四十六、お守りは既に持っていたようです
丸いちゃぶ台を囲んだ壮介たちは湯呑を置いてひと息つく。
「芽吹氏のお守りを買いに来たと言うわけだな」
そう言いながら里己は芽吹が持ってきたお守りリストに目を通す。
「……ちと多くないかの? 交通安全や家内安全、無病息災などはまあよしとして、昇進昇格や合格祈願は必要なのか?」
里己の問いに芽吹はコクコクと首を縦に振る。
「う~む、戌咲神社は名前の通り犬を祭っておるのじゃ。どちらかと言えば安産祈願などを主とする神社なのじゃが」
「あ、安産祈願⁉」
目をまん丸にして聞き返す芽吹に里己は大きく頷く。
「そうじゃ。妾たちの立場を考えれば有益なお守りかもしれんのじゃ」
お茶を飲みながら言った里己の言葉に芽吹は隣に座っている壮介の方を見る。
「う……あ、安産……」
「えっ……えーっと」
顔を真っ赤にしてあわあわする伊吹に見られ、何を言っていいのか分からない壮介もあわあわしてしまう。そんな二人を見てため息をついた里己が咳ばらいをする。
「そもそも伊吹氏はなぜにお守りを求めるのじゃ?」
「はっはい……わたしそのっ……自信がなくてうじうじしてますし、それに運も悪いです……だからその、心の拠り所があったら頑張れるんじゃないかなって……思ったんです」
「お守りを拠り所にのぅ。そもそもお守りと言うのは願いを叶えるものではなく、己の願いに向かう手助けをしてくれるものじゃ。足りないものを埋めるものではないのじゃぞ」
里己の説明に芽吹はしょんぼりとして下を向いてしまう。
「壮介殿から輪入道の話を聞いたが、芽吹氏は役割を果たしたのじゃろ? 寅霧家でのことは分からぬがもう少し自信を持っても良いと思うのじゃが」
「あっ、あれは……その……」
そう言って芽吹は自分の髪を結んでいるシュシュに触れる。
「それは誰かからもらったのかの?」
「えっと、はい。壮介様にいただきました……」
シュシュに触れながら恥ずかしそうに言う芽吹を見て里己はふっと優しく笑う。
「ここの神社に世話になっている身としてはお守りを売った方がいいのじゃろうが、芽吹氏はもっといい物を持っておるから必要ないじゃろうて」
里己の言葉の意味が分かった芽吹がハッとした表情になりシュシュに手を触れたまま恥ずかしそうに頷く。
「と言うわけじゃ。壮介殿からもらったお守りを大事にしておくといいのじゃ」
顔を赤くしてコクコクと頷く芽吹を見て微笑んだ里己が壮介の方を向く。
「壮介殿は優しいだけでなくまめなのじゃな。皆に贈り物までしておるのか」
「あ、いや皆ってわけじゃないんだけど……」
芽吹と柊依にプレゼントしたシュシュと髪留めのゴムを買ったときのことを思い出し、成り行きだったことを思い出すがシュシュに大事そうに触れる芽吹を見て言葉を飲み込む。
「だからその……里己さんと穂香さんにもプレゼントしようと思うんだけど」
しどろもどろになりながら話す壮介を里己が目を見開き見つめる。
「お主は何を言っておるのじゃ。なぜこの流れで妾たちにプレゼントを贈る話になるのじゃ」
「あ、いや柊依と芽吹さんにだけ渡して、里己さんたちに渡さないのは不公平だなって思ったんだ」
「はぁ~、なんだ? つまり今の会話している中でそんなことを思ったというのか。なんとも律儀と言うか真面目と言うか……そもそも今の状況を普通に受け入れている壮介殿は一体何を考えておるのか分からんのじゃ」
大きなため息をついた里己が口ごもる壮介を見て言葉を続ける。
「妾も一般常識と言う世界からは離れて生活しておったから偉そうなことは言えんがの。突然このような状況になってそれを受け入れられている壮介殿に驚きを感じてしまうがの」
「受け入れられているかは正直分からないよ。初めこそ断れば家族に危害を加えるって言われたし、怪我を治してくれた恩からってのが大きかったけど……」
そこまで言った壮介は隣に座る芽吹と向かいにいる里見を順に見て言葉を続ける。
「芽吹さんや里己さんの境遇や気持ちを聞いたら不安なのはお互いそうだし、僕が嫌々言ってたら皆を不安にさせてしまうだけだなって思ってるだけだよ」
「なるほどの……」
壮介の言葉を最後まで聞いた里見が顎に手を置き少しの間思考したのち口を開く。
「この間は壮介殿のことを弱っちいとか言ってすまなかったのじゃ。そのような考えに至る者は弱いわけがないからの」
「いやいや、僕は全然戦えないし足手まといだし。妖を呼ぶ餌くらいしか使い道ないし」
深々と頭を下げてお詫びの言葉を述べる里己に対して、懸命に否定する壮介を首を横に振って里己が否定する。
「現に妾は嫁入りするのが壮介殿で良かったと安堵しておるのじゃ。それは壮介殿が弱くて頼りないのであればこの気持ちは芽生えぬはずじゃ」
里己の言葉に壮介の隣にいる芽吹も何度も頷いて賛同する。
「でなければあの柊依に懐かれまい」
「前から気になってたけど里己さんが知っている柊依って、今とそんなに違うの?」
「そうじゃの。冷たいと言うよりは全てに興味がないと言った方が表現としては正しいかもしれんのぉ。まあ会ったとは言えども試合の中で少し会話を交わしたくらいじゃから偉そうなことは言えんのじゃが」
里己の話を壮介が頷いて聞いていたとき壁にかけてあった鳩時計が四回鳴いて時刻を知らせる。
「おおっと話し込んでしまったのじゃ。社務所の掃除をしたいがゆえここらで話を終えてもよいじゃろうか?」
「ああ忙しいのにごめん」
「いや、妾にとっても実のある話だったゆえ有意義な時間じゃった。また時間があったら来てほしいのじゃ」
「うん、また来るよ。あ、それとさっきのプレゼントの話だけど、里己さんの空いてる時間を教えてもらえる?」
「なぬ、本気なのか? 妾には必要ないのじゃが……だがそうじゃの、壮介殿の好意を無下にはできぬの。分かった、妾の予定を後で連絡するのじゃ」
里己の言葉に壮介は笑顔で頷く。別れの挨拶を交わして壮介と芽吹を見送った里己は自分の胸に手を置く。
「プレゼントか……そんなものをもらったことはないの。だけども少し楽しみな妾がいることに驚きじゃな」
そう言って優しく笑うと、いつの間にかやって来て里己の足に体を寄せる神楽の頭を撫でる。




