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教皇庁に禁書指定されたジャンヌ・ダルク伝  作者: しんの(C.Clarté)
上巻・第二章 声

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2.3 聖カタリナの伝説

 天使がジャンヌに告げた聖女2人のもうひとり、聖カタリナ(カトリーヌ)は、若い少女たち、特に召使いや未婚女性の守護聖人だった。


 演説家や哲学者たちも、50人の博士を驚かせ、東方の賢者(マギ)を打ち負かした処女を守護聖人に選んだ。

 ムーズ渓谷では、次のような韻文の祈りが彼女に捧げられた。


『ああ、尊き、聖カタリナよ

 清く、気高き、処女なる乙女よ』


 この気高い女性は、ジャンヌにとって見知らぬ人ではなかった。

 川の対岸のマクセ村には聖カタリナの教会があり、その名はイザベル・ロメ(ジャンヌの母)のもうひとりの娘に受け継がれていた。[274]


 ジャンヌは、聖カタリナの物語を、名高い聖職者たちほど詳しく知っていたわけではない。


 たとえば、当時、ブルゴーニュ公の秘書官ジャン・ミエロは『アレクサンドリアの乙女・聖カタリナ』を書き残した。ホメロスの巧妙な議論、アリストテレスの三段論法、著名な神学者アスクレピオスとガレノスのきわめて学識のある推論に異議を唱え、自由学芸7種(リベラルアーツ)(当時推奨された教養科目)を実践し、弁証法の規則に従って議論したことを語った。[275]


 ジャック・ダルクのジャンヌは、それらすべてについて何ひとつ知らなかった。当時広く流布していた俗っぽい言葉遣いの詩や散文で書かれた歴史物語を通じて、聖カタリナを知っていた。[276]




============

 コストゥス王とサビネッラ妃の娘であるカタリナは、成長するにつれて芸術に長け、絹の刺繍の名手となった。

 容姿は美しさで輝いていたが、魂は偶像崇拝の闇に覆われていた。

 帝国の多くの男爵たちが求婚したが、カタリナは彼らを軽蔑し、「賢く、美しく、高貴で、裕福な夫を連れてきなさい」と言った。


 ある夜、カタリナは眠っている間に幻を見た。


 聖母マリアが幼子イエスを腕に抱いて彼女の前に現れ、「カタリナ、あなたは彼を夫に迎えたいですか?」と尋ね、続けて「私の愛しい息子よ、あなたはこの処女を花嫁に迎えたいですか?」と言った。


 幼子イエスは答えた。


「母よ、私は彼女を迎えません。偶像崇拝者から離れるように言ってください。ですが、もし彼女が洗礼を受けるなら、私は彼女の指に結婚指輪をはめることに同意します」


 カタリナは天国の王と結婚したいと望み、アルメニアのネグラ山に住む隠者アナニアのもとへ行き、洗礼を願い出た。

 数日後、カタリナが部屋で祈っていると、天使と聖人の聖歌隊に囲まれてイエス・キリストが現れるのを見た。

 彼はカタリナに近づき、彼女の指に指輪をはめた。

 その時初めて、カタリナはこの結婚が霊的な結婚であることを悟った。


 当時のローマ皇帝はマクセンティウスだった。皇帝はアレクサンドリアの人々に、偶像に大いなる犠牲を捧げるよう命じた。

 カタリナが礼拝堂で祈りを捧げていたとき、司祭たちの詠唱と犠牲(供物、生贄)の叫びを耳にした。

 カタリナはすぐに広場に行き、神殿の門にいるマクセンティウスを見つけると、彼に言った。


「なぜあなたは、この人たちに偶像に供物を捧げるよう命じるほど愚かなのですか? あなたは、自分に仕える労働者の手で建てたこの神殿を称賛し、これらの装飾品を賞賛していますが、それらはすべて、風が吹けば飛ばされる塵にすぎません。それよりも、空と大地と海と、その中に存在するすべてのものを称賛するべきです。天の装飾品である太陽と月と星と、世界が始まったときから西へ沈み、東へ戻り、決して飽きることなく世界をめぐる惑星を賞賛するべきです。あなたはすべてをよくご覧になって、それらの創造主が誰であるかを問いかけて思い知りなさい。それは私たちの神、すべての宿主たちの主であり、すべての神々の中の神です」


 女よ、と皇帝は答えた。


「我々の犠牲の儀式が終わるまで待て。その後で答えよう」


 皇帝は、この処女の偉大な知恵と繊細な美しさに驚嘆したため、カタリナを宮殿に連れて行き、厳重に監視するように命じた。

 皇帝はエジプトの知識と高等学問に精通した50人の賢者を呼び、彼らが集まると次のように言った。


「狡猾で神経質な女が、私たちの神々は悪魔にすぎないと主張している。私は彼女に犠牲を強いたり、不服従の罰を受けさせることもできたが、私はあなたたちの論争の力で彼女を屈服させた方がいいと判断した。もしあなたたちが彼女に勝利すれば、故郷にとどろくほどの大いなる名誉を与えよう」


 賢者たちは「その女を連れて来てください。彼女がどれほど愚かで無謀かを教えて差し上げましょう。そして、女の口から『今まで叡智を知る人に会ったことがなかった』と言わせてみせましょう」と答えた。


 カタリナは賢者たちと論争することになったと知り、自分がイエス・キリストの福音を立派に弁護できないのではないかと恐れた。しかし、天使が彼女の前に現れて言った。


「私は神から遣わされた大天使、聖ミカエルです。あなたがこの論争で勝利を得て、私たちの主イエス・キリストにふさわしい者となり、彼のために努力する者の希望となり、王冠に値する者となることをあなたに伝えるために遣わされました」


 そして、カタリナは賢者50人と議論した。


 賢者たちが「神が人間になり、悲しみを知ることは不可能だ」と主張すると、カタリナは「イエス・キリストの誕生と受難は、異邦人(ユダヤ人から見たエジプト人)自身が語ったことであり、哲学者プラトンと神官によって予言されていた」と主張した。


 賢者たちは、説得力のある議論に何も反論することができなかった。

 そこで彼らの長老は、皇帝に進言した。


「陛下もご存知の通り、今まで私たちと議論して混乱も沈黙もしなかった者は一人もいません。しかし、神霊が乗り移っているこの娘は、私たちを驚嘆させました。私たちはイエス・キリストについて何も知りませんし、何かを言う勇気もありません。恐れながら申し上げますと、もし皇帝陛下が私たちの神々を支持するために説得力ある議論ができないならば、私たちはみな、キリスト教の改宗を受け入れるでしょう」


 この進言を聞いた皇帝は、怒りに駆られて暴君と化し、町の中心で賢者50人を火あぶりにした。しかし、賢者たちが真実のために苦しんだしるしとして、彼らの衣服も頭髪も火に触れなかった。


 その後、皇帝マクセンティウスはカタリナに言った。


「おお、処女よ、おまえは高貴な家柄の出身であり、皇室の紫衣を身に着ける価値がある。おまえはまだ若いのだから、私たちの神々に供物を捧げよ。同意するならば、おまえは皇后の次の身分として、私の宮殿で地位を得ることができる。おまえの像が町の中央に置かれ、すべての人々が女神のように崇拝するだろう」


 しかし、カタリナは答えた。


「そのようなことを言ってはいけません。考えるだけでも罪です。イエス・キリストは私を花嫁に選びました。彼は私の愛であり、私の栄光であり、私の喜びのすべてです」


 優しい言葉でなだめるのは不可能だと悟った暴君は、恐怖でカタリナを服従させようとした。そのため、皇帝は死をちらつかせて脅した。


 しかし、カタリナの勇気は揺るがなかった。


「イエス・キリストは、ご自分の父に、私のために自分を犠牲として捧げました。彼の名の栄光のために、私は喜んで自分を犠牲として捧げます」


 マクセンティウスは今すぐにカタリナを鞭で打つように命じ、暗い地下牢に放り込むと、食べ物を与えずに放置した。


 その後、マクセンティウスは急用で遠くの地方へ出発した。


 異教徒の皇后は、夢の中で、聖カタリナが素晴らしい光に包まれて現れるのを見た。

 白衣をまとった天使も一緒にいたが、彼ら自身が放つ輝きのために顔を見ることはできなかった。

 カタリナは、皇后に近寄るように言った。

 彼女は付き従う天使のひとりから王冠を受け取り、皇后の頭上に置いて、「ご覧なさい。私の神、私の主であるイエス・キリストの名において、天からあなたに送られた王冠です」と言った。


 皇后の心は、この不思議な夢に悩まされた。

 そこで皇后は、軍の最高司令官である騎士ポルフィリウスの付き添いで、夜が明ける頃にカタリナが監禁されている地下牢に向かった。

 そこでは、鳩が天から食物を運び、天使たちが処女の傷を手当てしていた。

 皇后とポルフィリウスは、地下牢が非常に明るい光に包まれているのを見つけて、大いなる畏怖を感じ、地面にひれ伏した。

 しかし、地下牢は驚くほど甘い香りが充満していたため、それが二人の恐怖をなだめ、勇気を与えた。


 起きなさい、とカタリナは言った。


「恐れることはありません。イエス・キリストがあなたを呼んでいるのですから」


 二人は起き上がり、天使の聖歌隊の中にいるカタリナを見た。

 聖女は天使のうちの一人の手から、黄金のように輝く非常に美しい王冠を受け取り、それを皇后の頭上に置いた。

 この王冠は殉教のしるしであった。

 実際、この女王と騎士ポルフィリウスの名前は、永遠の報酬(因果応報)の書にすでに記されていた。


 皇帝マクセンティウスは帰還すると、カタリナを自分の前に連れて来るよう命じて、「供物を捧げて生きるか、苦悩の中で死ぬか。2つから選べ」と言った。


 カタリナは「私の望みは、私の肉と血をイエス・キリストに捧げることです。彼は私の恋人であり、私の羊飼いであり、私の夫です」と答えた。


 その後、皇帝はアレクサンドリアの司祭(長官)クルサテスに、鋭利な鉄のスパイクを取り付けた四つの車輪を作るよう命じた。この車輪の上で、聖カタリナが惨めで残酷な死を遂げるようにである。


 しかし、天使がその機械を壊した。その破壊力はすさまじく、破片がこなごなに飛び散って多くの異教徒が死亡した。


 塔の上からこの光景を見た皇后は、降りてきて皇帝の残酷さを非難した。

 マクセンティウスは怒り狂い、皇后に生け贄を捧げるよう命じた。皇后が拒否すると、彼女の胸を引き裂いて首を切り落とせと命じた。


 皇后が拷問にかけられている間、カタリナは彼女に励ましの言葉をかけた。


「神に愛された女王よ、行きなさい、喜びなさい。あなたは今日、儚い王国と永遠の帝国を交換し、不実な夫と不滅の恋人を取り替えるのですから」


 皇后は城壁の外に連れて行かれ、処刑された。

 騎士ポルフィリアスは皇后の遺体を運び出し、イエス・キリストの弟子として手厚く葬った。

 そこでマクセンティウスはポルフィリウスを処刑し、遺体を犬に投げ与えた。

 それからカタリナを自分の前に呼び寄つけて、こう言った。


「おまえの魔術によって皇后が殺された。今、悔い改めれば、私の宮殿で第一夫人になる。今日こそ神々に犠牲を捧げよ。さもなければ、おまえの首は切り落とされるだろう」


 カタリナは「あなたの好きなようになさいませ。そうすれば、私は神の子羊を取り囲む乙女たちの一員になれます」と答えた。


 皇帝は斬首を宣告した。アレクサンドリアの町の外にある処刑場に連れて行かれながら、カタリナは天を仰ぎ見て言った。


「イエスよ。信者の希望と救済を、処女の栄光と美しさを、私はあなたに祈ります。私の殉教と引き換えに、死やあらゆる危険の中で、私を呼ぶ者の祈りに耳を傾け、応えてくださるようお願いします」


 すると、天から声が聞こえた。


「来なさい、私の愛する花嫁よ。天の門はあなたに開かれている。そして、あなたの取りなしによって、私を呼ぶ者には、天高きところから助けを与えると約束する」


 斬首された娘の首からは、血ではなく乳が流れた。

 こうして聖カタリナは、11月25日の金曜日に俗世を去り、天上の幸福へと旅立った。[277]

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