04. 若く美しくあほうなきみの涙
「なぜ泣くんだ、オルスカ?」
「……あなたの、せいよ!!」
きっと顔を上げて、オルスカはオードをにらみつけた。
「あなたが邪魔をしなければ! 今頃わたしの大切な人は、人生最大の危機を逃れて、幸せになれたはずだったのに……」
ぼろぼろ熱い涙をこぼし、今度は怒りにぶるぶると震えながら、オルスカは叫ぶようにして言った。
「あなたがわたしと、彼の未来を台無しにしたのよ!」
「……きみは。大切なひとのために死ぬつもりで、大橋から身を投げようとしていたの?」
「そうよっ」
オードの問い方は静かだった。あふれ出した嗚咽を噛むようにして、オルスカは答える。
「せっかく覚悟を決めていたのに。これじゃあ計画がめちゃくちゃだわ! どうしてくれるのよ。どうしてっ……」
うわあああーん!!
本当にもう、どうしたらいいのか途方に暮れて、オルスカはとうとう声を上げ泣き出してしまった。
玄関扉の前に突っ立ったまま、こどもみたいに両手を小さな顔に押し当てて。
「……そうか、それはすまなかった。わたしとしてはただ単に、若く美しくあほうなきみを死なせるのがもったいなくって、助けただけなのだけど」
「あほうって、何ーッッッ」
完全ぶち切れ状態のオルスカは、食ってかかった。オードが貴族だろうがお化けだろうが何だろうが、もう構うものか!
「うむ、おそらくはオルスカの魅力のひとつだろうね。まぁきみの計画を台無しにした、と言うのなら申し訳ない。わたしもひとつ、その立て直しを手伝おう」
ほがっ!
いきなり顔にかぶさってきた、大判の手巾にふかふかと拭かれて、オルスカは面食らう。
オードが、それこそ子どもの顔をぬぐうようにして、オルスカの涙を拭いたのだ。
「……だからだね、とりあえず純なる涙とはな水をふいて。わたしにことの顛末を、ぜんぶ話してみなさい。オルスカ」
オルスカは反発しようとして、……できなかった。
布ごしにきゅいっと小鼻をつまんできた指先が、ずっと前に亡くなった祖母とそっくり同じだったのである。なつかしい手巾の使い方で涙を拭かれて、その厚い布地のむこうに祖母がいるような……。一瞬そんな錯覚を、オルスカはいだいてしまったのだ。
この数日間、オルスカは何度も思い返した。無駄だとわかってはいたけれど、もし祖母が今も故郷に生きていれば……。自分の背負う難題について、相談できたかもしれない。もういない祖母に、助けてと心の中で叫んでいたのだ。
「……あなたがどこの誰なのかも、わたしは知らないのに?」
上目づかいににらむオルスカに、オードは笑った。
「そういう赤の他人の方が、案外たやすく問題を解決できたりするね。客観的な視点の恩恵かな?」




