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鬼喰らう蛇  作者: 功野 涼し


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四十五、社を尋ねて

 いつの世でもお守りと言うものはあらゆる世代の願いを聴き、不安から身を守るものとして遥か昔から存在してきた。


 災いや未知なる存在から身を守りときに願いを手助けするお守りは、色々な形に姿を変えて今も近くで皆を守っている。そんなお守りを求めて神社にたどり着いた二人は(やしろ)へと伸びる階段を見上げる。


 ***


 竹ぼうきで神社の敷地を掃いていた里己が手を止める。


「なんじゃ二人そろって」


 里己の視線の先には壮介と芽吹がいた。


「お仕事中だった? 姿が見えたから挨拶に来たんだけど」


「律儀じゃの。仕事と言っても妾が勝手にやっておるだけじゃから気にするでない。どれ、お茶くらい出すのじゃ」


「そんな悪いよ」


「なんじゃ急ぎか? 妾としてはせっかく来てもらったのじゃからもてなしたいのじゃが」


「う、う~ん。そう言われると断りづらい。じゃあ用事を含めてお茶をいただこうかな。芽吹さんもいい?」


「あっ⁉ はっはい! そ、壮介様がおっしゃるならお供します!」


 ビクッと体を震わせて必死に答える芽吹に苦笑いをしたまま壮介が口を開く。


「僕の言う通りにしなくてもいいから。芽吹さんが言いたいことがあったら言ってもいいよ」


 優しく言う壮介の言葉に戸惑う芽吹の目が泳ぐ。


「妾は芽吹氏とは出会って日が浅く偉そうなことは言えんのじゃが、壮介殿はもっと距離を詰めてもいい……そうじゃのぉ、もっと甘えてもよいと言うことだと思うのじゃが、違うかの?」


「あまっ、甘える⁉ わたしが壮介様にですかっ⁉」


 両手を突き出して首をブンブンと振る芽吹を見て里己がふっと笑う。


「言っておいてなんじゃが、妾もやり方は分からんのじゃがな。っと立ち話もなんじゃ中に入って話そうぞ」


 そう言って笑う里己は先頭に立って歩きだす。里己について行く壮介たちは神社の境内を歩き、どこか可愛らしい顔をした狛犬の間を抜け(やしろ)から少し離れた場所にある小さな家に案内される。


「ここは戌咲家の分社(ぶんしゃ)での、邪を払ったとされる犬を祭っておるのじゃが……と、こんな話に興味はないの」


「ううん、神社やお寺を巡ったり歴史とか好きだから興味あるよ。」


 首を軽く振って答える壮介にわずかに目を開いて驚く里己だがすぐに表情を緩めるとふんわりと笑う。


「そうか、妾は一般の会話というのが苦手での、正直何を話していいのか分からんので助かるのじゃ」


 言葉を交わしながら通された座敷で座るように促された壮介たちは座る。時間の積み重ねを感じられる古い柱や畳はよく手入れをされており、古さが美しいなと思いながら壮介は部屋を見渡す。


「どれ、お茶を持ってくるから待っておれ」


「そんな気を遣わなくてもいいよ」


「いや、お客をまして妾の夫となる者に失礼はできぬじゃろう」


「う、う~ん。そんなに気にしなくてもいいんだけど。それじゃあ一緒に行くよ」


「わたしも! わたしも行きます!」


 壮介が立ち上がると芽吹も飛び跳ねんばかりの勢いで立ち上がる。そんな二人を見て里己は驚いた表情を見せる。


「……まあ壮介殿がそのように言うのであれば甘えるとするかの」


 里己が少し戸惑ったように言うのを芽吹が前のめりになって見つめる。


「あ、甘える……」


 芽吹は二人に聞こえないほど小さな声で呟く。


 三人で移動した場所は台所と言うよりは給湯室のようなこじんまりした場所で、小さな流し台と電気ポットや湯呑が並び端には小さな冷蔵庫が設置してある。


「そっちに茶葉があるはずじゃ」


 手を伸ばす里己の代わりに壮介が手を伸ばして茶筒を取る。時間差で手を伸ばした里己の肩が壮介にぶつかる。


「す、すまぬ」


「あ、ごめん。思わず手を出しちゃった」


 互いにぶつかって慌てる二人をじっと見ていた芽吹が手をぐっと握って再び前のめりで見つめる。


「距離を詰める……」


 熱い視線で見つめながら呟く芽吹を背に二人が急須に茶葉を入れお湯を入れる。


「機械の扱いにあまり慣れてなくての……すまぬ」


 里己がお湯を出すボタンが分からずに違うボタンを押したために再沸騰を始め、湯気を上げる電動ポットを見て里己が申し訳なさそうにしょんぼりする。


「あ~あるよね。使い慣れているポットでもたまにやってしまうし」


 頬をかき笑いながら言う壮介を目を丸くして見ていた里己だったが口元を押えるとクスクスと笑い始める。そんな里己を困惑した様子で見ながらあたふたしていた壮介を、顔を上げた里己は再びクスッ笑う。


「いやすまぬ。壮介殿のは優しいの、なんと言うか言葉にトゲがないのじゃ。あの柊依氏が柔らかくなったのも理解できる気がするし、芽吹氏も壮介殿が気になって仕方ないようじゃしの」


 里己に見られてビクッと芽吹が体を震わせる。


「そんなこと━━」


「そんなことあるのじゃ。こう見えて妾は神事に関わることが多くての、多くの人間を見て話してきたから人を見る目は少しはあるのじゃぞ」


 自分の言葉を遮った里己の真剣な目を前にして壮介はうなずいてしまう。ややのけ反った壮介をじっと見ていた里己だがふっと笑う。


「なんとも押しに弱い当主候補じゃの。周りが好き勝手しているのも納得なのじゃ」


「えっと……ごめんなさい」


「ふっ、謝るでない。褒めておるのじゃぞ。おかげでだいぶ気が楽になったのじゃ。芽吹氏もそうじゃろ?」


 里己に話を振られ芽吹が大きく何度も頷く。


「そう言うことじゃ。壮介殿はそのままであるのがいいのじゃ」


「本当にいいのかな……正直自信ないんだけど」


「少なくとも妾はいいと思うのじゃ。それで納得するかは壮介殿に任せるがの」


 ふっと笑った里己が電気ポットから急須にお湯をそそぎお盆に置く。


「持って行くよ」


 里己が手を伸ばすよりも先に壮介がお盆を持ち上げて給湯室から出ていく。


「あの優しさは自覚してるのか無自覚なのか……どっちにしろ妾としては夫となるのが壮介で良かったと安堵しておるがの。芽吹氏はどうなのじゃ?」


「わたっ、わたしも……壮介様で良かった……ですぅ」


 頬を赤くして下を向く芽吹を見た里己が微笑む。


「先人の意見が聞けてホッとしたのじゃ。さて、行こうかの」


 大きく頷いた芽吹は里己と二人で壮介のあとを追う。


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