表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

07. ≪ネザヤ玻璃の青皿≫とは

「わたしはゼファンのために、すべてを捨てるんです。……彼に恋をして、わたしは幸せだから」



 ふ~……!!


 ものすごく真剣に言ったオルスカの言葉に、オードは盛大なため息をついた。


 その表情が……なんだかしょぼついている。眉間にしわを寄せて、唇をすぼめて。


 オードの様子を見て、オルスカの胸中に反発が湧いた。



――なによッ!



「……いくつか、細かいことを聞こう。オルスカ、ジルゼリー卿は割れたお皿を自宅に持ち帰ってきたの? すり替えたという複製品は、はじめにきみが言ったように、ジルゼリー邸にあったものなのかな」


「え? ……いいえ、」



 馬鹿なことを言うもんじゃない、小娘が恋を語るな! ……そんな風に小言を言われるのだと思って、身構えていたのに。オルスカはオードの意外な質問に、少々面食らう。



「ゼファンは……。ジルゼリー様は、実際には≪ネザヤ玻璃はりの青皿≫を、お屋敷に持って帰りませんでした。別の宝品を自宅で修復する、ということは時々あったようですけれど」



 ジルゼリー卿の工房兼書斎や寝室を清掃するのは、男性執事の役目だった。自分は共用部分の掃除と洗濯、炊事手伝いを担当していたと告げるオルスカに、オードはこくこくとうなづく。



「筋書きの中で、ジルゼリー卿は修復作業のため自宅に国宝を持ち帰り、そこでオルスカがすり替えたという話になっているけれど……」



 明るい褐色の瞳を光らせながら、オードはゆっくり確かめるように言った。



「ジルゼリー卿はきみにお皿を見せて、こんなことになってしまったー、と説明したわけではないのだね?」


「そうです」


「オルスカは、問題のお皿を見ていない。つまり、全然知らない」



 音なく静かに、オードは立ち上がる。食器棚の戸を開けて、そこから皿を一枚取り出した。



「だからさっき、このお皿に盛られた卵やぱん、果物を見ても、別に何とも思わなかったろう?」


「……は?」



 オードは一枚の皿を両手に支えて、オルスカを見下ろしていた。


 それは確かに、先ほど朝ごはんがのっていた皿……。


 ごく淡い、水色無地の軽い平皿だ。



「実はこれも、ネザヤ玻璃はりなんだな」


「……!」



 オルスカは目を丸くした。


 ≪青皿≫と言うからには、夏の朝の空みたいに濃い青だろうと想像していたのに。こんなぼんやりした水色だったなんて!?


 オードの背後、食器棚の中には、同じ薄い水色の皿が大小いくつも重ねられている。



「わたしの母が、筋金入りのネザヤ好きでね。特別公開展の機会に、見に行ったことがある。国宝≪ネザヤ玻璃はりの青皿≫十枚組のすがたも、はっきりおぼえているよ……。この量産品と違って、内側ふちのところに金の文様装飾がたくさん入っていた」



 かたん。軽い音をたてて、オードは皿をしまった。



「……盗んだ、ということにするのであれば。国宝≪ネザヤ玻璃はりの青皿≫がどんなものなのか、オルスカは実物を詳しく見ておく必要があった、と思う。しかしジルゼリー卿は、きみに壊れたお皿を見せなかった。屋敷にあったという複製品も、やはり見せられたことはなかったんだろう?」


「それは、重要なことなんですか?」



 オルスカは罪をかぶって、どうせ水死してしまうはずだったのだ。身体が見つかったとしても死人に口なし、盗品についてはっきり知らなくても別に支障はないのに。オードの言い方を、オルスカはいぶかしく思った。



「いや、全然どうでもいいことなのかもしれないよね。ジルゼリー卿が、割れてしまった国宝をどう処分したのか、だなんて」


「……」


「それと。イガラマ街に盗品を買い取る悪徳業者がいる、と言ったね。それは、どういう筋で知ったんだい?」



 平坦なるオードの問いに、オルスカは言葉を詰まらせた。



「……よく聞く話じゃないですか。どろぼう達の巣窟があって、裏で闇の取引があって、外国へ流れていくって……みんな言っています」


「ふむ。みんな知っている話、か」



 オードの言葉に、非難めいた響きはない。


 しかしオルスカは自分自身の弁解の中に、小さな針のようなちくちくした痛みを感じていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ