りーいん・かーねーしょん?前世から妻がついてくるンですけど(シリアスバージョン)
全力疾走ε≡≡ヘ( ´Д`)ノ
貴族の娘として生まれた私はある日馬車に撥ねられそうになった――その瞬間だった。鈍い衝撃と共に胸の奥に何かが走った。蘇ったのは異世界で男として生きた記憶。自由を求めて旅をし気ままに女を口説き、最後は田舎道で獣に襲われて死んだ、あのどうしようもない人生だ。
「は?」
思わず漏れた言葉に、馬車の御者と侍女は心配そうな顔を向けたけれど、それどころじゃない。私はかつて“男”だった。そして、あのうざったい従姉妹――カミラが、前世で私の三番目の妻だったのだと、ようやく思い出した。
カミラとは物心ついた頃から一緒だった。生まれた日も数ヶ月しか違わず、周囲からは「仲の良い姉妹みたい」と微笑まれた。
でも私は彼女の“視線”が嫌だった。どこにいてもいつも私を見ている。笑えば笑い、怒れば黙り、黙れば泣く。まるで鏡のように私の感情を追いかけてきた。
「いつもくっついてこないでって言ってるでしょ!」
「あら、私が一緒にいると困るの?」
喧嘩ばかりになったのは、十歳を過ぎた頃からだ。私の中に自由を求める苛立ちが生まれたとき、彼女の目はなぜか冷たくなった。
それでも彼女は離れなかった。誰かと仲良くすると、その人に嫌がらせをした。馬の鞍に毒草を仕込まれたこともあるし、相手の部屋に蛇を放ったのもきっと――。
「怖いのよ、貴女の執着が」
「そう。じゃあどうして逃げないの?」
「逃げてるわよ!」
「ふふ、それでも見つけてあげる」
前世の私は気まぐれな旅人だった。国を渡り歩き、愛を交わし、女たちに囲まれて生きていた。三番目の妻――カミラの前世は、無口で従順、だが常に私の後を追い、どんな街でも見つけてきた女だった。
「……またお前か」
「貴方の妻だから、当然でしょう?」
そう言って、どこまでも私を追ってきた。あの女の執念を私は笑っていた。少し恐ろしくて、それでも嬉しかったのだ。
だが転生して、同じ女として生きて、ようやく気付いた。
あれは愛なんかじゃない。呪いだ。
私が彼女と決定的に距離を置いたのは、十五の年。
父の仕事で都に上がった私は前世での親友――ドディと再会した。彼もまた転生者だった。互いの正体に気付き、夜通し語り、そして静かに惹かれていった。
「昔のお前はいつも自由で気まぐれでいたな。でも今のお前は違う」
「今の私は地に足をつけて生きたいのよ。一人の人を愛していきたいの」
ドディとの結婚は夢のようだった。私は祝福され、彼と共に穏やかな日々を歩み出した。
だが。
結婚式当日、花嫁衣装を着た私にカミラはこう囁いた。
「また逃げるの?」
「……私の人生よ。あなたのものじゃない」
「じゃあ、どうして私の夢を奪うの?」
彼女は笑っていた。だがその目は涙で濡れていた。
その後、カミラは誰とも結婚しなかった。美貌も教養もあったのに縁談をすべて断り続けた。行かず後家と陰口を叩かれても気にした様子はなかった。
「また手紙が来てるわ」
「捨てなさい。読まない方がいい」
「でも、封の裏にこう書かれてたの。“私はここにいるわ。いつでも、あなたの背中を見ている”」
ドディはそれを聞いて、深く息を吐いた。
「……前世でもそうだったよな、あの女」
「ええ。いつも私の影の中にいた」
私は幸せだった。夫と愛を育み子を授かり、家族に囲まれて生きた。カミラがその中に入り込まないよう、注意深く距離を置いた。
でも何度でも彼女は姿を現した。
「久しぶりね。あなたの娘、可愛いわね」
「カミラ……いい加減にして」
「また逃げるの?」
その問いは呪いのように繰り返される。
それでも私は前へ進む。あの人がどれだけ追ってきても。
そう、たとえ来世でまた出会うことになったとしても。