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0.01秒の距離  作者: 桜田門外
1年生編
3/3

追う背中

あの記録会から数日たった。

まだ流石にこの練習密度には慣れない。


総凌の練習は基本的に1年生と2年生がペアとなって二人三脚で練習していく形だ。

その中でも茶南先輩と庵原先輩は例外でずっと2人でやっているらしい。


そういう俺も1走候補つながりということで久我先輩と練習させてもらってる。


うちの高校の練習目標は「自分で考える」らしく、よく監督にこの練習の意味はなんだと思う?といきなり聞かれることが多い。


今日も朝イチのジョグアップから始まった。

久我先輩とドリルやスタート練習をこなし、そのままリレー練習に入る。


「全体的に動きが固い」


久我先輩にはこう注意されてしまう。具体的にどうすればいいのかはさっぱり分からないが、この人も口下手なので多分あまり説明しきれていないのだろう。


「まだ負けねぇよ、かずき」


「それ去年も聞いたわ」


あれは一輝と柊木先輩か?そういえばあの二人も2走繋がりでペアだったか。


「おいしゅんちゃん聞いてよ!らぎくんがさ俺より速いとかいうわけ!」


「白井くんこいつの話は聞かなかったことにしてもいいぞ」


この2人はすごい仲良いな。なんか羨ましいかも、と思っていたら柊木先輩が突然耳打ちをしてきた。


「久我先輩は初めましてだと緊張しちゃうからあんま喋んないだけだ。気にしなくてもいい」


「了解です」


何も喋らずにこっちを見ている久我さんを他所にこんな会話をしていた俺たちの元にあの二人が駆け寄ってきた。


「ごめんごめん!遅れたわ!こういっちゃんがストレッチ長くてさ〜」


笑顔で茶南先輩が庵原先輩の肩を持っている。


「お前が女子と無駄話してたからだろ」


全員揃ったのを確認したのか、そんな話に笑いながら相槌を打っていた俺たちのところに監督が来た。


「始める。久我-柊木のバトンと白井-中村のバトンをとりあえず見る。そのあとに庵原-茶南のバトンを見るぞ 準備」


「「「「「「はい!!」」」」」」


そうして始まった初めてのリレー練習。

監督の合図で久我先輩が走り出す。久我さんはなんか、音を出さずに走るタイプだな。


そんなことを思っているうちにバトン区間まで来た。

柊木先輩の出るタイミングは完璧。


「はい!」


久我先輩が合図の声を出し、柊木先輩が手を出す。それは一瞬で行われた。


「・・・うっまいな」


一輝も同じことを思ったのだろう。同じ考えが声に出ていた。


次は、俺と一輝だ。


「とりま20歩でやってみるねん」


一輝が確認をしてきた。出るタイミングの歩幅の話だろう。


「分かった」


俺が走り出し、コーナーを抜ける直前、一輝が前に出る。

フォームは相変わらず大きいし力感もある。


――速い。やっぱり。


俺は後ろで、呼吸を合わせる。

視線は一輝の背中だけ


「……はい!」


声に反応して、手を出す。

バトンはちゃんと収まった。


流れも悪くない。

失速もしていない。


でも。

確かな違和感があった。

――少し、ズレたか?


ほんの一瞬のミス。

致命傷でもない。

でも、完璧でもない。


バトン区間を抜けてだんだん減速する。


「どうだった?」


一輝が振り返って聞く。


「悪くはない」


俺はそう答えた。

悪くはない、本当にそれだけなのだ


「だな」


一輝もそれ以上何も言わなかった。


久我先輩が俺たちを見て一言。


「悪くないな」


一泊おいて。


「でも、まだだな」


それだけだった。



「最後、庵原と茶南」


二人は何も言わない。茶南先輩が黙ってるなんて珍しい。


軽く位置を確認して、それぞれ立った。


「おーねがーいしまーす!!」

茶南が叫ぶ。


それを合図としてか、庵原が走り出す。


やはり走りは安定している。軸が全くぶれていない。


バトン区間。


茶南先輩は走り出す。



――いつ渡すんだ?


そう思った瞬間。

もう茶南がバトンを持っていた。


「……今の、いつ渡した?」


一輝が言った。


分からなかった。

見えなかった。


でも確実に繋がっていた。

まるで茶南が元々バトンを持っていたかのように。


茶南は少し減速して、こちらに振り返る。


「よぉーし!!!」

叫んだ。

いつも通りの軽い顔で。


庵原先輩は何も言わずに水を飲んでいた。


俺と一輝のバトンパスは『出来ている・渡せている』だけだった。


庵原先輩と茶南先輩のバトンパスは『速さそのもの』だった。


――まだ、遠いな。


俺は今日のバトンパス練習の動画を見返している久我先輩と柊木先輩を少し遠くから見つめた。


追うべき背中ははっきりと見えた。


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