四、恋してますねと妹はのたまう
壮介は自分のベッドの上に仰向けで寝転がって天井を見つめている。白い壁紙の天井には僅かな凹凸の模様があり、その線がどこで繋がっているかを目で追ったりしながら壮介は自分の唇に触れる。
叫びながら番傘を振り回していたとき噛んだのか、切れ目のある下唇の左側を振れた瞬間、壮介の顔が真っ赤になる。
「あぁ~、あれってやっぱりぃ」
ひっくり返るとベッドに顔を埋め、悶絶していた壮介がピタリと止まる。
「い、いやでもあれはキスというかなんというか……うわぁぁ」
下唇に触れ甘噛みされたときの感触を思い出し、再び悶絶する壮介は仰向けになると、赤くなった顔を押さえて頬をパンパンと軽く叩いたあと枕元に置いてあったスマホを手に取る。
しばらくの間スマホの光を顔に受けながら画面を見つめていた壮介は、深いため息と共にスマホを枕元へ置く。
「はぁ〜、ここ最近のあれはなんなんだろう? 化け物が存在しているって意味が分からないけど、それよりも神坂柊依って子の方がもっと意味が分からないんだけど……はぁー」
誰にも相談できないことを口にした壮介の独り言はため息に始まり、ため息で終わる。
「どうすればいいんだろ」
呟きながら再び唇に触れた壮介は熱くなった顔を手で仰ぐ。
「あぁ~なにやってもあの子の顔がぁぁ」
なにをやっても柊依の顔が浮かび、悶える壮介は枕を抱えてベッドで転がってしまう。
「なにやってるの?」
悶える壮介の耳に聞き慣れた声が飛び込んで来る。聞き慣れているが、自分の部屋ではあまり聞かない声だけに壮介は枕を頭にかぶったままそっと顔を上げる。
そこにはラベンダー色の半袖のトップスとショートパンツという、ルームウエアを着た少女が立っていた。
「志乃⁉ なんで僕の部屋に入ってきてるんだよ!」
「私ノックしたよ。何回ノックしても出て来ないから入ったってわけ。枕被って避難訓練の練習中?」
壮介が志乃と呼ぶ少女は枕を被ったままの壮介を不思議そうに見下ろしている。
「いや、違う……」
「まあなんでもいいけどさ。お母さんがずっと呼んでるのを無視しない方がいいと思うけど。ご飯だから早くおりてこーいって怒ってるよ」
「わ、分かった。すぐに行く」
「早く来てよ。私までお母さんに怒られるんだから」
壮介の返事を聞いた志乃はくるりと回ると部屋から出て行く。それを見送った壮介は体を起こすとベッドの端に座る。そのまま枕を横に置くと同時に下を向いてため息をつく壮介だが、視線に気づいてドアの方を見ると去ったと思っていた志乃が顔だけを覗かせていた。
口元を手で押えてニヤニヤとする志乃が口を開く。
「ふふふ、その顔は恋ですな。お兄ちゃん、ズバリ恋してますな」
「志乃⁉」
開きっぱなしのドアからニヤケ顔で覗く志乃目がけ、壮介が枕を投げるが志乃は素早く身を隠して避けてしまう。
「ふっふっふ、無駄無駄。恋する少年の攻撃など私には効きませんな」
敵役のようなセリフを残しそのまま立ち去る志乃にホッとしたのも束の間、すぐに壮介はハッとした表情になり立ち上がると慌てて志乃のあとを追う。
「あいつ、母さんに変なこと言うんじゃないだろうな。志乃! ちょっと待って!」
妹である志乃が母親に変なことを吹き込まないかを心配し壮介は、リビングのある一階へと急ぐ。




