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鬼喰らう蛇  作者: 功野 涼し


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四十四、新しい子に優しくないかといわれましても

 壮介の隣に座る里己は右足を曲げるのに難があるため正座ではなく足を投げ出している。向かいに座る穂香は正座で座っているだけで美しい所作を感じさせ、隣にいる芽吹は緊張した表情で姿勢を正そうとして背中が反ってしまい逆に姿勢が悪くなっている。

 そして二人の真ん中に座る柊依はあぐらをかいて漫画を読んでいる。


「あの……柊依、そろそろ話したいんだけどいいかな?」


「いいぞ」


 漫画を閉じた柊依が壮介を見ると、緊張からごくりと息を飲んだ壮介が口を開く。


「知っている人もいるとは思うけど、と言うか僕より皆の方が知っていると思うんだけど戌咲里己さんです」


「戌咲里己じゃ。この度本家からの命によって戌咲家からこやつの嫁になるためきたのじゃ。一応よろしくなのじゃ」


 壮介の紹介に続いて里己が挨拶する。やや気だるい感じの物言いに壮介はなんと言葉を続けていいか困ってしまう。


「里己様はあまり壮介様との結婚に前向きではないのですね?」


 微笑んだまま穂香がズバッと言うので、里己本人よりも壮介の方が毛が逆立つほど驚いてしまう。そして当の本人はあまり気にしていない様子で穂香の方を見る。


「そうじゃの。恋愛なぞしたこともないし考えたこともないのに結婚と言われても困るのじゃ。ほどほど妖祓いをやってのんびりと一人で生きていく人生設計をしておったから困っておるのじゃ」


 今の現状に壮介本人も困っているのだが、里己の心情を聞かされて何も言えず黙ってしまうしかなくうつむいてしまう。


「壮介は今の当主とは違って話は聞いてくれるぞ。お前がやりたいことがあれば言えばいいだろ」


 柊依の言葉に里己は隣にいる壮介を見つめる。


「まあ、それは分かるのじゃが……そうじゃな、悲観的な考えばかりしてもしかたないのじゃ。可愛げのない妾じゃがよろしく頼むのじゃ」


「えっ、あ、うん。その僕もよく分かってなくて迷惑かけると思うけどよろしくお願いします。あ、あと可愛げないとかないと思うよ、その可愛い……」


 里己からの言葉を受けて慌てて応えた壮介だが、途中で自分の発言の内容に気づき言葉を止める。信じられないとジト目で見る里己と目が合って、気まずさから目を逸らす壮介の顔を回り込んだ穂香が掴む。


「今なんとおっしゃろうとしました? 里己様を可愛いと言おうとしましたか? まあそれは認めましょう。ですがわたくしにそのような言葉をかけていただいたことはありませんが」


「あ、いや……」


 顔を逸らそうとする壮介だが、がっちりと掴まれ動かすことはできずそれどころか穂香に顔を近づけら圧をかけられてしまう。


「柊依は可愛いと言われるぞ」


 困っている壮介に柊依の余計な一言が添えられる。


「そうなんですか。壮介様はわたくしだけには言ってくれないのですね」


 悲しそうな顔をしつつも顔を両手で押しつぶす穂香によって尖った口をぱくぱく動かす壮介を見て柊依が口を開く。


「芽吹も言われたことないと言っているぞ。柊依はよく言われるがな」


 余計な一言を更に付け加える柊依の横で芽吹が涙目で壮介を見つめる。あまりに悲壮感の漂う視線に罪悪感に壮介はさいなまれてしまう。


「ここはハッキリさせてもらわないといけません。壮介様本音でおっしゃってください」


 穂香がパッと手を離し解放された壮介は頬を手で押えつつ皆を見る。なぜかドヤ顔の柊依、泣きそうな芽吹に微笑んでいるが圧の強い穂香、そして呆れた顔の里己を順に見た壮介は恥ずかしさから下を向いたまま必死に口を開く。


「か、可愛い……みんな可愛いです」


 羞恥心に耐えながら必死に絞り出した言葉だが皆の反応は薄く、沈黙する空気に耐えられず壮介が顔を上げると穂香が首を横に振る。


「それではまるで全員いるから可愛いと言うだけで、一人一人はそうではないと聞こえます。一人一人ちゃんと言っていただかないと」


 言いがかりに近い穂香の言葉に壮介も恥ずかしいを通り越してやけになる。


「穂香さんは可愛いです。芽吹さんも可愛いし、柊依も可愛い。里己さんも可愛いです!」


 顔を真っ赤にして言う壮介に穂香は満足そうに頷き、芽吹は壮介に負けないくらいに顔を赤くし、柊依はドヤ顔で胸を張る。


「お、おぬしらはいつもこんなことをしておるのか……」


 そして呆れて、と言うよりは困惑した表情で里己が壮介を見る。


「してないけど、流れで……」


「はぁ~なんとも……現当主様があのような感じじゃろ。それがいきなり当主候補を選ぶと宣下したから一体全体どんな人物かと警戒しておったが……何と言うか弱っちいのぉ」


「ううっ……自覚はある。そもそも僕は里己さんたちみたいに妖祓いでないから仕方ないと思うんだけど。当主候補なんて今でも意味分かってないし、なんで鬼の血が流れているだけでそんなことになるのか、由緒正しき家ならよそ者の僕を当主にするとか意味が分からないんだけど」


 思いの丈を口にした壮介を驚いた顔で見ていた里己だが表情を緩めて笑みを浮かべる。


「ふふふっ面白い人間じゃの。お主は当主になったら神坂家だけでなく各家々を好きにできるなどの説明は聞いたのじゃろ? 妖は下々に任せて自分は家におるだけで各界隈から富と名声を受け、それこそ金も女も好きにできると聞いて狂った候補者は多いと聞いておるがの」


「いや……別にそんな富とか名声とかピンとこないし、今の状況だって戸惑っているっていうか、里己さんたちに申し訳ないなって気持ちの方が強いし」


 ほとほと困ったと暗い表情で言う壮介を見ていた里己が他の三人を見てふっと笑う。


「なるほど、まあいいのじゃ。壮介とやらの人となりを少し知れて妾も少し気が楽になった。改めてよろしくお願いするのじゃ」


「うん、こちらこそよろしく」


 改めて里己と挨拶を交わした壮介は安堵のため息をつく。


「変な誤解されたままじゃなくて良かったよ。この前、くねくねのときの対応をする里己さんを見てすごく頼りになる人だって思ったからホントに助かる……」


 そこまで言って壮介が言葉を飲み込んだのは圧を感じたからである。


「壮介様、今の言い方はまるでわたくしたちの対応が頼りにならないような言い草ですね。ねえ柊依お嬢様、芽吹様」


「そう聞えた」


 穂香と柊依の圧と、泣きそうになる芽吹にも圧を感じて壮介はのけ反ってしまう。


「いや、頼りにはなるんだけど……」


「ど?」


 戦闘面では頼りになるけど、後処理がいい加減だとは言えず口をもごもごさせる壮介は三人からそれぞれ圧を感じて座ったまま後退りしていく。


「壮介、お前里己に甘くないか?」


「ええ、新しい子がきたらすぐに優しくする気がします。初期メンバーはこうやって捨てられて行くんですね」


「ひえっ……すて、捨てられるぅ……」


 つめる柊依にわざとらしく泣く穂香と、本気で涙を目に溜める芽吹に壁際まで追い詰められる壮介をお茶をすすりながら眺めていた里己が自分に寄り添う神楽を撫でる。


「想像していたのと違うのじゃ。これならなんとかやっていけるかもしれん」


 壮介がピンチとなりカオスな空気が支配する空間の横で、優しく微笑んで撫でる里己の手に神楽は頭をこすりつけ甘えほのぼのとした空気を生み出す。

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