3.3 夢見るジャンヌと両親の困惑
一週間後、ジャンヌは村に戻った。
司令官の無礼も守備隊の侮辱も、ジャンヌを諦めさせるどころか、落胆もさせなかった。ジャンヌは「声」がそれらを予言していたと想像し[346]、自分の使命が真実であると証明するものだと考えた。
夢を見ながら歩く夢遊病者のように、ジャンヌは障害にぶつかっても落ち着いていて、静かに粘り強く行動した。
家の中で、庭で、牧草地で、ジャンヌはすばらしい眠りを続け、夢の中で王太子やその騎士たち、そして天使たちが上空で舞いながら戦う光景を夢想していた。
また、ジャンヌは黙っていることができなかった。
あらゆる機会に、ジャンヌの秘密は彼女自身の口から漏れてしまった。
いつも予言していたが、誰にも信じてもらえなかった。
帰宅して約1カ月後、洗礼者ヨハネの祝日の前夜に、ジャンヌはビュレの農夫で、当時はまだ少年だったミシェル・ルブアンに次のように語った。
「クセとヴォークルールの間には、1年以内に王太子をフランス王に任命する少女がいる」[347]
ある日、ドンレミ村で王太子の党派に属していない唯一の人物、ジェラルダン・デピナルに出会った。
ジャンヌは彼の息子の名付け親だったにもかかわらず、ジャンヌ自身の告白によれば、喜んで彼の首を切り落としてやりたいと思っていたが、そんな相手にも黙っていられず、神との神秘的な関係を隠語で告げずにはいられなかった。
「うわさ話なんだけどね。もし、あなたがブルゴーニュ派じゃなかったら、教えてあげたいことがあるの」[348]
ジェラルダン・デピナルは善良な男だったので、ジャック・ダルクの娘は近いうちに婚約するのではないかと考えた。「妖精の木」の下でパンを分け合ったり、「グーズベリーの泉」の水を一緒に飲んでいた若者のひとりと結婚するのではないかと。
ああ! 父親のジャック・ダルクは「そのような秘密だったらどんなに良かったか」と望んでいただろう。
ジャック・ダルクは実直で非常に厳しかったため、子供たちの行動に気を配っていたが、ジャンヌの行動は父を不安にさせていた。
彼は、ジャンヌが「声」を聞いていることを知らなかった。
一日中、彼の庭に楽園が降りてきて、天国から彼の家にはしごが降ろされ、かつて「ヤコブの梯子」を踏んだ天使よりも大勢の天使や聖女たちが行き交っているとは考えもしなかった。
(⚠️ヤコブの梯子:旧約聖書『創世記』28章で族長ヤコブが逃亡中に夢に見た天国へ届くはしご。天使たちが上り下りしている)
また、誰にも気づかれずに、ジャネット(ジャンヌの幼名)だけのために、トゥールやナンシーなどの町で祝祭日に演じられる演目よりも何千倍も豊かで素晴らしい神秘劇が演じられていることを想像もしなかった。
彼は、そのような驚異的な奇跡を疑うどころか、全然考えていなかった。
父ジャックが見たものは、娘が正気を失い、気が狂い始めて、荒唐無稽な言葉を発していることだけだ。
ジャックは、娘が騎士と戦争のことしか考えていないことに気づいた。
ヴォークルールでの騒動について何か知っていたに違いない。
ジャックは、いつの日か、この不幸な子が放浪の旅に出てしまうのではないかと、ひどく恐れていた。
この苦しい不安は、寝ている間も彼を悩ませた。
ある夜、ジャックはジャンヌが武装した男たちと一緒に村から逃げる夢を見た。この夢は非常に鮮明で、目が覚めても覚えていた。
それから数日間、ジャックは息子のジャンとピエールに何度も何度も言った。
「もし、あの夢が正夢なら、現実になる前におまえたちの手でジャンヌを川に沈めて溺死させてほしい。おまえたちがやらないなら、俺自身の手でやる」[349]
母親のイザベルは、父のその言葉を繰り返しジャンヌに言い聞かせた。
娘が驚いて目を覚まし、言動を改めてくれるように願っていた。
ジャンヌの母親は敬虔な人だったが、、父親と同じ不安を共有していた。
娘が道を外れて危険にさらされるのではないかという考えは、善良な人々にとってつらいことであった。
困難な時代には、武装した男たちが馬に乗せて連れている野蛮な(不品行な)女が大勢いた。そういう男たちはそれぞれが自分の女を確保していた。
若き日の聖人が、常人には理解できない奇妙な言動によって疑惑を招くことは珍しくない。ジャンヌはそういった聖人の兆候を示していた。
ジャンヌは村で話題になっていた。村人たちは指を差して嘲笑した。
「フランスと王家を復興する女が去っていくよ」[350]
近所の人たちは、ジャンヌに取り憑いている狂気の原因をすぐに突き止めた。
「美しい5月(Beau Mai)」と呼ばれる女神の木の下で、花輪を飾っているのが目撃されていたから、魔法の呪文のせいだと言われた。
近くの泉と同様に、この古いブナの木は幽霊が出ることで知られていた。
妖精たちが呪文をかけることもよく知られていた。
ジャンヌがそこで悪い妖精に出会ったのを見た人もいた。
村人たちは「ジャンヌは妖精の木の下で『運命』に出会った」と言った。
その話を信じるのが、農民だけならよかったのに!




