08. オードの提案
「イガラマ街。そこでは盗品ほか、いわくつきの品々が、商店街の裏側の闇で取引されているという……」
独り言のように、宙を見上げてオードはつぶやいた。やがて視線を食卓脇のオルスカに戻す。
「……それでは。その怪しげな盗人どものねぐらに、実際行ってみようかと思うが。どうかね? オルスカ、一緒に来るかい」
「えっ?」
見上げるオルスカの前で、オードは微笑をたたえていた。
「オルスカ。わたしは資産家の夫をなくした未亡人だ。一応仕事はしているけれど、それとはまた別に、きみという人を助けたいと心から思っている。ここの屋敷は安全だから、長く滞在してくれていい。ほとぼりが冷めた頃に、きみの故郷か……あるいは遠方に、送ってあげることもできるよ」
確かにオルスカは、ジルゼリー邸の女中室に遺書を残していた。
今ごろ誰かがそれを見つけて、彼女が死んだと騒ぎ始めているかもしれない。身投げした河から死体が上がらなくても、≪オルスカという真犯人が死んだ≫ということを、皆が信じれば。
――つまりこの事件は、ゼファンに有利な形で終結するんだわ!
「そう。きみが……オルスカが、本当に死んでしまう必要はないんだ」
オルスカの心を読んだかのように、オードは言った。
その言葉は耳に快かった……死ななくても、いい。
しかし、とオルスカは首を振る。
「それでもわたしは、ゼファンに命をささげたのだから」
ぎゅうっ、と目のふちが熱く疼きかける。オルスカは大きく息を吸った。
死ななくてもいい……。生きていても、いい。
けれどそれは、ゼファン・ジルゼリーのいない人生を過ごすということだ。すべてを賭けて信じた男性のいない人生……そこに一体、どんな意味があるのだろうとオルスカは思う。
――冗談じゃないわ。わたしはゼファンの心の中に、永遠に住む女になったんじゃないの……!
決意をあらたにしたオルスカが目を見開くと、オードがまた渋い顔をしている。
「まあ、オルスカの人生であり命だからね。知り合ったばかりのわたしが、どうこう言うことはできない……。しかし、だ。いろいろと腑に落ちないことばかりなのだよ? だからそれについて本当のことを理解して、わたしが納得するまででいい。ジルゼリー卿に命をささげてしまうのは、お預けにしてもらえないだろうか」
「腑に落ちないことって、何です?」
「うん、例えば本物の≪ネザヤ玻璃の青皿≫十枚めの行方だよ。証拠隠滅のためジルゼリー卿が粉々にくだいて、ごみに捨ててしまっていたら。これはぜひとも、皿供養をしてやらねばなるまい。それがネザヤ推しの母の娘である、わたしの使命だろうな」
――皿供養……? 何なのそれ、聞いたこともない。むちゃくちゃを言ってるわ!
オードを見上げるオルスカは、つい白い目になる。それに気づいたオードは肩をすくめ、ふふっと笑った。
「まあ、その辺の細かい事情を調べたいんだよ。なに、きみはついて来るだけでいいんだ。知っている人に見られて気づかれないよう、ちょっと変装をしてだね……。さあ、出かけようか。オルスカ?」




