06. 国宝盗難、真犯人オルスカ
「きみが……。オルスカが、≪ネザヤ玻璃の青皿≫を盗んだ??」
明るい褐色の瞳をまるく見開いて、オードはオルスカを見る。
オルスカはくっとうなづくと、平静を装ってことの次第を述べた。
「そうです。ジルゼリー様のお屋敷にはそのお皿の複製品があって、時々客間の飾りに使われていることを、わたしは知っていました。ですから旦那様のすきをついて、木箱の中の本物とすり替えたんです。イガラマ街には盗品でも高く買い取ってくれる闇業者がいますから、すぐに持っていきました。でも、たったの二百にしかならなくって……。それで、なあんだとがっかりしていたんです」
両手で頬杖をつき、興味津々といった様子で、オードはうなづいている。
「でも、すり替わったお皿のことが明るみに出て、騒ぎが大きくなっていくうちに。自分のしたことの恐ろしさが、どんどん身にしみてわかってきたんです。ですから旦那様におわびの遺書を書いて、それであの大橋からとび降りることにしました」
「なるほど、そういう筋書きだったのか。発案者は、やはりジルゼリー卿かな?」
「……」
「ジルゼリー卿のへまを、何でまたオルスカが穴埋めすることになったんだ?」
「あの人は、へまなんかしていません。元々のお皿が、ひび割れていただけ。ゼファンじゃなくても、誰が触っても、割れちゃったはずだわ。ゼファンは、運が悪かっただけ」
最後はどうしても、ふてくされた顔つきと口調になってしまったが……。オルスカはオードに、真実を伝えた。
宝務省内での修復作業中、ゼファン・ジルゼリー卿は件の皿を割ってしまったのである。
もちろんわざとではない。手荒に扱ってもいない。しかし古い時代の芸術的工芸品は、どうしてなのだかジルゼリー卿が木箱を開けた時に……。その絹手袋の手の中で、ぱきっとふたつに割れてしまったのだ。
若きジルゼリー卿は戦慄し、手中の割れ皿と同様に青ざめた。
他の物だったら、周囲の職員に言えたかもしれない。しかし壊れたのは国宝、よりによって≪ネザヤ玻璃の青皿≫である。果たして事故と言って通じるだろうか。重大過失の咎はどうしたって免れない、ジルゼリー卿はそう確信した。
とりあえずジルゼリー卿は、自宅にあった青皿の複製品を持ってきてすり替える。しかしその日から食事が喉を通らなくなってしまった。
誰にも相談できずにやつれていたのを、オルスカだけが察し案じ……意を決して声をかける。それまでに、ゆっくりと恋を育みつつあった二人だった。好意という名の絆を信じて、涙をにじませながら、ジルゼリー卿はオルスカに自分の窮地を打ち明けたのである。
「その後は二人で話し合って、わたしがすり替えたことにしよう、と決めました。性悪の女中が出来心で盗んだことにすれば、ジルゼリー様はだまされていた側、被害者でいられますから」
「……なんてことだ。何もしていないオルスカの名誉が、丸つぶれになってしまう」
「つぶれる名誉なんて、もともと持っていないんです」
「出稼ぎで市に出てきたのだろう? 故郷に残る家族に風評がおよぶぞ」
「数年前から母は狂心してしまって、わたしのことを憶えていないんです。でも今いる施設で安らかに余生を送れるよう、ジルゼリー様が取り計らってくれると約束しましたから」
「だからって。そんな皿一枚のために、若く美しくあほうで気丈なきみが、人生を台無しにして良いわけがないだろうが」
「お皿のためじゃありません。わたしはゼファンのために、すべてを捨てるんです。……彼に恋をして、わたしは幸せだから」




