2.2 聖マルガリータの伝説
聖マルガリータ(マルグリット)はフランス王国で非常に尊敬されていた。偉大な慈善家で、人々に大きな恩恵を与えていたからである。
彼女は出産中の女性を助け[267]、畑で働く農民を守った。
また、亜麻の糸紡ぎ、乳母の仲介者、羊皮紙の加工業者、羊毛の漂白業者たちの守護聖人だった。
彼女の貴重な遺物は聖遺物箱に納められ、ラバの背に乗せて、聖職者たちによって町や村を練り歩いた。
聖遺物に触れる許可と引き換えに、展示者には多額の施し[268]が与えられた。
ジャンヌは教会で聖マルガリータを何度も見ていた。等身大の絵が描かれ、手に聖水器を持ち、足を竜の頭に乗せていた[269]。
ジャンヌは、当時語られていた聖マルガリータの伝説をよく知っていた。
それは大体、次のような物語だ。
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聖マルガリータ(マルグリット)はアンティオキアで生まれた。
彼女の父テオドシウスは異邦人の司祭だった。
彼女は乳をもらうために里子に出され、密かに洗礼を受けた。
15歳になったある日、乳母の羊の群れを見張っていたところ、総督オリブリウスがマルガリータを見かけ、彼女の並外れた美しさに心を奪われ、強い情熱を抱いた。
そこで彼は召使いたちに次のように命じた。
「あの娘を連れて来るように。もし、彼女が自由民なら結婚し、奴隷なら召使いにする」
マルガリータが連れて来られると、オリブリウスは彼女の出身地、名前、宗教を尋ねた。
彼女は、マルガリータと呼ばれていることとキリスト教徒であることを答えた。
オリブリウスは、「なぜ、あなたのように気高く美しい娘が、磔にされたイエスを崇拝するのか?」とたずねた。
マルガリータが「イエス・キリストは永遠に生きています」と答えたので、総督は怒って彼女を投獄した。
翌日、総督はマルガリータを呼び出し、目の前に連れ出されてくると、「不幸な娘よ、自分の美しさを憐れみ、自分のために改宗して、我々の神々を崇拝しなさい。もしおまえが無分別なことを言い続けるなら、私はおまえの体をバラバラに引き裂いてやる」と脅した。
マルガリータは、「イエスは私のために死を受け入れました。私は喜んでイエスのために死にます」と答えた。
すると、総督はマルガリータを拷問にかけ、木馬に吊るして棒で叩き、鉄の爪で肉を引き裂くように命じた。処女の体からは、澄んだ泉から新鮮な水があふれるように血が流れ出た。
そばにいた人たちは泣き、総督は血を見ないようにマントで顔を覆った。
そしてマルガリータを解放し、牢獄に戻すように命じた。
マルガリータは牢獄で聖霊から試練を課され、「耐えなければならない敵を明らかにしてくださるように」と神に祈った。
すると、巨大な竜が現れて、マルガリータを食らい尽くそうと突進してきたが、彼女が十字の印を切ると竜は姿を消した。
次に、マルガリータを誘惑するために、悪魔が男の姿で現れた。男は彼女に近づき、優しく手を握りながら言った。
「マルガリータ、あなたはよく頑張った。もう十分だ」
しかし、マルガリータは男の髪をつかむと地面に投げ飛ばし、右足を男の頭上に乗せて「高慢な敵よ、震えなさい。あなたは女に足蹴にされている」と叫んだ。
翌日、マルガリータは群衆に取り囲まれながら裁判官の前に連れてこられた。裁判官は、偶像に犠牲(供物)を捧げるよう命じた。
マルガリータが拒否すると、裁判官は松の薪で彼女の体を焼いたが、彼女は痛みを感じているように見えなかった。
この奇跡に驚き、見物している群衆が全員改宗するのではないかと恐れたオリブリウスは、この聖人の首を切るよう命じた。
マルガリータは処刑人に、「兄弟よ、斧を取って私を打ちなさい」と言った。
彼は一撃でマルガリータの首を斬り落とし、聖マルガリータの魂は鳩になって天国へ飛び立った。[270]
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この物語は、歌や神秘劇の中で語られてきた。[271]
非常に有名な話だったので、総督の名前は、皮肉たっぷりに悪口を言われ、嘲笑の対象となり、自慢屋や威張った人によくつけられた。
悪党の真似をする道化役も、オリブリウスと呼ばれた。[272]




