砦の外塁(外側に張り出している副次的な要塞施設)を攻撃しようとした。

 傭兵の小さな一団と町の守備隊が、勇敢に防衛した。女性たちも手伝った。攻撃が続いた4時間の間、「ゴドン人(イングランド人への蔑称)を焼き殺す」という考えに狂喜したおしゃべりな女性たちが、燃える炭や煮えたぎる油脂で満たされた鍋やフライパンを抱えて橋へ駆けつけ、長い行列が見られた。[515]


 この日の攻撃は退けたが、2日後、フランス軍は外塁が破壊されたことに気づいた。イングランド軍は地下通路を掘り、その支柱に火を放ったのだ。


 兵士たちは、これ以上の攻撃に耐えられないと判断し、みずから破壊し放棄することにした。解体されたレ・トゥーレルの砦で、町を守ることは不可能と考えられた。昔なら1カ月間は軍隊の進軍を阻止できたであろう塔も、今では砲撃に対して役に立たなくなっている。


 オルレアン市民は、橋上の「美しい十字架ラ・ベル・クロワ」の前に、土と木で新たに土塁を築いた。この新たな外累の先にある(橋の)アーチ2つ分を切り落とし、(跳ね橋がわりに)可動式の台座を設置した。


 これらの作業がすべて完了すると、レ・トゥーレルの砦を惜しむことなく放棄し、イングランド軍に明け渡した。


 一方でイングランド軍は、橋の上に束ねたたきぎと土で土累を築き、土塁の前方と後方のアーチを破壊した。[516]



 日曜日の夕方、聖ジョージ(イングランドの守護聖人)の旗が砦に立てられてから数時間後、イングランド軍総司令官ソールズベリー伯爵はウィリアム・グラスデールと数人の隊長とともに塔に上り、町の状況を偵察した。


 窓から眺めると、大砲で武装した城壁、尖塔(pinnacles)に消えた塔(towers)あるいは平らな屋根の上にテラスがある塔が見え、城壁は灰色に乾いていた。街の郊外には、立派な石細工で彫刻された教会や修道院があり、ブドウ畑や森は秋らしい黄色に染まり、ロワール川と中洲の島々は夕暮れの静けさの中でまどろんでいた。


 ソールズベリー伯は、城壁の弱点を探した。突破口になるはしごを立てられそうな場所だ。彼の計画は、オルレアンを攻撃によって陥落させることだった。


 ウィリアム・グラスデールは「閣下、あなたの街をよくご覧ください。ここから鳥のように町を一望できます」と言った。


 その瞬間、窓のくぼみに砲弾が炸裂した。城壁から飛んできた石の弾丸は、ソールズベリー伯に命中して片目と顔の半分を吹き飛ばした。


 その砲弾は、ノートルダム塔から発射された。

 少なくとも、一般的にはそう信じられていた。

 誰が撃ったのかは不明だ。


 音に驚いた市民が現場に急行すると、塔から出ていく子供と放置された大砲を見つけた。


 ソールズベリー伯が、修道士とノートルダム・ド・クレリー教会を略奪したため、腹を立てた聖母マリアの許可を得て、罪のない子供の手で弾丸を発射したのではないかと考えられた。あるいは、ソールズベリー伯はオルレアン公に「領地と町を尊重する」と約束したのに、その誓いを破ったために罰せられたとも言われた。


 ソールズベリー伯はひそかにムン=シュル=ロワールに運ばれ、10月27日水曜日にそこで亡くなった。イングランド人は非常に悲しんだ。[517]


 多くのイングランド人は、精力的に包囲戦を指揮し、わずか12日で都市防衛の要であるレ・トゥーレル砦を占領した指揮官の死を、取り返しのつかない損失だと感じていた。


 しかし、また別の人たちは、ソールズベリー伯は城壁から石の弾丸が飛んでくることを想像できなかった愚か者だと考えた。または、包囲による飢餓(兵糧攻め)によってしか陥落させることができないこの大都市を、攻撃で占領できると考えた彼は、気が狂っているとささやいた。


 そして、イングランド人はこう考えた。


「彼は死んだ。神よ、彼の魂を受け止めたまえ! しかし、彼のせいで我々は哀れにも窮地に陥った」


 人々は、有名な占星術師であるジャン・ド・ブイヨンがソールズベリー伯の死を予言していたこと[518]、そして運命の日の前夜にソールズベリー伯自身がオオカミに引っかかれる夢を見たことを語った。


 ノルマンディーの聖職者が、この悲しい死について2つの歌を作った。

 1つはイングランド人に対する歌、もう1つはイングランド人のための歌である。

 前者の歌のほうがより優れており、ソロモン王の深い知恵に匹敵するふさわしい対句で締めくくられている。[519]


Certes le duc de Bedefort

Se sage est, il se tendra

Avec sa femme en ung fort,

Chaudement le mieulx que il porra,

De bon ypocras finera,

Garde son corps, lesse la guerre:

Povre et riche porrist en terre.


確かに、ベッドフォード公爵は

賢明であるならば、妻と共に

要塞に籠もるだろう

できる限り暖かくして[520]

上質なイポクラを飲み干しながら

身を守り、戦は捨てるが良い(戦争から離れよう)

貧しい者も富める者も、土に朽ち果てるのだから。[521]


⚠️イポクラ(ypocras):中世時代に珍重された甘口の媚薬ワイン。


『7番目のシャルル、聖女と亡霊の声』番外編で、作者の覚書を兼ねてレシピを公開しています。1種(媚薬成分)を除けば、スーパーで入手できる香辛料で作れそうです。物語の小道具としても興味深い。


▼【資料】中世ヨーロッパの媚薬ワイン:イポクラのレシピ

https://ncode.syosetu.com/n8607hg/219/

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