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五、前向きに考えれば終わりは新たな始まり

 昨日起きた惨劇を誰しもが口にするが、どれもが箱や紙の向こうの話し。

 危険はすぐ傍に寄り添うようにいるのに、目が合わなければ自分には関係ないとばかりに人々は噂する。


 それは当事者であっても例外ではなくあまりにも現実離れした出来事に信じられない、いや信じたくないという思いの方が強いからかもしれない。


 ただ一人、一番中心にいてここ数日身の周りに起きた出来事から、悪夢を見るかもしれないと怯えて目をつぶれば、見たのは小柄な少女にキスをされ挙げ句告白される夢ということに悶える少年がいた。


「僕って思っていたよりも図太いのか、それともただのバカなのか……」


 自身の図太さと愚かさ具合に自問自答しながら壮介は、登下校の学生たちを守るため警戒する先生と保護者が立つ道を通って学校へと向かう。


 ***


 教室に入るとクラスメイトたちは、昨日の惨劇の噂を口にし「学校が休みになればいいのに」という言葉で締める会話を交わしている。


 そんな噂を避けながら席に座った壮介が今日の日課を揃えていると、教室が一瞬静かになり視線が集まったのを感じ顔を上げる。


 皆の視線の先にいる番傘を持った少女は、自分の席に壮介のものとは比べものにならないくらい薄い鞄を机の横にかける。


 そのまま椅子に座ることなく、キョロキョロして壮介を見つけると結んだ髪をぴょこぴょこさせながら近づいてくる。


 ただでさえ皆の注目を浴びている柊依が、昨日「舐めると甘い」などと言ってキスをした壮介に近づくことは注目を集める行為でしかない。


 もちろん壮介もそのことは理解しており警戒していたのだが柊依はいとも容易くそれをかい潜って、気づけば壮介の頬に手を当て親指で唇に触れる。


「腫れてないな。昨日強めに吸ったから気になっていた。反省だ」


 そう言って柊依は壮介の唇を親指でさする。


「ひ、柊依ちゃん……吸ったってどういう意味?」


 皆の前で柊依にさすられ固まる壮介の代わりに、近くにいたクラスの女子が興味深く、そして慎重に尋ねる。


「ん? 甘いやつの唇から吸ったんだ」


「それって柊依ちゃんが、藍鞣(あいなめ)君の唇に触れて吸ったってこと……であってる?」


「おう、あってる」


 柊依が自信満々に即答すると、女子たちから黄色い悲鳴にも似た歓声が湧き上がる。


「ねえねえ柊依ちゃんは藍鞣(あいなめ)君のこと好きなんだよね?」


 一人の女子の質問に柊依はもうなにも言わないでくれと目で訴える壮介をジッと見るとすぐに大きく頷く。


「好きだ」


 即答する柊依にガックシと肩を落とす壮介に対して女子が盛り上がる。そして男子も負けじと壮介を囲み脇腹を突っついたり、肩を揺らしたりしながら帰国子女である柊依と、どこで知り合ったのかと尋問が始まる。


藍鞣(あいなめ)君のどこが好きなの?」


「どこ? 甘いとこかな」


「甘いって、甘い恋愛ってこと? 意外に藍鞣(あいなめ)君って積極的なんだぁ」


 男子に尋問されながら聞こえてくる女子と柊依の会話を止めることはできず、むしろ誤解は大きくなっていく。


「ど、どこまでしたの?」


「どこまで?」


 自分で質問しておきながら耳まで真っ赤な女子の言葉に柊依が首を傾げる。


「ほら、昨日胸を触られたとかなんとか……だからね、ほら?」


 もじもじする女子の質問の意味することが分かった壮介が手を伸ばして阻止しようとするが、男子によってそれは叶わず柊依は自分の胸に手を当てる。


「胸? ああ、柊依がぎゅっとしたら、ムギュって触ってきた」


 この一言は柊依と壮介の甘い恋愛の中で行われた戯れ、つまりはイチャイチャしてるカップルの行為であると皆の認識を一致させる。


「お前! キスやらなんやらぁ〜うらやまっつ。いいやけしからん!」


「壮介、裏切りやがってぇ〜!!」


 男子に揉みくちゃにされながら壮介は、自分の平凡な学生生活が終わりを告げてしまったと泣きそうになるのだった。

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