05. 国宝青皿が、一枚足りない
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「ふーむ! じゃあきみは疑惑のジルゼリー卿の屋敷の、お女中だったわけだね! オルスカ」
再び戻った暖かい台所で、湯のみ片手にオードは言った。
「……今も、そうですけど。生きているわけだから」
「うん、それはそうだね。それで、雇い主に自死を強要されたと?」
「違います。全部わたしの意思で、そうすることに決めたんです。どなたにも、無理強いなんかされていません」
さっき取り乱して泣いてしまった分を取り繕おうとして、オルスカは極力しかつめらしく答えていた。勤め先で常にそうしていたように。
「けれどきみは、大切なひとのために命を捨てるつもりだった。……このジルゼリー卿はいったい、オルスカの死によって、何を得る予定だったんだ?」
ぺらり、と食卓の上の朝刊をめくり上げて、オードは問うた。
「ジルゼリー卿、と見出しの題を見て動揺したところをみると。オルスカ、きみの想い人はこの宝務省長官なのではないかな?」
「……そうです」
この人、オードは全てわかっていながら、わざととんちんかんにぶれた質問を発しているのではないか。オルスカは胸のうちでそう勘ぐっていたけれど、唇をかみしめて答える。
「一年前に雇用された時から、旦那様には本当によくしていただきました。素晴らしい方から受けたご恩に、わたしが報いたいと勝手に思っただけです。あの方の危機を、どうしても救いたかったから」
「そのジルゼリー卿の窮地については、わたしも知っている。と言うより、市民のほぼ全員が知っているだろうけどね」
オードは視線を落として、朝刊の筆頭記事を眺める。
宝務省……。王宮内の貴重品、骨董財産を管理する部署にて、つい五日前に不祥事が発生した。
十枚組の国宝、≪ネザヤ玻璃の青皿≫が一枚欠けて九枚となっているのを、職員が発見したのである。
前々王が作らせたこの美しい玻璃皿は、王の戴冠式においてのみ、宮中正餐に用いられると言う。値段のつけられない至高の工芸品だった。そのうち一枚が、よくできた偽物にすり替わっていたのだ。
「什器類宝物の担当責任者であるジルゼリー卿が、当然のごとく罪を問われている。盗難の場合、監督不行き届きだったと」
そしてジルゼリー卿には、実に不利な点があった。
職員が青皿のすり替わりを発見する、ほんの少し前。なんとジルゼリー卿は、自宅屋敷に国宝を持ち帰っていたのである!
≪ジルゼリー卿は、自宅にて修復を行うと言う名目で書類を作成しました。持ち出し記録には他の皿の銘が記されていますが、あれは絶対に≪ネザヤ玻璃の青皿≫十枚目だったのだと思います!≫
そう告発したのは、宝務省内で働く修復職人だった。彼の糾弾は、たちどころに新聞記者に聞き取られて広まる。
ジルゼリー卿が青皿を持ち帰ったその前後に、盗難が起きた。
むしろ、卿自身が皿をすり替えたのではないか? ……横領するために!
「……と言うことだけど。なんせジルゼリー卿は宝務省のおえらい様だから、当局もなかなか思い切った捜査ができずにいるようだね」
オードの言葉に、オルスカはこくりとうなづいた。
――でもそれも、時間の問題。じきにお屋敷にも、公安の手が入り込んでくる……!
「けれど。それは全くの、おかど違いなんです。旦那様は、何も悪いことなんかしていません」
どきどきどき、と自分の胸中で鼓動が速くなるのをオルスカは感じていた。
「ふむ、おかど違い?」
「はい。と言うのも、その宝物のお皿を盗み、まがいものと入れ替えたのは、このわたしなんですから」




