10. オードの捜査開始
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あまりよく整備されていない、がたがたした石だたみの上で、馬車はゆっくりと止まる。
「さあ、行こう。オルスカ」
オードはすらっと外に出て、オルスカに片手を差しのべた。その手を手袋ごしに握り、何気なく下りたが……。
そこは灰色の建物の立ち並ぶ、なんだか殺風景な場所である。人の往来が多いから、事務所が集まる地域なのだろうか。商店街のにぎやかさはなくて、通行人らも皆、せかせかと急いでいるらしい。
オードは御者台の老人に何ごとかを囁き、うなづき合ってからオルスカを見る。
「こちらだよ。オルスカ」
かっつかっつかっつ……。
背筋をのばし紺色外套の裾をはためかせ、男性のように革靴底の音をかたく響かせて歩くオード。
今は外套と同色のつば広帽子をかぶっていたから、きちんと結った金髪はかくれている。腰まわりの細さが見えなければ、紳士ともとれる後ろ姿だった。
ほんの少しおくれて、オルスカはオードの脇を行く。歩きつつ、頭にかぶせ巻いた布のふちから不信感をもってオードを、そして周囲の界隈を見ていた。
――ここはどこなのかしら? やたら自信のある足どりだけど……この人。土地勘もあって、慣れている感じね。
似たような事務所の建物が並ぶあたりで、オードはかつかつした足音を止める。
≪カシュリアン商会≫と目立たぬ地味な看板の下がった扉を、オードは自然な動作でぐいっと押した。どこにでもあるような商社事務所……玄関の向こうは、小さな受付台であるらしい。
「ごめんくださーい」
奥に向かって声をかけるオードの背後、かくれるようにして続いたオルスカの視界に、小柄な中年男性の姿が入ってきた。
「おや、久しぶりですな。いらっしゃい」
極小のめがねをかけた、しわしわ灰色髪のおじさんである。
「何か、うまい話でも仕入れましたか。オードさん?」
「いえ、うまい話が欲しいのはわたしの方。……最近、ちまたで話題になっているでしょう? ジルゼリー卿の事件に、わたしの好きなお皿が登場しているものだから。気になってしまいましてね」
「ああ。≪ネザヤ玻璃の青皿≫ですか」
「ひょっとして行方不明の十枚めが、例の界隈で売り出された、なんてことはないでしょうか?」
オードの後ろに突っ立ったまま、オルスカはぽかんとした。
――それって、かなり重要な問いのはずなのに……!
オードは道案内でも乞うくらいに、あまりに軽々しく質問している。第一この男性は何者なのだろうかと、オルスカはいぶかしんだ。
「ははっ。それがあったら、あの宝務省長官の免職記事が、けさの朝刊にでかでか載っていたろうよ」
「なっ……」
肩をすくめて皮肉っぽく笑った男性を、ついオルスカはきつくにらみつけてしまった。
※予定調整の都合により、次回・第11エピソードは3月5日(木)昼の更新となります。




