02. 生きて迎える朝の陽光
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「……」
やわらかい朝日。顔の上に触れたその温かさに、オルスカは目を覚ました。
のろのろとまぶたをこじ開け、もぞりと身体を震わせる。ふかふか、もわもわ……。ずいぶんと気持ちのよい寝床の中に、オルスカはいた。
――朝日? わたしはもう、二度と陽の光を見ないはずではなかったの?
もしゃもしゃに爆発した巻き毛をかき分けつつ、ゆっくりと起き上がってみる。
「……」
質素な毛織の短衣と巻き裳は、自分のものだ。しかし上にかかった分厚い毛布の外に出ると、そこは富裕者の寝室である。
「えっ?」
窓には白い麗糸の透かし布。室の隅に置かれた文机も、椅子も飾り棚も、すべてがつやつや光る上質の栗木材だ。壁のしっくいは新しいし、床板すらぴかぴかしている。上流貴族の在所にしか見えない。
「なに……何なの。これ」
おろおろとうろたえて、オルスカは寝台を降りた。そこにそろえてあった自分の革靴に足を入れる。
重い頭を振って、何があったのかを必死に思い出そうと試みた。
――もしかして……。入水が失敗して、河から引き揚げられた? じゃあここは、診療所なのかしら。ううん、公安の留置所なのかもしれないわ。……って、そんなわけないでしょ! こんなに豪華な牢屋があるわけないもの!
見回すと、オルスカの褪めた苔色の外套は飾り棚の脇かぎにかけられていた。それを手に取って羽織り、オルスカはきらりと輝く真鍮製の扉の取っ手を引く。
――ともかく。こんな場違いなところに、ぐずぐずしてはいられないわ。何とかして、別の手段で死ななくっちゃ……!
「やあ、おはよう」
「きゃあ、ひゃああっ!?」
開いた途端、扉の向こうに立っていた人物から声をかけられて、思わずオルスカは後ろによろけた。
どすん! 尻もちをついてしまう。
「なんだ何だ、ひとをお化けでも見たみたいにー」
背の高い女は、笑いながら手を差しのべて、ひょいとオルスカを引っぱり起こした。
「す、すみません……」
まごまごとして、オルスカはとにかく詫びる。
「そろそろ起きた頃かと、様子を見に来たのだよ。調子はどうだね、どこか痛いところはないかい?」
「ええっと。あのう、……」
小柄なオルスカは、狼狽したままこめかみに手をやった……頭が重い。
目の前にいる背の高い女性を見上げていると、首筋も痛くなってくる。
濃い金髪をひっつめた化粧っ気のない女は、高いところで褐色の眼を細めた。
「はあ、頭が痛いのか。軽い脱水症状だね。一緒にきて、朝食をたべなさい」
言うなり、背の高い女はさらっと身をひるがえす。
男ものらしい、長い紺色の室衣の裾をなびかせて、長い廊下をすたすた歩いて行きかける。
「こっちだよ。おいで」
くるりと振り向いてそう言われては、オルスカはもう、どこにも逃げられそうにない。
背が高く年上で、お金持ちらしくて、かなり権威のありそうなこの上流貴族女性( おそらく)……。
見るからに怖そうな女に、オルスカはとぼとぼとついていくしかできなかった。




