表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

《第1章:止まった時計と夢の声》



目を開けたとき、弥生は広場の中心に立っていた。

靴の下で、大理石が冷たく光っている。広場を囲む建物たちは、まるで眠るように沈黙していて、どこか遠くから、鐘の音だけが響いていた。



 目の前には、黒ずんだ巨大な時計塔がそびえている。針はもう、どれほどの時間も動いていないのだろう。


それでも弥生には、それが“見張っている”ように思えた。



 空は墨を溶かしたように曖昧で、星の位置さえ定まっていない。

街の灯がかすかに揺れている。その明かりの一つひとつが、人の記憶の残響であることを、弥生はまだ知らない。



 「……またここなの?」


 呟いた声は、まるで水底に沈むように静かに消えた。



 夢のなかでだけ訪れるこの都市――夜都。

それが現実なのか幻想なのか、彼女には判断がつかない。けれど、ここには“確かに何か”がある。そう確信している。



 床の大理石のあいだから、泡のように何かが浮かび上がる。それは、ぼんやりと光る淡い記憶の断片。

手を伸ばすと、ふっと消えた。



 「何を、思い出せばいいんだろう‥‥。」



 声に出した瞬間、空気がわずかに震えた。

そのとき――


 どこからともなく、音楽が流れた。懐かしい旋律。けれどそれが何の曲かも、誰の声かも思い出せない。

ただ、心の奥が、強く締め付けられる。



 「君がすべてを思い出すとき、夜は終わる」

 

 あの声が、また囁いた。


 弥生は立ち尽くしたまま、止まった時計を見上げる。


 時は、まだ動かない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ