表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/25

《序章:記憶の風が吹くとき》




風が、どこか遠くで囁いていた。



それは言葉にならない音だった。けれど、確かに弥生の耳に届いた――まるで、忘れかけた誰かが、記憶の奥から呼びかけてくるような。



 彼女は目を閉じたまま、ゆっくりと呼吸する。夜の空気は冷たく、けれどどこか懐かしい匂いがした。アスファルトのようでもあり、土のようでもあり、夢でしか嗅いだことのない匂い。



 気づけば、そこに“街”があった。



 灯りはある。人影のようなものも歩いている。けれど、そのどれもが、どこか輪郭を失っている。


 名前も、時間も、言葉さえも忘れてしまった街。


 ただ、彼女は知っていた。この場所に来たのは初めてじゃない。ずっと昔に、夢のなかで幾度も見た場所――それが、「夜都」。



 時計塔は止まっていた。高く、静かに、天に突き刺すように建っている。まるで世界の“時”そのものが、この街では意味を持たないかのように。



 とある瞬間、どこかで音楽が流れた。


 それは弥生にしか聴こえない旋律だった。優しくて、切なくて、どこか痛みを含んだ音。


 ――君がすべてを思い出すとき、夜は終わる。


 遠くから、そんな声がした。



 少女はゆっくりと歩き出す。迷いのなかで、確かに何かを探すように。


 夜都の中心、忘却広場へと。


記憶の綻びから零れ落ちた夢が、彼女をもう一度、夜へと連れ戻す。


忘れていたはずの声が、名もなき闇の奥で、静かに彼女の名を呼ぶ。


――そして、夜がまた始まる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ