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鬼喰らう蛇  作者: 功野 涼し


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四十九、流行りのお守りを探しに行くだけなのにこの仕打ち

「ふぅ~」


 学校の廊下を歩きながらため息をついてしまった壮介は窓から外を見る。よく晴れた空にほどよく浮かぶ薄い雲の下に広がる芝生と背の低い植木の生えた中庭を瞳に映す。


「しょーねん!」


 いきなり背後から背中を叩かれ窓ガラスに突っ込みそうになった壮介だがなんとか踏みとどまる。


「いきなりなんですか?」


 壮介が振り向くとしてやったりとニシシと笑う坂井の姿があった。


「こんなにいい天気なのにため息をつく若者がいたから気合を入れてあげたの」


「若いって坂井さんは僕と一つしか変わらないですよね」


 壮介がジト目で見ると坂井は頬をかいて苦笑いをする。


「まあまあ、細かいことはいいとして何か悩み? お姉さんが聞こか?」


「あ~いや、大丈夫です」


「あぁ~! 今、私を見てコイツには相談してもダメだって思ったでしょ!」


「い、いえいえ! そんなことないですって!」


 昨日勉強会の途中で倒れた芽吹が目を覚ましたが、壮介の顔を見て再び倒れてなぜか妹の志乃と母親に責められてしまったこと。おそらく原因であるはずの柊依が我関せずで漫画を読んでいたこと。そんなドタバタな休日を思い出してため息をついてしまったとは言えるわけもなく断ったのだが、坂井はズイズイ近づいてきて壮介に圧をかける。


「本当に大丈夫です。今日は月曜日なんでなんとなくだるいなーって感じでため息をついてしまったんですよ」


「うーんまあその気持ちは分かるけど……」


 壮介を疑いの目で見ていた坂井だが、ふと何かを思い出したのか鎖骨(さこつ)の辺りに触れる。そして何かを摘まむと引っ張り始める。


 坂井がスクールシャツの中から引っ張り出した細い管を掌に載せると壮介に見せてくる。


「これは?」


藍鞣(あいなめ)くん若いのに知らないなんて、トレンドについてこないとこの情報社会を生きていけないぞ~」


 そう言ってニシシと笑う坂井は管を摘まむ。それはボールペンほどの太さで竹のような素材で作られている。


「今流行っているお守りなのよこれ!」


「これお守りなんですか? 珍しい形をしてるんですね」


「でしょ! 願いが叶うとき蓋が開いてお知らせしてくれる便利機能付きで、成就率100パーセント‼」


 拳をグッと握って掲げる坂井がドヤ顔で壮介を見る。


「便利機能って言い方が気になりますけど、100パーセントってそんなに凄いお守りなんですね」


「そうなの! 効果抜群って凄い人気なんだからね! これを手に入れるのに苦労したわけよ〜」


「へぇ~そうなんですね」


「おおっその感じ、藍鞣(あいなめ)くんも欲しくなったな?」


「あ、いえ別に……」


「もー隠さなくていいから。よーし、お姉さんが特別に売っている場所に連れて行ってあげよう!」


 強引に誘ってくる坂井に腕を掴まれ逃げようとするが、結構な力を入れているのか逃げれない壮介が観念して坂井の顔を見る。


「手に入れるのに苦労するのに売っている場所に連れて行くっておかしくないですか?」


「鋭いね! さすが藍鞣(あいなめ)くん。秘密の場所があってそこにはときどき置いてあるんだ」


「秘密の場所? それってすごく怪しいんですけど」


 疑いの目を向ける壮介に対して坂井は両手と首を横にを振って必死に否定する。


「怪しくないって! カフェの雑貨コーナーに置いてあるんだもん」


「うーん、入手困難なのになんでそこにはあるんです?」


「そ、それは……そこが凄いんだよ。ほらっ秘密の入手ルートとかあるんじゃない? ってその顔は私をバカにしてるな」


 頬をわずかに膨らませ不服そうな表情を見せる坂井に、やや呆れた表情をする壮介は少し考える素振りを見せる。


「分かりました。そのカフェに行きたいので案内してもらえますか?」


「え? ホントに! じゃあ早速今日とかどうかな?」


 不服そうな表情から一変、ぱあっと笑顔を見せた坂井が指をパチンと鳴らして壮介に向ける。


「あっ、もう一人連れて行ってもいいですか?」


「もう一人?」


 壮介の言葉に笑顔から一変、誰のことか勘付いた坂井は嫌そうな顔をする。


 ***


「よっ、お前が坂井か」


「えーそうですよ。私が坂井ですよー。って言うか前に会ったでしょ」


 手を挙げて挨拶をする柊依から顔を逸らして挨拶をする坂井の姿が放課後にあった。


「壮介そのすごいお守りとやらはどこにあるんだ?」


「それを今から買いに行くんだって」


「ふむ」


 なるほどと頷く柊依を見て呆れる壮介の肩を坂井が突っつく。


「ねえ、なんでお守りを買いに行くの?」


「あぁ……いやそれがですね」


「壮介が芽吹に買ったからだ。柊依にはないと言われれば欲しくなる」


 口ごもる壮介を押しのけて入ってきた柊依の発言に怪訝そうな表情の坂井が首をかしげる。


「芽吹? えーっとそれ何?」


「壮介の嫁の一人だ」


「嫁? 一人?」


「うわわわわっ! こ、これには深い事情があってですね」


 柊依の発言に対し大きく反応する坂井に焦った壮介が割って入る。


藍鞣(あいなめ)くんがそんなに慌てるなんて怪しいぃ。これは何かありますな」


 ニヤニヤと笑みを浮かべる坂井に肩を掴まれた壮介が喉を鳴らして唾を飲み込む。


「さあ~藍鞣(あいなめ)くんの秘密をお姉さんに話してみなさい。大丈夫、どんなことでも受け入れてあげるから恥ずかしがらずに、さあ!」


 捕まれた肩を揺らして圧をかける坂井になされるがままに振られる壮介は顔を逸らしたまま口を開く。


「実は……」


 妖のことは伏せて柊依の実家との婚約を強制され、その際に分家の子たちとの婚約も結んだことを簡潔に話す。

 初めこそ興味深そうに聞いていた坂井だが、段々と表情が暗くなり好奇心からジト目へと変わった目で壮介を見る。


「うわぁ……ドン引きだわぁ」


「う、受け入れるって……うぅ……はぁー」


 さっきと言っていることが違うことにツッコミを入れたい壮介だが、強く出れないゆえにため息をついて肩を落とす。


「ま、まあ頑張れ少年!」


「何をですか」


「え、えーっと……色々だよ。細かいことを気にするのはいけないと思うぞ!」


 坂井がやや引きつった笑顔で壮介の肩をパンパンと叩いて慰める。そんな二人のやり取りを見ていた柊依が壮介に近づくと肩を叩く。


「そうだ頑張れ」


「うぅ……」


 柊依の適当な慰めに壮介は更に項垂れてしまう。

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