2.9 最初の支援者:ラッソワおじさん
1419年に「島の要塞」の城主(首席借家人)となり、1423年に村の長老となったジャック・ダルクは、ドンレミ村の名士のひとりだった。
村人たちは彼を高く評価し、すすんで難しい仕事を任せた。
1427年3月末、彼らはロベール・ド・ボードリクールにかかわる訴訟で、正式な代理人としてジャック・ダルクをヴォークルールに派遣した。
それは、モンティニー・ル・ロワに住むグイヨ・ポワニャンという人物が、グルー村およびドンレミ村の領主と住民にただちに支払うよう求めた損害賠償の件だった。
この損害賠償の発端は4年前にさかのぼる。コメルシーの貴公子が、村人を「保護」する見返りに、グルー村とドンレミ村から金貨220クローネに相当する上納金を支払うように強要した。
グイヨ・ポワニャンはその支払いの保証人だったが、期限までに間に合わなかった金額の担保として、コメルシーの貴公子は、ポワニャンが所有する木材、干し草、馬を差し押さえた。
被害額は金貨120クローネに相当し、ポワニャンは、グルー村とドンレミ村の領主および農民からその金額分を取り戻そうとしたのである。
1427年、この訴訟はまだ係争中で、村はジャック・ダルクを正式な代理人に指名し、ヴォークルールに派遣した。訴訟の結果はわからないが、「ジャンヌの父がロベール・ド・ボードリクールに会って話をした」という事実だけで、十分注目に値する。[319]
ジャック・ダルクは村に帰ってくると訴訟の進展について話しただろう。貴族に会うときの作法や言葉づかいについて語ったことが何度もあっただろうし、ジャンヌもそれを聞いただろう。彼女はボードリクールの名を耳にしていたに違いない。
その時、ジャンヌの輝かしい友人である大天使の騎士が再び現れ、彼女の中に眠っている漠然とした考えを目覚めさせた。
「神の娘よ。ヴォークルールの町へ行き、ロベール・ド・ボードリクールに会いなさい。彼はあなたを優しい王太子のもとへ連れて行く兵士を与えてくれるでしょう」
ジャンヌは、自分の望みと一致する大天使の命令に忠実に従うことを決意した。しかし、母親は敬虔な人ではあるものの計画に協力してくれそうになく、父親は強く反対するだろうと予見していた。
そのため、彼女は両親に打ち明けることを控えた。[321]
ジャンヌは、デュラン・ラッソワこそが、必要な援助を与えてくれる人だと考えた。彼はジャンヌのいとこだが、16歳も年上だったので叔父と呼んでいた。
二人の親戚関係は婚姻によるもるものだ。ラッソワは、農夫ル・ヴズールとアヴェリンの娘でイザベル・ド・ヴートンの姉妹であるジャンヌと結婚し、したがって彼はイザベルの娘のドイツ系のいとこだった。[322]
(⚠️この一文、原文が非常にわかりにくい。さほど重要ではないため、親戚と認識していただければ十分かと)
ラッソワは妻、義父、義母とともに、ムーズ川左岸にある緑豊かな谷間に、数軒の農家がある小さな集落、ビュレ=アン=ヴォーに住んでいた。距離はドンレミ村から5マイル、ヴォークルールからは2.5マイル足らずだ。[323]
ジャンヌはラッソワに会いに行くと、自分の計画を打ち明け、「ロベール・ド・ボードリクール卿に会わなければならない」と説明した。
親切な親族が、この話をもっと簡単に信じてくれるように、ジャンヌはすでに述べた奇妙な予言について何度も話した。
「女がフランス王国を破滅させ、女がそれを再建するという話は、昔から知られていたんじゃないの?」[324]
この予言は、デュラン・ラッソワに思案を促したようだ。
予言された2つのうち、ひとつめの「悪いこと」はトロワの町で起こった。イザボー王妃(シャルル七世の母)が、百合の王国フランスとカトリーヌ王女(シャルル七世の姉)をイングランド王に譲渡したときに実現した。
残る、ふたつめの「善いこと」も実現するように願うばかりだった。
もし、デュラン・ラッソワの心に、王太子シャルルへの敬愛があったなら、予言の成就は彼の願いでもあっただろう。しかし、この点については歴史は沈黙している。
ジャンヌはいとこを訪問中に、親族であるヴートン家とその子どもたちと、それ以外の人にも会った。
彼女は、ビュレの集落が属するマクセ=シュル=ヴェーズ教区に住む、ジョフロワ・ド・フーという名の若い貴族を訪ねた。
ジャンヌは「フランスに行きたい」と打ち明けた。
ジョフロワ卿はジャンヌの両親についてほとんど知らず、名前さえ知らなかった。
しかし、ジャンヌは善良で素朴で信心深い女性に見えたので、彼は彼女の驚くべき計画を応援した。[325]
ビュレの集落に来てから1週間後、ジャンヌは目的を達成した。デュラン・ラッソワはジャンヌをヴォークルールに連れて行くことを承諾した。[326]
出発する前、ジャンヌは叔母アヴェリンに頼みごとをした。彼女は妊娠中だった。
「もし、あなたが産む赤ちゃんが女の子だったら、亡くなった姉を偲んでカトリーヌと名付けてください」
カトリーヌはコラン・ド・グルーと結婚していたが、ちょうど亡くなったばかりだった。[327]
(※)『上巻・第二章 声』完結。




