ハジマリ
近年、日本の短距離界は目まぐるしい成長を遂げている。
これは「日本人短距離選手として世界で勝負する」 今では夢ではなくなってきた目標を掲げる学生たちの勝負のお話だ。
県立総凌高校陸上部。
この学校は元々、私立強豪の散らばる静岡では全国どころか東海大会に出場する選手すらほとんど居ない。大会での存在感もあまりないような学校だった。
2年前に入ったある先輩の功績から有名になった?らしい。
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それは、入学式の最中に見た夢だった。
いや、夢というより、何度も頭の中で走らせた100mだった。
スタートの号砲は、いつも夢の中で鳴る。
反応は悪くない。
むしろ、いい。
身体が勝手に前へ出る感覚がある。
最初の10mで、一気に視界が開ける。
――行ける。
そう思った瞬間、決まって夢は終わる。
「……――りまして。
そして最後に、私は校長として――」
体育館に響く声で、白井は目を覚ました。
どうやら、入学式の最中にうたた寝をしていたらしい。
周囲を見渡すと、同じ制服を着た新入生が、きちんと前を向いて座っている。
誰も、夢の続きを見てはいない。
「最悪だな……」
小さく呟いて、背筋を伸ばした。
星香中学校三年、白井瞬。
その名前を聞いても市内ですら俺だとわかる人は少ない。
中学三年の夏、
俺はあのスタートラインに立てなかった。
二年の春までは、悪くなかった。
県大会の予選を、普通に抜けられるくらいには速かった。
スタートと、加速だけなら、負ける気もしなかった。
――全中、行けるかもしれない。
そんなことを考え始めた頃、脚をやった。
走れない時間は長く、戻ってきたときには、季節が変わっていた。
どれだけ練習しても、
時間だけは、巻き戻せなかった。
中学校の最終成績は、100/200。どちらも全国に行くまで0.1秒ほど足りなかった。
高校進学を決める時、推薦の話はあまり来なかった。
元々勉強ができる方ではなかったし、怪我してからはさらに陸上に力を入れたからだと思う。
来てもB特待。本当に来て欲しいという雰囲気ではなかった。
でも、唯一俺のことをA特待として評価してくれた学校。
総凌高校だ。
推薦があると聞き、行くことにした部活動体験
その時に俺のことをじっと見ていた男に話しかけられた。総凌の監督らしい。
「白井 お前がうちに来るなら1年でインターハイに出られる」
俺はその一言を信じてここに来た。
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入学式も高校初のホームルームも無事終わった。
この季節なのだから桜があってもいいとは思うけど、この学校には生憎生えていない。ということはもちろん桜が散るといういい雰囲気で初部活に行けることもない。
楽しくなさそうな顔で窓の外を見てたら突然机を叩かれた。
「シュンちゃーんはやく部活行こうよ!」
俺より一回りくらいでかくてセンター分けマッシュのこのデカブツ。こいつは中村一輝。こいつはうちの県で100m全中に出た3人のうちの1人。なんで総凌に来たかもわかんない全体的によくわかんないやつだ。去年までは他校で今年は同じクラスだからすごい違和感がある。
「もう行っていいのか?これ」
「俺はとてもいいと思う」
馬鹿な会話を交わしてから俺たちは部室に向かうことにした。
次回「初部活」




