竜の護人
カイン・アルバは『竜殺し(ドラゴンバスター)』である。
自らギルドへ赴いては、ドラゴン討伐依頼だけを受注してゆき、一週間から一か月かけてドラゴンを討伐し、大量の素材を荷馬車に積んで戻ってくる。それを生業としている戦士だった。
彼の振るう得物は、ドラゴンを殺すことに特化した大剣である。堅牢な鱗を突き貫くための鋭利な刃、その鋭利な爪と牙を削ぐための糸鋸状の刃、屈強な首を落とすための斧のような刃。部位によって厚さ、鋭さ、重さ、形状が異なるそれは、ただドラゴンを確実に屠るために鍛えられた武具である。
その大剣を背負いながら、今日もカインは、ドラゴンを殺すために切り立った渓谷を訪れていた。
空を見れば、そこには小型の飛竜が数体、じゃれ合うように飛んでいた。
……やつらも殺すのは明白として、しかしカインの目的はそんな小物ではなかった。
『ヴォルカノス』――今回の討伐対象であり、カインにとっては、最も忌むべき仇敵だった。
以前、受付嬢に尋ねられたことがある。
「カインさんって、いつもドラゴン討伐の依頼ばかり受けますよね。なにか理由でもあるんですか?」
「……ドラゴンは悪だ。」
カインはジョッキ片手に、揺るがぬ瞳孔でそう告げる。
一口でジョッキを煽ると、カインは言葉を続けた。
「奴らは田畑を荒らし、山を焼き、人里を滅ぼし、人間を貪る……この世にドラゴンがいる限り、俺たち人間に平穏はない。」
そう語りながら、カインは目を細めた。
カインの脳裏には、かつて存在した故郷の、最後の憧憬が映し出されていた。轟々と燃え揺る家々、獰猛な牙と爪で切り裂かれ、食い千切られる人々。……その惨劇の中で、ドラゴンのブレスによって跡形もなく蒸発した両親と妹。
唯一生き残ったカインの脳裏には、あの時の光景が焼き付いて離れないのだ。
「ドラゴンは悪だ。故に俺は、奴らを滅ぼさなくてはならない。……あんな惨劇は、二度と起きるべきではない。」
惨劇?と首を傾ける受付嬢に「知らなくていい事だ。」とだけ告げると、再びジョッキに口をつけた。
ドラゴンに対する憎しみの心は消えやしない。むしろ長い歳月をかけて、燻っていくばかりである。
故にカインは、今日もドラゴンを殺す。
ある日の事だった。
ドラゴンの討伐依頼を終え、剝ぎ取った素材を換金したカインは、次なる討伐依頼を求めてギルドへ足を運んだ。
討伐依頼は、ギルド受付横のコルクボードに張り出されている。今日も今日とて、ドラゴンの討伐を請け負おうとしたカインだったが――無数に張り出されている依頼書の一つに目が留まり、心臓が一瞬止まった。過剰に力を込めた握り拳から、血が伝う。
“岩炎竜ヴォルカノスの討伐”
「--――ヴォルカノフ……ッ」
その表情に深い皺が刻まれてゆく。瞳は険しく、瞳の奥で憎悪の念が暴れていた。
数多の討伐依頼を受けつつ、探し続けていた仇敵。それがついに――!!!
引き攣った顔が、自然と笑みに変わってゆく。
「あぁそれ、ようやく棲家が発見されたんですって。でも誰も受けたがらないんですよ。……まぁ当然ですけどね。」
カインに歩み寄ってきた受付嬢が、ため息を吐きながらそう告げる。
突如飛来しては、人里を襲う邪竜。地図から抹消された街や国は数知れず、永い調査の末にようやく棲家を探し出したのだという。しかし高額な懸賞金で討伐依頼を出したはいいものの、誰も請け負おうとしないそうだ。
それは当然だろう。戦士であれば、その凶暴性を知らぬ者はいない。死ぬことが分かっていて、ヤツと事を構えようとする愚か者はいないだろう。……ただ一人を、除いては。
「……これを受けさせろ。」
ボードから依頼書を剥ぎ取りながら、カインは震える声で告げた。恐怖による震えではない。これは、念願が叶う事による歓喜の震えだ。
「え、ちょッ、正気ですか?相手はあの岩炎竜ですよ!?カインさんの実力は知っていますけど、でもそんな事をしたら、」
受付嬢の制止の声を遮るように胸倉を掴むと、低い声で、もう一度告げた。
「これを、受けさせろ。」
その眼は憎悪どころではない。怒りを抑えきれない、復讐者の眼をしていた。
――今ここで断れば、背中の大剣で断ち切られてしまう程に。
その眼圧に威圧され固唾を飲むと、受付嬢はゆっくりと頷いた。
そうして討伐依頼を受けたカインは、ヴォルカノフが潜むという、南西の切り立った渓谷へと訪れていた。
どうやらここはドラゴンたちの棲家のようだ。カインの目的はヴォルカノフ討伐だが……しかし事は、そう簡単に進まないようだ。
「ぐ、ぅ………ッ!?」
大剣を盾に、「ズザザザッ」とカインは地面の上を滑ってゆく。
カインに襲い来るは、“ニルグェック”と呼ばれる、三体のドラゴンだった。
“ニルヴェック”は小型のドラゴンで、全長は成人男性と大差ない。普段は温厚だが、縄張り意識が非常に強く、自身のテリトリーを害した生物には執拗に追い回し、集団で襲い掛かる。
ドラゴンたちは飛翔すると、勢いよく滑空し、姿勢を正そうとするカインに牙を突き立てようとする。
カインは大剣を振り被ると、襲い来るドラゴンたちを薙ぎ払おうとする。しかし急旋回して躱されてしまい、いつの間に背後に回ったのか、鋭利な爪で背中を引き裂かれてしまう。
「がぁ……ッ!?」
激痛に怯むことなく、カインは遠心力を利用して大剣をぶん回し、ドラゴンの一体の腹を断ち切る。ドラゴンは苦悶の声を上げるが、しかし次の瞬間には、断ち切ったはずの傷が、まるで筋繊維を縫合するようにうねうねと再生されてゆく。
「気味が悪い、これもヴォルカノフの影響か……ッ!」
ここはいわばヴォルカノフの縄張りであり、おそらくここに住まうドラゴンは、ヴォルカノフから漏れ出る魔力によって一時的に身体能力が強化されている。いわば、ヴォルカノフと同等か、それに近しい凶暴性を得てしまっている。小物だと侮っていたが、これでは……!
「埒があかん……ッ!」
身を翻してドラゴンの顎を躱しながら、カインは息も絶え絶えに叫んだ。
一体ならともかく、三体同時はこちらに分が悪すぎる。
カインは振り下ろされた爪を大剣で受け止めると、ドラゴンの横っ面を渾身の力で蹴り飛ばした。一瞬怯んだその隙に大剣を地面に突き立てると、押し出すように上空へ高く飛び、ドラゴンの首めがけて大剣を振り下ろした。強化されているとはいえ、鱗の硬さまでは変わらない筈だ。
背中の裂傷が激しく痛むが、おかまいなしに大剣を叩きつける。
「ズシャリッ」と、斧のような刃が、ドラゴンの首を断ち切った。頭部を失ったドラゴンは、ヨタヨタと崖の方へ進むと、そのまま力なく奈落へと落ちていった。
「……まずは、一体!」
行きつく暇もなく、カインは大剣を構えるために振り向こうとする。
が、振り向こうとしたその瞬間、残ったドラゴンの一体がカインに突進を仕掛けてきた。
――タチの悪い事に、背中の深い裂傷に、だ。
「ギッ…………ッッッ!?」
屈強な肉体と忍耐力を持つカインだが、こればかりは耐えられなかった。手にしていた大剣を、思わず手放してしまう程に。
背中から脳天にかけて、抉られるような激痛が走り抜ける。
受け身を取る余裕もない。思わず突き飛ばされたカインの巨体は、そのまま崖を飛び越え、渓谷の奈落へと落下していった。
宙に身を投げ出されたカインは、あまりの激痛に、そのまま意識を失った。
…………。
どれほどの時間が経過しただろう。
倒れ伏していたカインは、頬に滴り落ちた水滴で意識を取り戻した。
「う、ぅ……ここ、は……~~ッ!」
身を起こそうとしたカインだったが、下半身から走る激痛に、思わず苦悶の表情を浮かべた。
見ると、両脚共にあらぬ方向に折れ曲がっていた。どうやら地面に落下した際に、衝撃に耐えきれずへし折れてしまったらしい。
痛みに耐えながら、大剣を探して周囲を見渡す。どうやらここは洞窟のようだという事がわかった。視界の届く範囲には、大剣は見当たらない。
「先の攻撃で紛失したか。」
満身創痍で身動きが取れず、武器もなくした。……この状況は非常に拙い。
胸の内に焦燥感が湧き出るが、しかし理性で無理に押し殺す。まずは出来ることからだ。
カインは懐から宝石を取り出すと、背中の裂傷に押し当てる。すると暖かな感触と共に、傷がゆっくり、ゆっくりと塞がってゆく。
簡易的な治癒魔法を彫り込んだ魔石だ。カイン含め、人間は魔法を使えない。だからこういった媒介に精霊の加護を刻み、魔具として扱うのだ。
これならば裂傷程度の傷は治癒できる。しかし、この両脚のようなひどい骨折までは治癒できない。
カインは周囲を見渡し、大樹の太い根を見つけた。何故こんなところに、とは思うが、おそらくはこの洞窟から養分を吸い、渓谷の底に自然を形成しているのだろう。
「……背に腹は代えられぬ、か。」
カインは這うように、両手を手繰り寄せて大樹の根へ近づくと、一番硬い根を掴み、力任せにへし折った。
次いで明後日の方向を向いた脚を掴むと、覚悟を決めて、グインッ!と無理やり正位置に曲げた。
「~~~~~~~~~ッッッ!?」
想像を絶する痛みに悶絶し、あやうく舌を噛みそうになる。意識が飛びそうになるが、根性でなんとか保つ。
震える手で衣服を引き裂くと、先ほど確保した根を脚にあてがい、布で固く結んだ。簡易的な応急処置だが、無いよりはましだろう。
「…ふ、ぐぅッ……次は、左か。」
カインは震える手で反対側の脚を掴むと、先ほどと同じように強引に曲げた。
あとは同じように添え木で固定すると、カインは洞窟の壁面に背を預けて脱力した。
「ぜ、はぁ……はぁ……。」
肩で息をしながら、カインは今後の事について考えていた。「今後の事」とおうのは、要するにどうやって、この洞窟から脱出するかだ。
とてもじゃないが、この脚では徒歩の脱出は不可能だ。となると体力が回復次第、這って進むことになる。……最悪の結末が脳裏に過るが、しかしカインは首を横に振った。
「俺にはまだ、成さねばならない事がある。……こんな所で死ねん。」
幸いなことに鎧の下には携帯食料がある。心もとないが、食糧問題はなんとかなるだろう。体力はそれで補給すればいい。
故にカインは、這ってでも洞窟を出る決断を下した。
移動を始めてから、どれほどの時間が経過しただろうか。
こうも暗いと、時間の感覚もつかめない。
「(俺は今、何処へ向かっているというのだ。洞窟の出口か。あるいは奥か……)」
一応は空気の流れに従って進んでいるつもりだが、しかし確信は持てない。確信は持てないが、進まなけれなならない。
そうして這って進み続けると、妙に開けた場所へ出た。
そこは巨大な空洞だった。水源はともかく、洞窟の中だというのに花や草木が自生している、なんとも神秘的な空間であった。
そしてその花々に囲まれるようにして―――純白の巨大なドラゴンが鎮座していた。
「――――ッ!?」
カインは咄嗟に背中に手を伸ばすが、大剣は紛失した事を思い出した。そもそもこの体たらくでは、臨戦態勢は取れやしない。
緊張が走る中、頭を垂れて鎮座していたドラゴンが頭を上げ、こちらに向けた。
カインは頬を引きつらせるが、しかし何かがおかしい。このドラゴンからは、敵意や殺意といったものをまるで感じられない。それどころかこちらを見つめる双眼は優しい眼差しをしている。まるで静かな海のように、春にそよぐ風のように、穏やかな視線をカインに向けている。
「……ほう、貴様は人間か?こんな“あなぐら”の奥底で会うとは、よもや珍しい事があるものじゃ。」
酷くしゃがれた声で、純白のドラゴンは言葉を紡いだ。
カインの中の警戒心が、驚愕に変わる。これまで数えきれないほどのドラゴンを屠ってきたが、人語を介するドラゴンなど会ったこともなければ、聞いたこともない。
得体のしれない存在に、カインの警戒心がますます強まる。
それを察したのか、ドラゴンは声を上げて笑った。
「ふぉっふぉっふぉ。そう警戒するでない、人間よ。儂は『穏便派』じゃ、貴様ら人間と事を構えるつもりなど、毛頭ないわい。」
「ドラゴンの戯言など、俺は信じぬ。」
「信じてもらわねば困るのぉ。……してお主、何故如何様な場所に?その様子を見るに、迷った、などとは言うまい。」
対話を試みようとするドラゴンに困惑しながらも、カインはこれまでの経緯を話して聞かせた。
自身がドラゴン討伐専門の戦士だということ。
『岩炎竜ヴォルカノフ』討伐の依頼を受け、ここまでやってきたこと。
しかし凶暴化した別の竜に襲われ、ここに落ちてきたこと。
この洞窟の出口を探していること。
全て話す必要はなかった筈だが、しかしこのドラゴンを前にすると、自然と口から出てしまう。そんな、不可思議な雰囲気を纏っていた。
「成程のぅ。……しかし残念ながら、あの暴君はもうここにはおらぬぞ。いや、正しくは『もうこの世には存在しない』じゃがな。」
「……いや待て。貴様は一体、何を言っている?」
「あやつは儂が喰い殺した。あやつの動向は目に余るでの、『穏便派』として静観しておったが、あやつはやり過ぎたのじゃ。街を、人を欲望のままに喰らい過ぎた。故に儂が制裁を加えてやった、ということじゃよ。」
ドラゴンは一通り告げると、ふぅと鼻孔から息を吐きだした。
『穏便派』――凶暴なドラゴンとは異なり、人との交流を望み、あわよくば共存関係を築こうと試みる一派だ。
だが今は、そんなことはどうだっていい。
仇敵の結末を知ったカインは、放心してしまった。……死んだ?ヴォルカノフが、死んだというのか?これまで奴への復讐心だけで生きてきたというのに、その奴は、俺の知らぬところで死んだというのか?
「待て、そんなことが認められるものか。信じられるものか。」
壁に背を預けたまま、カインはドラゴンに叫ぶ。
その表情は焦燥に染まっており、征くべき道を見失った赤子のような眼をしていた。
「では、俺の復讐はどうなる!?行き場を失ったこの怒りは、どうしろというのだ!?」
「……復讐、か。その口ぶり、さてはヴォルカノフが滅ぼした人里の生き残りか。それは済まぬことをした。しかしの人間、儂らドラゴンにも事情があるのじゃ。あやつはやりすぎた。過ぎた行いは、儂らの手で自ら始末をつけなければならぬ。」
語った後にグルルルと喉を鳴らすが、しかしカインの耳には話が入ってこなかった。
ただ茫然と、空虚な感情が心を支配する。故郷を、両親を、妹を殺した仇敵は死んだ。それ自体は喜ばしいことだ。
喜ばしいことだが、しかし、なら、俺のこの燻った怒りと悲しみはどこへ向ければいいんのだ?
それから、長い時間が経過した。
沈黙を破ったのは、純白のドラゴンだった。
「どうじゃ、落ち着いたかの?」
「…………あぁ。」
壁に背を預けながら、カインはただ一言だけ返答した。
やり場のないこの感情はともかく、最も憎き仇敵はこの世からいなくなったようだ。なら今は、それを祝福する事こそが最善と言えよう。ここから無事戻ったあかつきには、家族の墓前で報告をしよう。
ドラゴンはため息をつくと、
「のう人間よ。ここで出会ったのも何かの縁じゃろう。一つ、頼まれごとをしてくれんか。」
「断る。何故俺が、憎きドラゴンのいう事を聞き入れなければならない?」
「この傷を見よ。」
と、ドラゴンはこちらの意見を無視して話を続けた。なんて図々しいやつなんだ。
チラリとドラゴンの方を見ると、巨体の至る箇所に傷や火傷、牙で貫かれたであろう傷跡が見られた。特に背中から腹部にかけて、一際大きい深い裂傷が刻まれている。
「主の仇敵との戦いで負った傷じゃ。……老いもあるが、この傷では、儂はもう助からん。」
「そうか。」
「お主もその体たらくでは、しばしの間は身動きが取れんだろう。……そこでじゃ、儂が事切れるその時まで、主が話し相手になってくれんか。」
「……何故俺が、そんなことを。」
そうは言うが、しかしこのドラゴンがいう事は最もである。事実、この脚ではしばらくは動けない。ここに留まり、このドラゴンと生活を共にする以外の選択肢はないのだ。
ドラゴン憎しという感情は消えないが、しかし今は、その意見を飲むしかあるまい。
「………、好きにしろ。」
そういうと、カインは腕を組み仮眠をとることにした。
純白の老竜は「ふぉっふぉっふぉっ」と鼻で笑った。
「儂の名は“イーラ”と呼ぶ。お主はなんと呼ぶ?」
「………カイン、だ。」
老竜“イーラ”は、再び「ふぉっふぉっふぉっ」と鼻で笑った。
こうして一人と一頭は、しばしの間、生活を共にすることとなった。
かたや、脚の怪我が治るまで。かたや、その命の灯が消えるまで。
憎しみに囚われた戦士と、人との共存を望む竜は、言葉を交わすこととなった。
それから一か月の間、色々なことを語り合った。……まぁ、その殆どが、イーラによる一方的なコミュニケーションではあったが。
まず話したのは、ドラゴンの派閥問題についてだ。
イーラのような『穏便派』は、基本的には争いを好まず平穏を好むという。異なる生命体――つまるところ『人間』にも友好的であり、『良き隣人』として共存関係を結ぶことを望んでいるのだという。
対してヴォルカノフは『激昂派』だという。本能に従い感情的に、争いと破滅を望む。竜こそがヒエラルキーの頂点とし、『人間』は下等な生命体、または食料程度の認識だそうだ。
「当然ながら、我々『穏便派』と『激昂派』は相容れぬ存在。争いは好まぬが、時として奴らと敵対することもあった。此度の戦いも、ヴォルカノフの残忍な行いの数々に耐えきれず、敵対したと言っていい。」
「『穏便派』と『激昂派』……信じられん話だな。俺たち人間からすれば、貴様らは全て獰猛で狡猾なドラゴンだ。人類の敵……そして、俺の敵だ。」
携帯食にかぶりつきながら、カインは淡々と告げた。……暗に、「お前も俺の敵だ。」と告げるように。
それを察してか、イーラは「ふぉふぉふぉ」と身体を震わせた。
「無理に信じよ、とまでは言わんよ。人間とドラゴンの軋轢は永い。友好的なドラゴンがおると述べたところで、それは到底信じられぬことだと、儂はそれを熟知しておるよ。」
それから、お互いが見てきたものについても語り合った。
イーラはかの情景に思いを馳せるように、遠い目をしながら語る。
「儂らドラゴンは永い時を生きる。故に、色々なものをこの眼で視てきた。共存を夢見、人間との交流を試みたこともあった。まぁ、お主が以前言うように失敗に終わったがな。他にも妻を人間に狩られ、『激昂派』に寝返った友もいた。……そういえば、友たちと大空を飛び、世界を渡ったこともあったのう。生まれたての赤子を、誰が愛でるかで拳をぶつけ合った事もあったかの。……カイン、お主はこれまで何を見て、どのように生きてきたのじゃ。」
イーラは首を傾けると、カインの方にその眼を向けた。
だんまりを決め込もうとするが、じぃぃぃ……とコチラを見つめてくるので、根負けしたカインは口を開いた。
「俺は、復讐ばかりの人生だった。故郷を焼かれ、家族を奪われたあの日から。あの憎きドラゴンを殺す事だけを考え、鍛え、依頼をこなし、ドラゴンを、殺して…………、」
そこで言葉を紡ぐと、カインは鋭い瞳を泳がせた。
今思えば、俺にあったのはドラゴンに対する憎しみだけであり、ドラゴンを殺す事だけだった。仇敵を探しながら、怒りに任せてドラゴンを殺し、殺し、殺し……いつからか、付いた異名は「竜殺し(ドラゴンバスター)」。俺にはそれ以外、何もない。
俺の目の前にあるのはドラゴンの躯の山と、その遥か先に佇む、両親と妹の幻影だけだ。
カインはため息を吐くと、組んでいた腕をほどいた。
「ただ、ドラゴンを殺すためだけに人生を捧げてきた男だ。……故に俺には、何もない。」
カインはそう締めくくるが、イーラはしかし、別の事を考えていた。
ふむ、と目を細めると、その大きな顎を開き、カインに……いや、竜殺しの戦士に問いかけた。
「『竜殺し』……もしやと思っておったが、お主、大剣を携えておらぬか?」
「あぁ。ドラゴンを殺す事に特化した大剣だ。」
「やはりか。……カイン、いや『竜殺し』よ。貴様は覚えておらぬだろうが、儂の妻は、お主に殺されたんじゃよ。」
「…………ッ!」
覚えているとも。あれは、イーラのように純白のドラゴンだった。日の光を浴び、反射して煌めく純白の毛並みは、敵ながら見惚れるほどだった。
カインは深く、ゆっくりと息を吐くと、自身の脚を見た。覚悟を決め、イーラの方を見る。
「俺を、殺すか。」
ドラゴンを殺す以上、殺される覚悟も心得ている。特に今は得物もなく満身創痍の身だ。
同じ、家族を奪われた身だからこそわかる。愛する妻を殺され、その仇敵を前にした今、イーラは殺したい程に憎んでいるはずだ。
カインは瞼を閉じると、深く深呼吸した。
「構わん、覚悟はできている。……俺を、殺せ。」
「………殺さんよ。」
イーラは堪えるように歯ぎしりするも、しかし落ち着いた口調で、言葉を続ける。
「儂はな、ずっと憎んでおった。最愛の妻を無残にも殺し、あげくは原型の残らぬほど肉体を貪った者を。探し出して引き裂いて、嚙み砕いて、業火にて灰にしてやろうと。心の奥底で、その事ばかり考えておった。お主と同じように、復讐を、とな。」
「なら、何故そうしない。貴様なら容易なはずだ。」
「容易だとも。今、尻尾を一振りすればお主は吹き飛び、衝撃で絶命するじゃろうな。……じゃが、儂はそれはせん。」
「だから、何故……ッ!?」
ズグンッと、両脚に激しい痛みが走った。添え木を外してズボンを捲ってみると、パンパンに腫れあがっていた。患部は激しい熱を持ち、まるで針金で掻き回されているような、激しい痛みを感じる。
ここでは適切な処置は出来ない。放置しても悪化してゆくだけだ。……最悪、両の脚を切断するしか手段はない。
と、ノーラはおもむろに手を伸ばすと、カインの患部に爪を添えた。鋭い爪先を中心に、魔法陣が展開される。するとみるみるうちに、脚の痛みが和らいでゆく。
「治癒の術じゃ。本来は先立つ仲間たちへ、最期くらい痛みがないようにと使う術じゃが……。骨折までは治せんが、炎症くらいなら治るじゃろう。」
「……な、ぜ。」
「カイン、お主へ復讐心がないと言えば噓になる。しかしの、復讐は新たな復讐を生むだけじゃ。今ここでお主を殺せば、確かに儂の気は晴れるかもしれん。しかし人間は報復として新たにドラゴンを狩るじゃろう。……そうして始まった戦争を、儂は世界各地で何度も目にしてきた。……その結末は、言わずとも分かるな。」
爪先を離しながら、イーラは悲しそうな顔でそう告げる。
両脚の腫れは引いていた。再び添え木を巻きながら、カインはイーラの言葉の意味を理解した。
復讐の連鎖と、終わらない報復戦争。人間同士の戦いと同じで、行きつく先は、人間対ドラゴンの大規模な戦争となる。その結末がどうなるのかは……想像に難くない。世界各地で結末を見たと言っていたが、おそらくは両陣営全滅したのだろう。
「なら、許すとでも言うのか?貴様の妻を殺した人間を、俺の所業を、総て許すとでもいうつもりか?」
「あまり図に乗るなよ、人間。」
グンッ、と。目と鼻の先に、イーラの顎が突き出された。鼻息が直に感じられる。少しでも下顎を動かせば、カインの身体を嚙み千切れるほどの距離だった。
牙から唾液が垂れ、カインの頬にベトリと伝う。
……しかし、イーラから敵意は感じられない。
「許しなどせぬ。……許しはせぬが、この憎しみは腹の底に飲み込もう。お主のためではない。復讐の連鎖を止め、共存の未来へ繋ぐためにじゃ。」
「……そうか。」
ゆっくりと、イーラは顎を引いて、再び丸くなる。やはり敵意は感じられない。その眼に宿るのは復讐心ではなく、これからの未来――イーラの言葉を借りるのであれば、人間とドラゴンの、共存の未来を映し、それを見据えた眼だ。
カインは顔に垂れた唾液を拭いとると、ため息を吐いた。
「……イーラ。あんたはその、強いな。」
「伊達に永く生きてはおらんからのう。」
「俺は今も、憎い。仇敵であったヴォルカノフは死んだ。だがそれでも、あんたらドラゴンに対する憎しみは消えやしない。……こうしている今も、俺の心の奥底で燻ったままだ。」
言いながら、カインは自身の頭を掻いた。
仇敵を失った今でも、ドラゴンという種に対する憎しみは消えやしない。たとえドラゴンを狩りつくしたとしても、この憎しみの火種は消えないだろう。
……今の俺は、イーラのように強くない。この憎悪を飲み込み、ともに歩むだけの勇気がない。
「カイン、お主は我らとの共存は出来得ると思うか?」
「……そんな未来があるなら、確かに素晴らしいことだ。」
カインは壁に背を預けると、己の手を見下ろした。これまで何度も剣を握り、数多のドラゴンの血を吸った、そしてこれからも血に濡れるであろう、己の手を。
「だが難しい未来だ。『穏便派』だの『激昂派』だのは人間にとってどうでも良いことだ。……ドラゴンは総じて恐ろしい存在。先に狩らなければ、こちらが狩られる。それが人類の共通認識だ。」
「なら、お主がその第一人者になればよかろう。」
「……本気で、言っているのか?」
カインは思わず身体を起こした。両脚がズキリと痛むが、そんなもの構わずに動く。
人と竜の共存、その第一人者に俺がなれと言っているのか?これまで数多のドラゴンを屠ってきた、『竜殺し』なんて呼ばれている俺にか?
カインの問いに、イーラは「ふぉふぉふぉ」と笑いながら、
「だからこそじゃ。それに、お主なら『そういう未来』に繋ぐことは容易じゃろうて。」
「何を根拠に、」
「今もこうして、儂と対話が出来ておる。……成り行き上の関係じゃが、こうして生活を共に出来ておる。それが何よりの証明じゃよ。」
「……あまり俺をかい被るな。それに今のこの状況は、お前が俺に頼んだことだろう。」
「おや、そうだったかのう。」
そう言うと、イーラは初めて聞く音を立てて笑った。
それからもイーラとカインは、幾度と言葉を交わした。
この洞窟を出たあと、カインはどうするのか。
お互いの酒の好みの話。
空を飛ぶとは、どういう感覚なのか。
人間の文化と、ドラゴンの文化の話。
人間とドラゴンとが共存する、未来の話。
そして、イーラとヴォルカノフの戦いと、その結末についてだ。
「儂が赴いた時点で、既にあやつは遥かに弱っておった。あやつは自身の意思とは関係なしに、内なる魔力を垂れ流してしまうドラゴンでな。長らく拠点に帰っていないのか、魔力枯渇を起こしているようじゃった。儂が奇襲を仕掛けるには好条件じゃった。」
崖上から奇襲を仕掛けたイーラは、飛翔して逃げられないように、初手で翼を噛み千切ったという。次いで爪で眼を潰し、喉を噛み潰した。――-が、喉に食らいついたところで、ヴォルカノフは巨大な手を振り回し、爪でイーラの背中から腹部を深く抉ったのだという。
「返り討ちに負傷こそしたが、喉を潰されたドラゴンはブレスを吐けなければ呼吸もできぬ。翼をもがれ空へも逃げられん。奴はそのまま、静かに死んでいったよ。」
「これがその証拠じゃよ。」と、イーラは何度かえずくと、巨大な肉片を吐き出した。それはかつてこの眼で見た、憎きドラゴンの肉片だった。鱗の色から形まで、確かに記憶にあるヴォルカノフのものだ。
「……そうか」
カインは噛みしめるように呟くと、静かに天を仰いだ。イーラから話には聞いていたが、実物を見るまでは実感を持てずにいた。実はまだ生きているのでは、と。
しかし今、ようやく実感を得た。直接手を下すことは叶わなかったが、それでも。
頬に、静かに涙が伝う。
「……この肉塊、貰ってもいいか?」
「構わんぞ。儂の胃袋の中で保存しておこう。ドラゴンの唾液には滅菌作用があるからの、腐敗はせんじゃろう。……儂が死んだその時、切り開いて持ち帰るがいい。」
「イーラ。」
カインは老竜の……いや、友の名を呼ぶと、頭を下げた。
「……ありがとう。」
「ふぉふぉふぉ。構わんよ、我が友よ。」
いつも通り鼻を鳴らして笑うイーラに、カインはふっと微笑んだ。
この場所にきて以来……いや、『あの日』から数えて、初めての笑顔だった。
この洞窟に落ちて、イーラと出会ってから、二か月が経過した。
最初こそ食糧問題をどうするか悩んでいたが、イーラの魔力の影響だろうか、洞窟内では植物が育ち、果物や木の実などを都度摂取できた。
カインの骨折も、イーラのおかげで早く治った。治癒魔法では骨折までは治らないとは言っていたが、毎日欠かさずかけてくれたおかげで治りが早まったらしい。
長らく動かなかったせいで筋肉は落ちたが……まぁ、街まで歩くぶんには困らないだろう。
そして…………。
カインは池で顔を洗うと、白い老竜の元へ向かった。
今まで座りながら見上げていため、随分と大きく感じたが、こうやって立って歩けるようになっても、イーラの肉体はやはり大きかった。
手を伸ばして鱗に触れてみると、まるで加工された大理石のように滑らかで硬く、しかし温もりと鼓動を感じられる。
「イーラ。まだ生きているか?」
その声に、イーラはのそりと身体を揺らした。
この洞窟に落ちて、イーラと出会ってから、二か月。
長いようで短い関りをもった老竜の命は、今まさに消えようとしていた。
「“大丈夫。まだなんとか、生きておるよ。……そこにおるのか。”」
「あぁ。」
カインの脳内に、聞きなれた声が響く。イーラには口を動かす元気も残されておらず、ここ数日は思念で会話していた。そして昨日はいよいよ、視力を失った。
ドラゴンを看取るとはこういう事なのかと、イーラの鱗を優しく撫でながら思う。
「“カインよ。”」
「なんだ。」
「“約束を守ってくれて、ありがとう。”」
消え入りそうな震える声で、イーラは告げる。……本当にもう、長くはないのだろう。
「“最期までこうして、君と語らうことが出来て、儂は何より嬉しく思う。”」
「ああ、俺もだ。ありがとう。」
「“カイン、儂が死んだ後の話じゃ。……儂の亡骸で、武具を作るがいい。鱗で鎧と盾を、爪と心臓で剣を、骨でナイフを、翼膜でマントを。--何者かを傷付けるためではなく、何者かを護るための武具を。”」
「……分かった、そうしよう。復讐のためではなく、護るための武具を作ろう。」
イーラは頷くように頭を上げると、見えていない筈の彼方を見つめるように、じっと固まった。
「どうした、イーラ」
「“……カインよ、最期の頼みじゃ。儂には孫娘がおる。美しく、争いを好まぬ優しい子じゃ。あやつと共に、人竜共存の道を作ってほしいのじゃ。人と竜とが歩み寄る、二人がその橋渡しを――…………、”」
少しずつ、霞んでいくように。カインの頭の中から、イーラの思念が消えた。
憎きドラゴンであり、友であったイーラは、その瞬間に眠りについた。
「――去らばだ、友よ。」
冷たくなってゆくうろこに手を置いたまま、カインは静かに、涙を流した。
カイン・アルバは、二か月ぶりに日の光を浴びた。
「~~~~ッ!」
洞窟の暗闇の中で、二か月も生活していたのだ。暗闇に目が慣れてしまって、久しい太陽の光は刺激が強かった。
右手で傘を作るカイン。その左手には、老竜の胃袋を加工して作った荷袋が握られていた。中には老竜の亡骸から剥ぎ取った鱗に爪に牙、翼に骨に心臓と、そしてヴォルカノフの肉塊。袋に入る限りの素材を、ギチギチに詰め込んだ。
携帯していた小型ナイフで剥ぎ取るのは随分骨が折れたが、これだけの素材があれば、イーラとの約束は果たせるだろう。
そして、もう一方の約束は――、
「――来たか。」
頭上から気配がする。こちらへの殺意がまるで隠しきれていない。
眩しさに目を細めながら、カインは頭上を見ると同時。一頭の竜が、カインの目前に降り立った。
純白の、美しい毛並みのドラゴンだった。太陽の光に反射して煌めくその毛並みは、つい見惚れてしまう程だった。
ドラゴンは咆哮を上げると、カインに襲い掛かろうとする。
「待て!……お前、イーラの言っていた孫娘か?」
そう言うと、こちらを噛み砕こうとしていた顎がピタリと止まった。
ドラゴンは唸り声を上げながら、憤怒の感情を抑えるように答えた。
――その瞳は、憎しみと悲しみが混在して潤んでいた。
……俺もかつては、同じ眼をしていたのだろうか。
「そうだ……!貴様が、おじいさまを殺した人間かッ!」
「確かにイーラは死んだ。だが、俺が殺したわけではない!」
「しらばっくれるな!ならその手にある袋はなんだ!!おじいさまの匂いがするその袋は!!」
「これは……まぁ、聞いてくれ。」
そう告げると、カインはこれまでの経緯を話して聞かせた。
ヴォルカノフを追ってこの渓谷に来たが、別のドラゴンの襲撃にあって奈落の洞窟に落下し、怪我をしたこと。
這うようにして洞窟を彷徨っていたら、空洞で眠るイーラと出会った事。
カインの怪我が治るまで、そしてイーラの命が尽きるまで、話し相手になっていたこと。
二か月もの間、生活を共にし、やがて友となったこと。
カインの怪我が治り……そして、イーラの最期を看取ったこと。
「そして、イーラの孫娘……お前と共に、人と竜とを繋ぐ架け橋となる。それが、あいつとの最後の約束だ。」
カインは身構えながら、ドラゴンにそう語り掛ける。
イーラとの対話を経て、少なくとも『穏便派』のドラゴンは人間に友好的だと知った。だが胸の奥で長く燻っていたドラゴンに対する憎しみと警戒心は、完全に消えたわけではない。
何かあればすぐ動けるように。そう思い身構えていたが……一人と一頭の間に、長い長い沈黙が続く。
ドラゴンのその眼は、こちらを見定めているようであった。
先に沈黙を破ったのはドラゴンの方であった。
ドラゴンはカインの横に歩み寄ると、腰を低くして屈み、クルルクルルと喉を鳴らした。
「街まで行くのでしょう?乗ってください。」
「……いい、のか?」
「おじいさまは貴方に託しました、我々と人間の未来を。……私は、おじいさまと貴方を信じてみようと思います。」
「……そうか。よろしく頼む。」
カインはドラゴンの背に跨ると、首を優しくなでた。イーラとは違い、孫娘の方は白い体毛に覆われており、少しひんやりとしていた。
股の間に挟むように荷袋を抱えると、遥か彼方――街があるであろう方角の空を見つめた。
「俺はカインだ。」
「……私は、フィレアです。」
「そうか。……行こう、フィレア。」
純白の若竜――フィレアはコクリと頷くと、カインを乗せて大空へはばたいた。
あれから、二〇年もの歳月がたった。
ドラゴンと人間の因縁は未だ根強く、老竜が願っていた未来にはまだ程遠い。
しかし確かに、着実にゆっくりとだが、お互いは歩み寄り始めている。
その証拠に、ドラゴンと人間の共存する国や地域が、数はまだ少ないながらも存在するようになってきた。
復讐に人生を捧げ、憎しみに溺れていた『竜殺し(ドラゴンバスター)』はもういない。
代わりに、この地に立っていたのは――。
「ねぇねぇ、『護人』のおじちゃん!」
道行く子供から話しかけられて、男は振り返った。
男は兜を外すと、子供と目線が合うように、その場にしゃがみこんだ。
「……俺か?どうした、小僧。」
「おじちゃん、他の『護人』と違う鎧なんだね?すっっっごく、かっこいいね!!!」
「……くはっ。」
一瞬呆気にとられた男は、声を上げて笑うと、少年の肩をポンポンと優しく叩いた。
「ありがとうな。……こいつは、大切な友からの贈り物なんだ。あいつも喜ぶよ。」
「なぁ、フィレア。」と。傍らに佇んでいた純白のドラゴンの胸を撫でた。