12.3 左岸か右岸か(3)ジャンヌを苛立たせた本当の理由
ジャンヌを苛立たせた本当の理由は、「タルボットとイングランド軍のところに直接連れて行かれなかった」ことだと結論づけていいだろう。
ジャンヌは、タルボットの陣営が右岸にあると聞いたばかりだった。
また、ジャンヌが「タルボットとイングランド軍」について言及するとき、それは「タルボットと共にいるイングランド軍」のみを指していた。
なぜなら、ジャンヌはロワール渓谷に下りてきて、サン=ジャン=ル=ブランの浅瀬にさしかかったとき、大橋の先にあるレ・オーギュスタンやレ・トゥーレルの砦を見たはずで、つまり「左岸にもイングランド軍がいる」ことを知っていたはずだからである。
しかし、それでもまだ疑問が残る。
なぜジャンヌは最初にタルボットとそのイングランド軍の前に姿を見せようとしたのか。なぜ、ロワール川によって彼から隔てられていることにこれほど腹を立てているのか。
ジャンヌは、スケールズ、サフォーク、タルボットが指揮するサン=ローラン=デ=オルジェリルの強固な陣地を、行きがけに簡単に攻撃できるとでも思ったのだろうか?
いや、そんな考えが浮かぶはずがない。
ジャンヌはそれらの位置さえ知らなかったのだから。
また、家畜と荷馬車を擁する輸送隊が、塹壕を備えた強固な陣地に攻撃を仕掛けるなどという気狂いじみた考えをジャンヌに吹き込む兵士もいなかっただろう。
しばしば主張されるように、ジャンヌがサン・プエールの砦と森の外れの間を強行突破することを考えていたとも思えない。ジャンヌは砦のことも森のことも、他の場所と同様にほとんど知らなかったのだから。
もしそのような意図があったなら、ジャンヌはそれをオルレアンの私生児にはっきりと告げただろう。
なぜなら、ジャンヌは自分の考えを明確に伝える術に長けており、教養のある人々でさえジャンヌは上手に話すと思っていたからだ。
それでは、ジャンヌの考えとその真意は何だったのか?
その時、聖女の心の中に何があったかを想像するヒントは、ジャンヌがこれまでどのような言動によって自分の使命を宣言し、準備してきたかを思い出せば、おのずと理解できる。
ジャンヌは、ポワティエの学者たちにこう言った。
「オルレアンの包囲は、私が神の名において降伏するよう呼びかけ、その後、敵は引き上げていき、町は敵から解放されるでしょう」[928]
ジャンヌは「天の王の名において」、つまり神の代理人としてスケールズ、サフォーク、タルボットに包囲を解くよう呼びかけた。ジャンヌは和平を結ぶ用意があると手紙を書き、彼らにイングランドに帰るよう命じた。
そして今、ジャンヌはタルボット、サフォーク、スケールズに返事を求めている。
イングランドは、ジャンヌが派遣した使者を送り返さなかった。
そこで、ジャンヌ自身が神の使者として彼らの指導者のもとへやって来た。
ジャンヌは和平を要求しに来たのであり、もし和平を拒むのであれば、戦う用意があると告げた。
彼らがはっきりと拒否するまで、ジャンヌは結論を確信できなかった。
それは人間的な理由からではなく、ジャンヌの声の評議会がそう約束したからである。
おそらくジャンヌは、聖カタリナ、聖女マルガリータ、大天使ミカエルを従えて、軍旗を手にイングランド軍の隊長たちの前に現れれば、フランスから立ち去るように説得できると考えた。
タルボットがひざまずき、ジャンヌではなく、ジャンヌを遣わした神に従うだろうと信じたのかもしれない。
そうすれば、大切なフランス人の血を一滴も流さず、憐れなイングランド人の体も魂も失うことなく、目的を達成することができる。
いずれにせよ、神に従わなければならず、慈愛を示さなければならない。そのような代償を払ってこそ、勝利を得ることができる。
精神的な勝利、天使のような征服。
ジャンヌはそれを勝ち取るためにやってきたのだ。
しかし今、味方の指導者たちの誤った知恵によって、そのチャンスが奪われようとしている。
ジャンヌからすれば、彼らはジャンヌが使命を果たし、約束したしるしを示すのを妨げた上に,成功の確信もなければ高潔な精神もない戦争にジャンヌを巻き込もうとしていたのである。それゆえに、ジャンヌは悲しみ、怒っていたのだ。
到着時にこうして落胆した後も、ジャンヌは神を喜ばせるために、敵に和平を申し出る義務がなくなったとは考えなかった。[929] タルボットがいる陣営に直行できないのであれば、サン=ジャン=ル=ブランの砦の前まで行き、姿を見せようと考えた。[930]
このとき、砦の柵の向こうには誰もいなかったが、もしジャンヌがそこへ行って敵がいるのを見つけたら、まず和平を申し入れただろう。このことは、その後、ジャンヌのオルレアンの城壁内での行動が明確に証明している。
オルレアン解放におけるジャンヌの使命は、町を防衛する作戦計画や戦略を授けることではない。それよりももっと天高く、尊いものだ。
苦しんでいる人々、弱く、不幸で、我欲に囚われている人々に、愛と信仰という不滅の力と、犠牲の美徳をもたらしたのである。
「オルレアンの私生児」卿は、ジャンヌの使命とは純粋に宗教的なものだと考えていたため、軍事的な問題についてこの農民の少女に相談すべきだと言われたら非常に驚いただろう。したがって、ジャンヌが行軍ルートについて辛辣に非難したことが理解できない様子だった。[931]
その後、彼は、自分が立てた計画に従って作戦が実行されるのを見届けるために去っていった。




