みじかい小説 / 041 / アシュリーと翔太
日本では、11月の土日に七五三というイベントがあるのだそうだ。
夫の翔太からそれを聞かされてウェブで調べてみたところ、小さい子が華やかな着物に身を包んでいるかわいらしい写真がたくさんあがってきた。
「ファンタスティック!」
私は思わず小さな叫び声をあげていた。
「何がファンタスティックだって?」
私の声を聞きつけて翔太がやってきた。
「だってこの写真、とってもかわいいんだもの。ねぇ、エマの七五三もしましょうよ。ちょうど三歳だもの」
そう言って、私は居間で寝ている娘のエマに目をやる。
彼女はブランケットにくるまっていい夢でも見ているに違いない。
赤くふくらんだほっぺによだれが垂れて光っている。
「でもなぁ。アシュリー、君一応クリスチャンだよね?」
翔太が尋ねる。
「あら、今年の初もうでの時に翔太、言ってたじゃない。日本の神道は他の宗教に入ってても大丈夫なくらいおおらかなんだって」
私はそう言って口を尖らせる。
「ええ?確かにそうだけど、俺、そんなこと言ったか?」
「言った言った。その割には日本人って神経質な人多いよねっていう話もした」
「それも間違っちゃいないけど、えー、覚えてないや」
翔太は笑うと八重歯が出る。
私は翔太の八重歯が好きだ。
前の夫のように暴力を振るわないのもいい。
「私、日本に染まりたいの」
私は真面目な顔をして言ってみる。
「それはうれしいけど、あんまり前のめりになるなよ、続かないから」
「『前のめり』って何?」
知らない単語が出てきたので、私はすかさずいつもの手帳を取り出してメモする。
「積極的ってこと」
「あら、じゃあ私は前のめりで翔太のことを愛してるわ」
翔太が失笑する。
「そうは言わない」
「なんで言わないの?」
困る翔太をいじめるように、私はなおもしつこく尋ねるのだった。
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